二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 561章 大穴 ( No.826 )
- 日時: 2013/03/29 14:42
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
「! これは……!」
ザートとのバトルを終えたイリスは、突如起こった揺れに違和感を感じ、大急ぎで外へと出た。
すると、そこには広大な樹海が広がっている。周囲を見渡す限り、空中都市が着陸したのは岩山のようだ。
「まだ半日経ってないはずなのに……どこかで気付かれないように加速されたのか……!?」
なんにせよ、これは由々しき事態だ。
イリスたちのタイムリミットはキュレムが復活するまで。それは言い換えれば、プラズマ団がジャイアントホールに到着するまでということだ。
だが現在、プラズマ団はジャイアントホールへと足を踏み入れた。まだキュレムの復活まではタイムラグがあるが、それまでに果たしてゲーチスを止められるだろうか。
「……!」
ふと、イリスの目に黒い影が映る。巨大な三つ首ポケモン、サザンドラだ。それも、通常個体よりもかなり大きい。
あのサザンドラは、かつてイリスも目にしたことがある。あれは、プラズマ団の大総統、ゲーチスのサザンドラだ。
「ゲーチス……出て来い、ウォーグル!」
岩山の一角に向かうゲーチス。それをイリスが黙っている見ているわけもない。イリスは素早くウォーグルに乗り、ゲーチスを追いかける。
「キュレムは復活させない、絶対に……!」
「…………」
Nは壁に空いた大穴を見つめていた。ついさっき、ゲーチスが飛び立った跡だ。
Nはゲーチスに敗北した。しかも、ジャイアントホールへと向かうゲーチスを、足止めすることすらできなかった。結局、何もできなかった。
「……いや、まだ。まだなんとかなるはずだ。諦めなければ、まだ……!」
少なくとも、もう一人の英雄は、今まで諦めてこなかった。だからこそ二年前、Nは彼に敗北した。
あの時は敵同士だったが、今は同じ英雄として、イッシュに害悪をまたらす者を倒す。そのためにも、英雄である自分が諦めてはいけない。Nはそう言い聞かせる。
「……? あれは……」
そんな時、部屋の一角でNはあるものを見つけた。
パソコンだ。ポケモンセンターなどに備え付けられているような、台と一体化したパソコン。しかもこれは、プラズマ団によるハッキングでポケモン預かりシステムにまで侵入できるという代物だ。
とはいえ、最近の預かりシステムは個人証明のためのパスワードや個人認証のシステムを導入しているため、他者の預かりシステムを利用することは出来ない。
だが逆に言えば、パスワードを知っていたり個人認証のできる預かりシステム——自分のボックスになら、普通に接続可能である。
「……まだ、僕のもできることがある。次こそ、ゲーチスを、父さんを……だからもう一度だけ力を貸してくれ、僕のトモダチ——」
Nは、静かにパソコンの電源を入れた。
「——ここか」
岩山の一角——不自然に一ヶ所だけ道のような坂ができ、その坂の上に穴の開いた場所。そこに、イリスは降り立った。
「急がないと」
ウォーグルをボールに戻すと、イリスは速足で穴に入り、洞窟を駆け抜ける。
洞窟と言っても、その穴は大した深さはない。すぐに最深部へと到達してしまった。
すると、そこには、
「……! なんだよ、これ……!」
巨大な氷塊が、途轍もない冷気を放っていた。
思わずイリスも身を固める。この場所だけ異様に寒い。
目の前の氷塊が、おそらくキュレムなのだろう。だが完全に凍りついており、氷自体も非常に分厚く、どのようなポケモンなのかは分からない。
「来ましたね、真実の英雄——イリス」
カンッ、と手にした杖を地面に叩き付け、ゲーチスは振り向く。
「……久しぶりだな、ゲーチス」
「あなたとは、そうですね」
実に二年振りの再会だ。ただ、イリスとしては二度と会いたくない人物ではあったが。
「前の戦いから一年。僕が新しく旅立ってから一年。合わせて二年……たった二年間で、随分と老いたね」
以前イリスが見たゲーチスは、もっと恰幅がよく、大柄な印象を抱かせる体型だった。しかし今のゲーチスは、頬は痩せこけ、目玉模様のある黒いコートに包まれた体も細身となっている。背丈は2mほどあるのだが、以前のような威圧感は感じない。
ただし、非常に強い、ギラギラと暗く輝く野望だけは、その目からありありと感じ取れる。
「ワタクシはあなたたちと違い、気苦労が多いのですよ。7Pは7幹部以上に従わせるのが難しいもので。その分、よく役目を果たしてくれましたがね」
「役目を果たす? なに言ってるのさ。お前は知らないかもしれないけど、7Pのトップ——ザートだっけ? あいつならもう倒した。他の連中にしたって、父さんやミキちゃん、皆がもう倒してるんじゃないかな?」
半分ほどはただのはったりで、イリスは他の7Pがやられているかなんて知らない。だが、自分が信じた仲間たちなら、きっとやってくれるだろうと思っているだけだ。
そんなイリスの言葉に対し、ゲーチスは、
「いえいえ、彼らは本当によい仕事をしてくれました。お陰で、キュレム復活のエネルギーは、十分すぎるほど溜まりましたからね」
「? なに言ってるの……?」
ゲーチスの言葉の真意を読み取れないイリスは疑問符を浮かべる。それを見たゲーチスが取り出したのは、一つの水晶だった。
傷一つないなめらかな水晶玉だが、中は灰色に濁っており、どこか不安にさせる気を発している。
「これがなんなのかはお分かりですよね。そう、これこそが境界の水晶、キュレムを復活させる鍵です!」
声高らかに叫ぶゲーチスに対し、イリスは静かにボールを握り、呟く。
「……復活なんて、させないよ。ディザソル」
イリスはディザソルを出し、構えさせる。ゲーチスが動きを見せた瞬間に、キュレムの復活を止める——
イリスとゲーチスが相対している時、一人の青年がジャイアントホールの岩山の一角、キュレムが封じられている穴へと足を踏み入れていた。
「ここだね……今からそっちに行くよ。だから待ってて、イリス。それと——ゲーチス」
青年は小さく呟いて、その場から駆け出す。
やがて青年は、洞窟の奥へと消えていった。