二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 552章 暴君 ( No.808 )
- 日時: 2013/03/27 04:20
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
「レジュリア、アイスバーン!」
「テペトラー、氷柱落とし!」
レジュリアは凍てつく衝撃波を放ち、テペトラーも氷柱を落としてそれを防ごうとする。
だがテペトラーの落とした氷柱は衝撃波に突き破られてしまった。
「くっそ、ガンガン攻めて来るな……テペトラー、シャドーパンチ!」
テペトラーは拳に影を纏わせ、勢いよく駆け出した。
「迎撃です! レジュリア、放電!」
レジュリア広範囲に電撃を放射する。ただでさえ強大な電撃が広い範囲に放たれては、テペトラーではかわしようがないが、
「テペトラー、避けるのは無理だ! 突っ切れ!」
テペトラーはあえて放電に真正面から突っ込み、強引に突破して影の拳を叩き込んだ。
「やってくれますね……! レジュリア、サイコバーン!」
「かわせ!」
レジュリアはすぐさま念力の爆発で反撃に出るが、テペトラーも地面を蹴って跳躍。サイコバーンをかわし、レジュリアの後ろに回り込む。
「シャドーパンチだ!」
そしてすかさず影の拳でレジュリアを殴り飛ばす。効果抜群の攻撃なのでそれなりには効いているはずだが、レジュリアはむくりと起き上がる。
「母親が行方不明とか、父親が蒸発してたとか、あなたにも色々あったのでしょうが、それでも結局あなたは幸せ者です。大切な家族がいて、さぞ幸福なことでしょうね」
「ああ、そうだ。妹がいて、親父がいて、母さんも戻ってくれば俺たちは幸せだよ。それがどうした」
「そういうのが……そういうのがムカつくんですよ! レジュリア、サイコバーン!」
レジュリアは念力の爆発から衝撃波を放つ。その威力はさらに上がっている。
「あれはまずいな……テペトラー、とにかくかわせ!」
大きく横に跳んで、テペトラーは転がるように衝撃波を回避。さらに追撃に備えて素早く態勢を立て直す。
(こりゃヒステリー……いや、やっぱ違うか。あんまそういう言葉使うのも良くねえし、暴走とか発狂とかっつー方がしっくりくる。それと、こいつ、なんかあったぽいな……)
それがなんなのかは、レイの言葉の端々からなんとなく察せるが、詳細までは分からない。
そうこうしているうちに、レジュリアの追撃が飛ぶ。
「ハイドロポンプ!」
「ちぃ、もうかよ。かわしてスプラッシュ!」
発射される凄まじい勢いの水流をかわし、テペトラーは飛沫を散らしながらレジュリアへと突っ込んでいくが、
「サイコバーン!」
念力の衝撃波を放ち、テペトラーは容易く吹き飛ばされる。
レジュリアの猛攻が始まってから時間はあまり経ってないはずだが、テペトラーは相当消耗している。攻撃をかわすだけでも精一杯なのに、そこに無理をして攻めているのだから当然だ。ザキのテペトラーと言えど、そう長くはもたないだろう。
「にしても、どれだけ暴れるつもりなんだよ……!」
あまりの猛攻に、ザキは思わず愚痴る。するとレイは、耳聡く、
「あなたのせいですよ。あなたがいるから、わたしは……!」
「お前がなんだよ。なんか色々あったみてえだが、俺のせいにすんじゃねえ。自分に降りかかることは、大抵は自分の責任だろうが!」
パキンッ、と。
刹那、レイの中で何かが砕け散るような音がした。
「……! 知った風なことを! あなたに——」
それと同時に、レイは——叫ぶ。
「——あなたにわたしの何が分かるっていうんですか!」
「お前のことなんざ知るか!」
レイの悲痛の叫びを、ザキは怒声で一蹴した。
「なっ……!?」
そのあまりにも無慈悲で正直で、なにより予想外の返しに、レイも困惑する。しかし、ザキは構わず怒鳴り散らした。
「俺が敵のことなんざ知るねえだろ! なにが、わたしの何がわかるか、だよ! 自分勝手な物言いもいい加減にしやがれ馬鹿野郎が!」
今までなんとか理性で冷静さを保っていたザキ、は完全にキレていた。怒り心頭でレイを叱咤するかのように、それ以上に自分の心情をそのままぶちまけるかのように、とにかく怒鳴る。
「つーか自分のことを知って欲しいならまずは知ってもらえるような努力をしやがれ! 俺のお節介な大親友は友達になりたいとか青臭いことほざいてたけどな、拒絶されようと殴られようと歩み寄る努力を怠ったことはねえんだ! なのにお前は、自分のことを理解して欲しいとだけ思って何もしてねえじゃねえか! そんなんで自分のことを分かってもらえるだなんて思ってじゃねえ! 何もせずにわかってもらえるだなんて思うのはただの傲慢でしかねえんだぞ!」
