二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 553章 魂魄 ( No.809 )
- 日時: 2013/03/27 14:49
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
(この感じ……今なら、本当の全力が出せる)
いつもの調子を取り戻し、リオの表情から陰りがなくなる。同時にシャンデラのオレンジ色の炎も、さらに燃え上がった。
「行くよシャンデラ。まずは大文字!」
シャンデラは巨大な大の字の炎を放つ。大きさも火力も、今までの炎をはるかに上回っている。
「ドルマイン、雷です!」
ドルマインも激しい稲妻を放ち、大文字にぶつける。
火炎と雷電が激しくぶつかり合い、お互いに一歩も引かずせめぎ合う。しばらくして、双方が同時に消滅した。
まだ、二体のパワーは互角のようだ。
「シャンデラ、連続でシャドーボム!」
シャンデラは影の爆弾を無数に生成すると、一斉にそれらをドルマインへと放つ。
「磁力線!」
ドルマインも磁力の波を放って爆弾を全て破壊してしまう。が、波は残らず、シャンデラに攻撃は当たらない。完全に相殺しきっている。
「ならばこれはどうでしょう? ドルマイン、アクアボルト!」
「サイコキネシス!」
電気を帯びた水流を噴射するドルマイン。シャンデラは強力な念動力で、襲い来る水流を真正面から打ち消した。
「スタープリズム!」
「マインブラスト!」
シャンデラは虚空から冷気を内包したガラス球を無数に降らし、ドルマインは周囲に激しい爆発を引き起こす。冷気は爆発で掻き消え、爆発も冷気で相殺される。
(どの攻撃もパワーは互角。それなら、作戦が重要になりそうね……向こうは錯乱してるし、隙を突くくらいなら出来るはず)
現状を冷静に分析するリオ。
「ふふっ、ははははは! まさか私がここまでしても、まだ壊れないものがあるとは……恐れ入りますよ。ドルマイン、この際仕方ありません。あれで決めてしまいましょう」
突如高笑いし出したエレクトロは、何かあり気にドルマインに指示を出す。すると、
「ドルマイン、不発のマインブラストです」
ドルマインはその場で高速回転するが、それだけで何も起きない。爆発も電撃も発生しない。
ただ、回転するごとにドルマインの体色が少しずつ赤みを帯びている。まるで内側から飛び出しそうな熱気を必死に抑えているかのように。
「っ! まさか……」
「そのまさかですよ……!」
やがて、ドルマインの回転が止まる。ドルマインは全身が熱されたように真っ赤に染まっていく。
そして、
「ドルマイン、雷!」
直後、ドルマインが弾け飛んだ。
回転による発電と、マインブラストで発生したエネルギーの貯蓄。ドルマインの体に圧縮されたエネルギーを解放し、その負荷を耐え切れず、ドルマインは弾けた。
なんにせよ、ドルマインから放たれたのは途轍もない破壊力を持った稲妻だ。今まで見たどの電撃よりも凄まじい。それは理想を司る龍、ゼクロムの雷撃に匹敵するほどだ。
「っ……シャンデラ!」
迫り来る稲妻に気圧されながらも、リオとシャンデラは、持てる限りの力を全て解放する。
「シャンデラ、大文字!」
オレンジ色に煌めく大文字の炎が放たれる。大きさ、火力もさることながら、こちらも凄まじい勢いで放たれた。
火炎と稲妻の双方が激突する。が、二つの攻撃は競り合わない。勝敗はすぐに着いた。
シャンデラの炎が、雷を飲み込む。
しかも炎は止まらず、雷に続いてドルマインも飲み込み、戦闘不能にする。
だがこれでも、シャンデラの炎は止まらない。最大の火力で放たれた炎は、次なるものへと襲い掛かる。それは、
「……!」
エレクトロだった。
全てを燃やし尽くす炎は、エレクトロへと迫る。
「あ……シャンデラ!」
リオは流石にまずいと思い、叫ぶが、遅かった。
エレクトロも、シャンデラの魂を燃やす炎に飲み込まれる。
「う……」
その光景を目の当たりにし、リオはよろめく。
「手加減、出来なかった……」
当然と言えば当然だ。あれほどの電撃を放つドルマインに、手加減などしてられない。しかしそれでも、シャンデラの本当の炎は、リオの予想を超えるほどの火力であった。
リオの目の前には、轟々と燃える火の海が広がっているだけだった。
勝ったというのに、悔しそうな表情でリオはシャンデラをボールに戻す。その時だ。
(あ、あれ……?)
急にリオの体から力が抜ける。足は崩れ、視界も暗くなっていった。
激しいバトルが続き、心身ともにリオは疲弊していた。その上、最後はシャンデラやドルマインの攻撃で部屋は炎に包まれ、その熱気がさらにリオの体力を奪っている。
バトルの最中は気を張っているので何も感じなかったが、バトルが終わり、緊張の糸が解けた瞬間、リオが溜め込んでいた疲労感が一気に押し寄せる。
(これで、終わり……?)
