二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 564章 合体 ( No.832 )
日時: 2013/03/30 21:24
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html

 氷の龍、キュレムを前にして、レシラムとゼクロムは臨戦態勢に入る。
 レシラムはジェットエンジンを紅色に燃やし、ゼクロムはタービンを蒼色に弾く。それぞれの尾部からは、熱気と電気が放たれている。
「レシラム、龍の波動!」
 最初に動いたのはレシラムだ。レシラムは飛び上がると、龍の力を込めた波動を発射し、キュレムに直撃させる。
「その程度ですか? キュレム、凍える世界」
 効果抜群の一撃をまともに喰らったというのに、キュレムはまったく動じず、周囲に発生させた鋭い氷塊をレシラムへと放つ。
「神通力!」
 氷の礫や氷柱落としなどとは比べ物にならないほどの勢いで氷塊は飛来するが、レシラムはすぐに神々しい念力を放ち、氷塊をすべて相殺した。
「ゼクロム、僕らも行こう。思念の頭突き!」
 ゼクロムは強い思念を頭に集中させてキュレムに突っ込み、強烈な頭突きを叩き込む。
「ドラゴンクローだ!」
 そしてそのまま龍の力を込めた爪でキュレムを引き裂く。
「キュレム、逆鱗です」
 ここで、キュレムは初めて前に出る。
 凄まじい殺気を発しながら鋭い爪を構えて跳躍し、レシラム、ゼクロムへと突っ込むが、
「レシラム、青い炎!」
「ゼクロム、雷撃!」
 レシラムは青く燃える美麗な炎を放ち、キュレムを包み込んで動きを封じる。そこにゼクロムが激しい雷撃を纏って突撃し、地面へと叩き落とした。
「N!」
「分かった!」
 二人は短い言葉で意思疎通をすると、それぞれが従える龍に指示を飛ばす。
「レシラム、クロスフレイム!」
 レシラムは空高く飛翔し、紅色に燃える炎を集める。そして生み出された火球を天に掲げ。遥か上空からキュレム目掛けて解き放った。
 火球の一撃を受け、キュレムは炎に包まれる。
「ゼクロム、クロスサンダー!」
 ゼクロムも同じく飛翔し、蒼色に弾ける雷を身に纏う。そしてそのまま、キュレムに向かって凄まじい勢いで突撃した。
 この時ゼクロムは、レシラムが放った炎を受け、身に纏う電撃を増幅させる。ゼクロムの激しい一撃はキュレムに直撃し、ザリザリと周囲の地面や木々を抉ってキュレムを大きく後退させた。
 デュアルクロス。レシラムとゼクロムは元々一つの存在であったがゆえに、互いの力を一部吸収し、自分の力に変換することができる。その現象をデュアルクロスと呼び、デュアルクロスが発動した技——クロスフレイムとクロスサンダー——はその威力が跳ね上がる。
 二体のコンビネーションを存分に発揮した合体技を受け、キュレムは圧倒的に劣勢。しかしゲーチスの顔には焦燥感の欠片もなく、むしろ不敵な笑みを浮かべている。
「やはり、その程度ですか」
「なに……?」
「所詮、あなた方は二つので一つの存在。二体の力が合わされば、確かに脅威となるのでしょうが、それが一体になればキュレムの敵ではありません」
 それは確かにその通りかもしれない。キュレムだってこのジャイアントホールに広がる樹海を一瞬で氷結させたのだし、気迫がなくても弱いはずがない。
 だがそれでも、キュレムがレシラムとゼクロムに勝つことは困難だ。どちらか片方を集中的に攻撃するという手段を取るにしても、もう片方がそれをさせないため、実質どう足掻いてもキュレムは二対一という状況から免れることは出来ない。それはゲーチスにだって分かっているはずだ。
 だがそれでもゲーチスは笑っている。そして、コートの中から何かを取り出した。
「それは……!」
 ゲーチスが手にしているのは、三角錐の形をした物体。先端部から灰、白、黒、といった配色になっており、底面には黄色い錐体が逆方向を向いてはまっている、楔のようなものだった。
 イリスは以前、この物体を見たことがある。いつかプラズマ団がヒオウギシティを襲った時に、持ち去ったもの。
「これは遺伝子の楔というものです。これがどのような力を持つものなのかは……まあ、見ていれば分かるでしょう」
 と言うと、遺伝子の楔がひとりでに動き出し、流れるようにキュレムの頭上へと移動した。そして直後、遺伝子の楔はグサリとキュレムの脳天に突き刺さる。
「な、なにが……?」
 突き刺さった遺伝子の楔はそのままキュレムへと取り込まれていき、刹那、キュレムの体の一部を覆う氷塊が砕け散った。
「っ!?」
 氷塊がなくなり、キュレムの両翼が露わになる。が、それは先端だけが少し広くなってはいるが非常に細長く、コンセントのプラグのようなデザインをしていて、はっきり言って不格好だ。
 だが、イリスとNは直感的に感じる。今のキュレムは危険だと。
 キュレムは翼の先端、透明な突起をレシラムとゼクロムへと向けた。
「レシラム、あれはやばい! 避けろ!」
「ゼクロム、君もだ! キュレムから離れて!」
 それぞれ指示を受けたレシラムとゼクロムは飛翔し、二手に分かれてキュレムから離れる。その直後だった。

