二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 565章 交換 ( No.833 )
日時: 2013/03/31 15:25
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html

「キュレムとレシラムが合体するなんて……そんなことが、ありえるのか……!?」
 イリスと同様に愕然とするN。ゲーチスはそんなNに嘲笑うような言葉を浴びせる。
「愚か者め。キュレムは元々、レシラムとゼクロムのように一つの存在だ。だが真実と理想に分かれたレシラム、ゼクロムとは違い、キュレムには何も残らなかった。ただの虚無の抜殻です。ゆえに、その虚無を埋めるものは存在する、その虚無を埋められるのは真実と理想を司る龍、レシラムとゼクロムしかいない! ……このホワイトキュレムを見て、まだその程度も理解できないのですか?」
 イリスとNの目の前に鎮座するホワイトキュレム。その目には合体前にはなかった瞳が浮かび上がっているが、それはレシラムの持つ穏やかな瞳ではなく、荒々しく獰猛な瞳だった。
 なんにせよ、キュレムとレシラムが合体したことで、イリスたちは一気に劣勢となった。というのも、ゲーチスが言ったように今までイリスとNがキュレムを押していたのは、レシラムとゼクロム、二体のコンビネーションがあったからというのが大きい。
 しかし今、片割れであるレシラムはキュレムに取り込まれてしまった。単純に見れば一対一でイーブンだが、本当にキュレムがレシラムの力を吸収しているのなら、今のキュレムはレシラムの力と合わさることとなり、力関係ではホワイトキュレムとゼクロムは二対一だ。
「さあ、ホワイトキュレム。あなたの力を見せる時です!」
 突如、ホワイトキュレムの周囲に激しい冷気が集まり、同時に大量の熱気が放出された。
「……! N! この技、さっきの光線以上にやばい感じがする! ゼクロムを退避させるんだ」
「分かってる! ゼクロム!」
 ゼクロムは急降下し、凍りついた木々を破壊しながら樹海を縦横無尽に駆け巡る。そして、

「コールドフレア!」

 次の瞬間、樹海の一部が熱気に包まれ——氷結した。
「っ!?」
 間一髪のところでゼクロムはその攻撃を回避したが、もし避けきれていなければ、ゼクロムはいまごろ完全に凍りついていただろう。
「というか、なんだよあれ……!」
 一部と言っても、この広大な樹海の一部だ。範囲的にはそうとうな広さである。そして凍りついた場所はまるで氷山のように氷結しており、どういうわけかその氷山の中では炎が渦巻いている。
「どうしましたか? 英雄諸君。まさか、今更ホワイトキュレムの力に怖気づいたのですか?」
 安い挑発をするゲーチスだったが、あながち間違ってはいない。
 現状では、ゼクロム一体でホワイトキュレムを倒すのは困難だ。しかも、ホワイトキュレムがあんなデタラメな技を使うとなれば、他のポケモンを使用したところで太刀打ちできるかどうか。少なくともイリスの考えでは、現時点でホワイトキュレムを倒すのは不可能であった。
「……となると、やっぱりゲーチスを直接倒すしかないか」
 キュレムがゲーチスの指示に従っているのは、奴が持っている境界の水晶があるからだ。あの水晶はキュレムを復活させるだけでなく、キュレムを意のままに操る力もある。
 逆に言えば、あの水晶さえなんとかすれば、キュレムは止まるはず。現状でホワイトキュレムを倒す手立てがないのなら、ゲーチス本人を叩くしかない。
 そう結論をだし、イリスはNにその旨を伝えようとするが、
「N、こうなったらもうゲーチスを——」
「イリス、その役目、僕に任せてほしい」
 イリスの言葉を遮って、Nはそんなことを口にした。
「君も知っているだろう、僕とゲーチスの関係は。空中都市では負けたけれど、今度は負けない。今度こそ、あの人とちゃんと話をして——止めてみせる」
「N……」
 イリスはNの目を見据える。瞳に宿っているのは覚悟。どこまでも理想を追求しようとする意志だった。
 ゲーチスと戦うことは誰かがやらねばならないこと。ならばそれは、最も適任である者に任せるべきである。
 そう思いながら、イリスは言葉を紡いだ。
「……分かった。じゃあ、君に任せるよ。絶対にゲーチスを倒せ」
「うん、分かってるよ……ゼクロム!」
 Nはゼクロムを呼び寄せる。ゼクロムの力でゲーチスを倒すからではない。ゲーチスと対話をするのに、伝説の力はいらない。
「ゼクロム、今だけでいい。イリスの力になってくれ。僕は、大丈夫だから」
 Nの言葉は、即ち一時的とはいえ、イリスに付き従えというもの。理想の龍が、真実の英雄に力を与えろというもの。相反する二つの意志、理想のゼクロムと真実の英雄は相容れないものであるが——ゼクロムは、小さく頷いた。
「……ありがとう。それじゃあイリス、ゼクロム。行ってきます」
 と言って、Nは駆け出す。ゲーチスの下へと。
「N!」
 ——そんなNを、イリスは引き留めた。同時に、すぐさま取り出したモンスターボールをNへと投げつける。
 突然のことでNは少々戸惑っていたが、パシッと投げ渡されたボールを受け取る。
「持って行って。レシラムはキュレムに取り込まれちゃったけど、君が僕にゼクロムを託したように、僕も君に、僕が持てる最高の力を託す。だから——」
 その先の言葉を、イリスは続けなかった。
 しかしNは、イリスが何を言いたいのか、言葉がなくとも伝わった。
「うん……ありがとう」
 互いのポケモンを交換し合い、今度こそ、Nはゲーチスの下へと向かう。