「なっ、う……!」
ザキの激し過ぎる剣幕に気圧されるレイ。暴走というのなら、ザキこそ暴走しているかのようだ。
「前々から思っていたことだが、ようやく分かったぜ、お前にイライラする理由がな! そうやって縮こまってるだけで自分の言い分は分かってもらえるみてーなこと思ってる態度は昔の俺にそっくりだ! なんだかんだ言いながらも結局は分かってくれる奴が欲しかっただけじゃねーか! なのに何の努力もしないでよ! あーくそ! ムカつく、イライラする——!」
今にも暴れ出しそうなザキは、渾身の叫びで自分の怒りを相棒へと伝達する。
「ぶっ飛ばせ! スプラッシュ!」
テペトラーは激しい水流を纏ってレジュリアへと突っ込む。その勢いはレジュリアが放つハイドロポンプ以上だった。
「くっ、レジュリア、サイコ——」
レジュリアは念力の爆発を引き起こす——寸前で、一つの音が聞こえた。
ギリッ
レイの歯軋りの音が小さく響き、レジュリアは念力を止める。そして、
「——アイスバーン!」
凍てつく爆発を引き起こし、氷の衝撃波を放つ。
期待してしまったのだ。無駄だと思っても、淡い期待は捨てられない。それが自分の弱さだった。
レジュリアのアイスバーンと、テペトラーのスプラッシュがぶつかり合う。これでテペトラーが押し負けたなら、レイは自分の考えが甘かったと再認識することとなるだろう。けれど、もしテペトラーがこの凍てつく衝撃波を突き破ったなら、彼女は少しだけ、希望を持てるかもしれない。
そんなことを思いながら、レイは行く末を見据える。
テペトラーを覆う水流は、氷の衝撃波によって徐々に凍り付いていく。完全に凍りつけばテペトラーは終わり。そして、やがてテペトラーは完全に凍りついた。
終わった。レイは胸中でそう呟き、同時に落胆する。
——やはり、彼もわたしが求める何かを教えてはくれなかった。
氷の衝撃波にやられ、もう戦えないであろうテペトラーを見つめ、最後にとどめを刺そうとしたその時。
テペトラーを覆っていた氷が砕け散った。
「——っ!?」
レイは目を見開く。まさか、こんな状況でもまだ戦えるとは、夢にも思っていなかった。凍りついた時点で、もうやられていたと思った。
しかし彼、彼のポケモンは、凍りつこうがどうしようが、いつだって我が道を行き、突き進んでいる——
「テペトラー、インファイト!」
氷結を破ったテペトラーは、目の前のレジュリアを殴る。殴る殴る殴る殴る殴る、さらに殴る、とにかく殴る、殴り続ける。
その一撃一撃は重い。威力だけではなく、トレーナーの思いが詰まっている。レイにはそう感じられた。
最後の拳がレジュリアに叩き込まれ、吹っ飛ばされる。
「レジュリア……」
ゆっくりと目を閉じ、倒れるレジュリア。同時にレイも、かくんと、膝と手を着く。凍りついた地面は、酷く冷たかった。
「……お前は、昔の俺とそっくりだ。もうどうしようもねえくらいに、ダメになっちまってる」
ザキは四つん這いの姿勢で倒れているレイに歩み寄る。落ち着いてきたのか、まだ少々荒っぽいものの、さっきまでの怒気に満ちたザキではない。
「だが、安心しろ。俺はこうして、真人間……とはいかねえが、あの頃に比べればかなりマシになってる。俺の場合は親友が手を差し伸べてくれたが、お前なら必至に手を差し伸べれば、誰かはその手を掴んでくれるはずだ。まだお前にも、望みはある」
「わたしにも……望み……?」
レイは顔を上げた。そこにはもう怒りの感情はなく、涙を浮かべ、何かに必死に縋ろうとする少女のような姿があった。
ゲーチスは自分の力を求めていた。フレイは友達になりたいと言っていた。フォレスは自分を守ろうとした。サーシャは自分を慕ってくれた。
でも、
道を示してくれる人は、今までどこにもいなかった。
「……わたしでも、誰かの何かに、なれるんでしょうか……?」
「あ? さあな。まあ、必死になれば人間、大抵のことはなんとかできる。拒まれても諦めずにいれば、いつかは実るもんだ」
「じゃあ……」
レイはゆっくりと立ち上がる。そして懇願するように、しかしそれ以上に、自分が進むべき道を見つけた喜びに勇み、彼女は約十年ぶりの笑顔を見せる。
「じゃあ、ザキ、さん……あなたが——」
しかし大事なところで、怯んでしまう。しかし思い返した。彼はどんな逆境に当たっても、敢然と立ち向かっていったことを。
不器用な笑顔のまま、レイは、胸に溜めた思いを吐露する。
「——あなたが、わたしの唯一無二の人に、なってください……!」
「……は?」
一瞬の硬直。
そして、次の瞬間。
「はあぁ!?」
7Pレイ。
彼女は後にセッカの皇妃として、セッカの暴君、ザキと双肩を並べることになる、唯一無二の女性となるのだった——