 キュレムの両翼の先端から、紫色の光線が発射される。

「なんだ、あれは……!」
「分からないけど、あれを受けると大変なことになると思う。絶対に逃げ切るんだ」
 一つの翼から二本、両翼で四本の光線が放たれ、こちらも二手に分かれてレシラムとゼクロムを追いかける。
 どちらも全速力で空中を飛び回り、追いかける光線から逃げるが、キュレムは何発も光線を発射するため、だんだんと退路が断たれていく。
「くっ、ゼクロム、雷撃だ!」
 ゼクロムは激しい電撃を身に纏い、迫ってくる光線を打ち消す。
「N! ここはキュレム本体を叩いた方がいい! レシラム、青い炎!」
 レシラムも青色に燃える火炎を放ち、光線を消滅させながらキュレムを攻撃する。
「ゼクロム、僕らも行こう! クロスサンダー!」
 青い炎を受けたからか、光線を連射するキュレムの動きが一瞬だけ止まった。その一瞬でゼクロムは蒼色の雷を纏い、キュレムに激突する。
「イリス、今だ!」
 Nが叫ぶと同時にゼクロムはキュレムから離れる。そしてイリスとレシラムも、既に攻撃を開始していた。
「了解! レシラム!」
 レシラムは紅色の炎を球状に集め、巨大な火球を生成する。それをすぐにはは撃たず、レシラムは一度キュレムに接近した。
「クロスフレイム!」
 ギリギリまでキュレムに近づき、レシラムは至近距離からの火球をキュレムに叩き込む。デュアルクロスが発動し、尋常でない火力となったクロスフレイムを至近距離から叩き込んだのだ。伝説のキュレムと言えど、無事では済まないはず。倒すまでは行かなくとも、あの奇怪な光線を止めるくらいのことは出来るだろうと思っていた。
 しかし、現実はそうではなかった。

 立ち込める煙の中から、キュレムは翼の先端をレシラムへと向けていた。

「っ、レシラム——!」
 無慈悲に放たれた四発の光線。それらは縄のようにレシラムを取り囲み、束縛してしまう。
 動きを封じられたレシラムは地上へと落下し、どういうわけか、ライトストーンへと戻ってしまった。
「レッ、レシラム!?」
 なにが起こったのか分からず、イリスは戸惑う。いや、イリスだけでなく、Nも愕然とレシラム——否、ライトストーンを見つめている。
「それでよいのですよ。さあキュレム、レシラムを取り込みなさい。吸収合体です!」
 ゲーチスが叫ぶと、キュレムは翼の先端から放たれる光線を通じ、ライトストーンとなったレシラムを自身の中に取り込んでいく。ライトストーンは翼から発せられる光を浴び、少しずつ小さくなっていき、やがて消えた。
 直後、激しい熱気と冷気が吹き荒れる。相反するはずの、対極に位置するはずの二つの感覚がイリスたちに襲い掛かった。
 同時にキュレムの姿も氷塊に覆われる——かと思えば、今度は紅色の炎に包まれる。凄まじい覇気と共に、キュレムは炎の氷塊の中で、虚無の魂を真実で埋めていく。
 炎が消え、氷塊が溶けると、そこにキュレムとレシラムはいなかった。いや、キュレムとレシラムのどちらもが存在していた。
 そこにいたのは、キュレムのようなポケモンだが、レシラムの意匠も感じ取れる。全体的に灰色をした体は、両腕や首、尻尾の先端などの各所だけが純白となっており、右腕、左肩、右側頭部、など、左右非対称に氷塊のプロテクターがある。
 そのキュレムに似たポケモンは、背中から何本ものコードのようなものを伸ばし、レシラムのものと酷似した尾部のジェットエンジンに接続する。すると次の瞬間、ジェットエンジンは激しく燃え上がり、紅色の炎を解き放つ。
 その炎を見て、イリスは確信に至った。このポケモンは恐らくはキュレム。だが、
「レシラムの力を、取り込んでいる……!?」
 このポケモンから発せられる炎や熱気は、レシラムのそれとよく似ている。現時点でレシラムに最も近いイリスには、それが分かる。
 そんなイリスの言葉に、ゲーチスは首を縦に振った。
「その通りです。これこそが、キュレムの虚無の魂を、真実で埋めた姿。混濁した、真実の使者。その名も——」
 荒々しく燃え上がる紅色の炎を背に、ゲーチスは声高らかに宣言する。真実によって魂が埋められた、混濁の使者の名を——

「——ホワイトキュレムです!」