二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 563章 境界 ( No.828 )
日時: 2013/03/29 22:48
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html

 境界ポケモン、キュレム。
 首は長いが前傾姿勢で二足歩行、両手は小さな二本指のようになっており、背中には左右非対称の一対の翼と、非常にアンバランスなシルエット。
 体色は灰色で、頭部、尾、両翼などは氷塊のプロテクターのようなものが覆い、尾の装甲はプラグのような形状をしている。また、翼の先端には透明な突起が二つあり、そこからは穴のようなものが覗いている
「これが……キュレム……」
 イリスは呆然としていた。驚愕でも驚嘆でも後悔でもなく、呆然としている。
 遂にキュレムの復活を止められなかったのは遺憾なのだが……どうしても、このキュレムからは覇気を感じない。
 はっきり言って、弱そうに見える。
 伝説のポケモンには伝説らしい威圧感のようなものがある。オーラと言い換えてもいいだろう。直に伝説のポケモンと触れ、共に戦ったイリスにはそれが実感としてあるのだが、キュレムからは何も感じないのだ。
 どころか、前へ動くだけでも不安定な体格が災いし、よろめく始末。イリスは目の前の龍が伝説のポケモンであることを疑ってしまう。
「でも、不気味だ……」
 覇気やオーラは感じないが、直感としてイリスは感じる。なにか、嫌な感じがする。ただの漠然とした予想のようなものであるのだが、この感覚は外れていない気がする。
 遂に復活してしまったキュレムを前にして、イリスはディザソルをボールに戻し、ジッと瞳のない眼と睨み合う。すると、その時。
「イリス!」
 洞窟の入り口から、誰かが駆け寄って来る。
「N!」
 その人物は、Nだった。
「……キュレムは、復活してしまったのか」
「うん、ゴメン。止められなかった……」
「いや、いいんだ。僕もゲーチスに、敗れてしまったからね……」
 互いに非を言い合う二人であったが、復活してしまったものは仕方ない。いや、仕方ないなどという簡単な言葉で片付けてはいけないことは分かっているが、今重要なのは、復活したキュレムをどうするかだ。
 二人は同時にキュレムを見遣る。そして、
「っ、なに——?」
「これは……!」
 突如、二人の目の前にあるものが飛び出す。イリスの前には白い球体が、Nの前には黒い球体が、それぞれ姿を現す。
「ライトストーン……と、ダークストーン……!? 今まで反応がなかったのに……」
「もしかして、キュレムの力に当てられて、この二体も復活を……?」
 二つの球体——ライトストーンとダークストーンは宙に浮いたまま自転し、周囲のエネルギーを吸収する。必要なだけの力を取り込むと、今度は瘴気を発しながら、ライトストーンは熱気を、ダークストーンは電気を帯びる。
 そして——

 ——双子の英雄は、再び覚醒した。



 ライトストーンから火柱が吹き上がり、真実の白龍が呼び起される。
 純白の身体、腕と一体化した翼を持つ龍。尾部はジェットエンジンの如く燃え上がり、紅色の炎を発生させる。
「レシラム……!」
 白陽ポケモン、レシラム。真実の英雄に付き従うドラゴンポケモン。



 ダークストーンへと稲妻が落とされ、理想の黒龍が呼び起される。
 漆黒の身体、強靭な腕と翼と巨躯。尾部はタービンの如く激しく大回転しながら弾け、蒼色の雷を発生させる。
「ゼクロム……!」
 黒陰ポケモン、ゼクロム。理想の英雄に付き従うドラゴンポケモン。