なんの抵抗もできず、リオの意識は闇へと沈んでいく——
燃え盛る火の海から、一つの人影がゆらりと浮かぶ。
その人影は火の海から出ると、周りが炎上する中で倒れている金髪の少女へと歩み寄った。
「……リオ」
少女を見下ろし、ぼそりと呟く。
「それと、命を燃やす炎、ですか……ここで、終わりにするわけにはいきませんね……」
人影は少女を抱え上げる。そして、炎上し崩壊する大広間から、去っていった。
「…………」
大広間の手前の通路で、アキラは佇んでいた。その視線の先にあるのは、壁に空いた大穴。
その大穴を見つめていると、不意に後ろの扉が開く。
「……えーっと、キリハさん?」
開かれた扉から出て来たのは、キリハだった。
「なんで疑問形なのかは置いておくけど、君か。リオはどうしたんだい? 確か、一緒にいたと思うけど」
「リオなら、こっちの扉の先に。エレクトロとかいう7Pと、戦っているはずです」
「そうか……君は?」
「俺はさっきまでマオさんと戦ってたんですが……逃げられました」
しかしアキラは悔しそうな表情はしていない。晴れやかというわけでもないが、それでも比較的明るい感じだ。
「……リオは姉をプラズマ団から引き戻したかったみたいだけど、失敗しちゃったのか」
「ああ、いや。失敗というか……あの人はもう、プラズマ団からは抜けるそうです。でも、あれだけ対立しておいて、すぐに戻れるわけがないとか言って、どこかに行きました」
もう少し、時間が必要なんでしょうと、アキラは言う。
「そう……だったら次はリオだね。この扉の先だっけ」
キリハは視線を前の扉へと向ける。
「はい。でも、さっきまでガンガン爆発音が鳴ってたのに急に収まって……バトルが終わったとは思うんですが、リオも戻ってこなくて」
「となると、何かあったのかもね。リオが負けるとは思えないけど」
二人は扉をジッと見つめると、やがてその先の様子を確認すべく、一歩踏み出す。
しかし、
ギィ……
静かに重厚な扉が開かれる。そこから現れたのは、リオ——
——を抱えた、エレクトロだった。
「っ!? リオ……!」
「……!」
まさかの光景に二人は驚きの声を上げ、構えた。
しかしエレクトロは動じず、アキラへと歩み寄る。
「……どうぞ」
「は? な、おいっ……」
そして抱えたリオを、アキラへと移動させる。二人は意図の読めないエレクトロの行動に困惑するが、
「おいリオ、リオっ!」
「……大丈夫だよ。息はあるから死んではいない。たぶん、相当な疲労で体に負担がかかっているんだと思う」
真っ先に確認するのはリオの安否。二人とも、リオに大事がないと分かると、胸を撫で下ろす。
「……それよりも、なんであなたがリオを?」
キリハは疑念を抱き、鋭い眼差しでエレクトロに問う。対するエレクトロは、静かに告げた。
「……救われたのですよ、彼女に。正確には彼女の持つシャンデラの炎に、ですね」
「……?」
意味が分からないといった風に、アキラは首を傾げている。実際、エレクトロの言葉はそれだけだと意味不明であった。
「シャンデラの炎は魂を燃やす炎。その炎を受け、私のテロリストとしての悪しき魂は燃え尽きました……どうやら記憶を失った私には、過去の自分という魂、エレクトロとしての魂。二つの魂が存在していたようですね」
それを受けてさらに言うエレクトロだが、それでもなかなか二人は意味を解さない。しかし、エレクトロは多くを語らなかった。
エレクトロは踵を返す。
「……どこに行くんだ?」
「さあ……? どこでしょうね? 今の私には何も残っていません。過去の魂こそ燃え尽きましたが、記憶は戻りました。もうこの組織にいる理由もありません……そうですね、自首でもして罪を償いましょうか」
酷く無気力なエレクトロ。そもそもPDOとしては彼も国際警察に引き渡すつもりだったので、抵抗しないならそれでいいのだが、
「……なら、あなたもPDOに来ますか?」
「っ?」
「えっ?」
エレクトロもアキラも、驚きのあまり呆けたような表情をする。
「ほ、本気ですか?」
「うん、本気だよ。PDOはプラズマ団を倒した後、イッシュを復興させる組織にするつもりなんだ。そのための人材と思えば、いいんじゃないかな」
それに、とキリハは付け足す。
「これはヒウン統括の意志……だと思うんだ。リオは悪いプラズマ団を捕まえるって言ってた。でも、今のあなたは悪には見えない。だったら、僕らの仲間として引き入れても、問題はないはずだ」
リオの名前が出たからなのか、アキラは諦めたように溜息を吐き、
「……そういうことなら、いいんじゃないすか。そもそも俺はPDOじゃないし、リオがいいならそれで」
快諾した。
あれよあれよと進む話に、エレクトロは少しだけ微笑んだ。
「……貴方たちも、大概変人揃いですね。私はそれでも構いませんが……それでもけじめとして、短期間でも服役だけはするつもりですよ」
「いいよ。それであなたの気が済むのならね」
こうして7Pエレクトロの、PDO入りが決まった。
これが、過去の魂が消え今の目的もなくなった彼の、再出発の時である——