「……さて、と」
 イリスはNを見送ってから、目の前のホワイトキュレムを見据える。
「レシラム、君は今、どんな気分なんだろうね……元は一つとはいえ、強引にキュレムに取り込まれちゃってさ。そいつから引き剥がしてあげたいのは山々だけど、どうやらその役目は僕にはないらしい。だからせめて、Nがゲーチスを止めるまでの時間稼ぎだけでもさせてもらうよ、レシラム——いや、ホワイトキュレム!」
 キュレムと混ざっているとはいえ、イリスにとってはレシラムと戦うようなものだ。イリスではゼクロムの力の全ては引き出せない。状況はさっきよりも酷くなったと言えるだろう。
 しかし、

「時間稼ぎなんてみみっちいことを偉そうに言ってんじゃねぇよ、馬鹿野郎が」

 その時、背後から声がかかった。聞き慣れた荒っぽい男声。しかし振り向けば、その声とは似ても似つかぬ小さな体躯。
「父さん……!」
 そこにいたのは、イリスの父親にして、前世代の真実の英雄、イリゼだった。
 いや、イリゼだけではない。その後ろにはロキもいる。
「ふふ、遅れてごめんね、イリス君。こっちもこっちで色々ごたついててね……ミキちゃんやザキ君はもっと大変だったみたいだけど。なんにせよ、他のみんなは到着までもう少しかかりそうだ」
 普段と変わらぬペースで、ロキは言う。他の者たちが来るまで時間がかかるということは、逆に言えば増援は期待できるということ。圧倒的に戦力不足なイリスにとっては吉報だ。数が多ければ、それだけ時間も稼ぎやすい。
 だがイリゼは、そんなイリスの考えを否定する。
「おいイリス、お前は時間稼ぎなんてこすいこと言ってたがな、いつ終わるかも分かんねぇバトルの時間稼ぎなんかがあいつに通用すると思ってんのか?」
 イリゼはホワイトキュレムを指差して言う。確かにイリゼの言うことも一理あるが、現状ではそれしか手段がないのだから、その可能性に賭けるしかないのだ。
「だから、それはホワイトキュレムを止めることが、ゲーチスを倒すことだけっつー前提があるからだろ。そういう時は、その前提からぶち壊しちまえばいいんだよ」
「いや、それは流石に無茶苦茶……」
 荒唐無稽にもほどがある、とイリスは思ったが、相手はイリゼだ。どんなに滅茶苦茶でも、荒唐無稽でも、それを真実に変えてきたような男だ。
 何も策がないわけでは、当然ない。
「イリス、こいつを使え」
 と言ってイリゼはイリスに何かを投げ渡す。それは、イリスがNに渡したもの——即ちモンスターボールだった。
 だが通常のモンスターボールのような紅白カラーではない。上半分が濃い紫色で、二ヶ所に透明な低い半球がある。
 イリスは安い普通のモンスターボールしか持っていないが、それでもボールの種類くらいは知っている。が、このボールだけは、イリスも見たことがなかった。
「それはマスターボールっつー特殊なボールだ。原理とかは俺も知らねぇんだが、そのボールにはとんでもない力がある」
「とんでもない力?」
 イリゼがあまりに大仰に言うので、思わずイリスは復唱してしまう。しかしイリゼの言葉は、大仰でも大袈裟でもなかった。
「そのマスターボールは、どんなポケモンでも必ず捕まえる。理論上では、伝説のポケモンだって捕獲できるボールなんだ」
「それは……確かに凄いね」
 と言って、イリスはふと気付いた。イリゼがこのボールを手渡してきた意味を。
「——てことは、まさか」
「ああ、そのまさかだ」
 イリスがなにかを言うよりも早く、イリゼは次の言葉を発する。それがお前の使命だとでも言うかのように、そして懇願するかのように。

「お前がキュレムを捕獲するんだ、イリス」