 イッシュの創世に関与する二体の龍、レシラムとゼクロムが、二年前のように、その姿を顕現する。
 ただ、二年前と違うのは一点。昔はどちらが正しいかを決めるために現れ、争いあった。しかし今回は、再び訪れたイッシュの——果ては世界を危機から救うために、共闘する。
 それはさながら、イッシュ建国の時の様を呈していた。
「……遂に姿を現しましたか、レシラム、ゼクロム」
 ゲーチスは余裕の笑みを浮かべたまま、レシラムとゼクロムを見つめる。
「キュレムが復活すれば、いずれ現れるとは思っていましたよ。あなた方を抑えてこそ、我々の目的は完遂される——いえ、あなた方がいなければ、何も始まらない、と言うべきでしょうか」
 カンッ、とゲーチスは手にした杖を地面に叩きつけた。
「場所を移しましょうか。今ここでキュレムの力を見せてもいいですが、キュレムそのものの力を知るのがあなた方だけというのも、つまらない話です。せっかくですから、キュレムは虚無のままであってもどれほど強大であるか、お見せしましょう」
 ゲーチスはボールを取り出し、サザンドラを出した。そして再び杖を地面に叩きつける。
 次の瞬間、キュレムは意外なほどの跳躍力で跳び上がり、洞窟の天井を突き破って姿を消してしまった。
『っ!』
 あまりに唐突過ぎる光景に、イリスとNは呆気に取られてしまう。その間にゲーチスはサザンドラに乗り込み、キュレムが突き破った天井から外へと出る。
「それでは、一足先に外で待っていますよ、英雄諸君」
 最後には、ゲーチスの言葉だけがこだまする。
 残されたイリス、N、そしてレシラムとゼクロムは、崩れた天井を見つめていた。
「……来てくれたんだね、レシラム」
 視線をレシラムへと移し、イリスは歩み寄った。
「そういえば、君には謝らないといけないことがあったね。僕の父さんのこと。あの人、ハードマウンテンの溶岩に君を捨てたんでしょ? あの人はもう謝る気なんてないと思うし、僕から謝らせてもらうよ」
 そう言って、イリスは頭を下げた。レシラムは軽く声を上げ、このやり取りは終わりとなった。
「ゼクロム、また戻って来てくれたんだね」
 Nもゼクロムにそう声をかける。
「あの頃の僕は、自分の理想を押しつけ過ぎていた。でも今は、その折り合いもついたつもりだよ……昔よりも、君の力を引き出せると思う」
 Nの言葉に、ゼクロムは鈍く唸るような声を上げる。
「……N、行こう。ゲーチスと、キュレムを止めないと」
「うん、分かってるよ、イリス。今の僕らには、彼らがいる。絶対止めてみせるさ」
 そして、二人はそれぞれの龍を従え、キュレムの下へと進む。



「うわっ、寒……!」
「まさか、これをキュレムが……?」
 洞窟から出ると、樹海が凍り付いていた。掛け値なく広大な樹海全ては、完全に凍てついており、一面が氷の世界と化している。
「確かに、こんな力があるんじゃ世界も滅ぶな……何としでも止めないと」
 洞窟の入り口から樹海を見渡すと、キュレムはすぐに見つかった。分かっていた事ではあるが、やはりかなりの巨体だ。
「……レシラム、お願い」
「僕もだ、ゼクロム」
 イリスとNの言葉に、レシラムとゼクロムは即座に頷く。それを受けて二人は、それぞれが従える龍に乗り込んだ。
 そして、二体の龍は飛び立つ。
 ジェットエンジンは紅の炎を燃やしながら、タービンは蒼の雷を弾きながら、それぞれ英雄を乗せ、キュレムの下へ飛んで行く。
「——ゲーチス!」
 キュレムとゲーチスの真正面へ降り立った二人。見れば、この周辺だけ木々がなぎ倒され、妙に広い空間となっていた。
「ここに来たということは、やはり最後までワタクシたちの邪魔をするということですね……後で逃げておけば良かったと、後悔のなきよう」
「後悔なんてしないさ。僕たちは、あなたの野望を止めてみせる——ゲーチス!」

 かくして、真実と理想の英雄、そして混濁の使者、イッシュ創生に関わる三体の龍が出揃った。
 イッシュ、そして世界の命運を賭けた戦いが、遂に始まる——