二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 572章 撃墜 ( No.840 )
- 日時: 2013/04/02 13:06
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
特性、激流によって強化されたダイケンキのハイドロカノンを喰らったサザンドラ。ダイケンキは今まで、この技で幾多もの強敵を倒してきた。それはジムリーダーだったり、四天王だったり、7Pだったり……二年前のゲーチス、そしてサザンドラを倒したのも、この技だ。
だからこそこの時、Nはほぼ勝利を確信していた。自分の仲間が持てる限りの力を解き放ったのだから、ゲーチスのサザンドラも倒れるだろうと、そう思っていた。
しかし、ゲーチスが抱く混沌の如く渦巻く野望は、止まらなかった。
「サザンドラ、流星群!」
刹那、サザンドラを包む爆発の煙が吹き飛んだ。同時にサザンドラは、天地を崩すかのような荒々しく激しい咆哮を放つ。
その咆哮は天地を超え、宇宙まで響き渡り、大気を貫いて無数の流星を呼び寄せる。
「——ダイケンキ!」
数多の星が降り注ぎ、ダイケンキは流星群に飲み込まれる。
流星群が止むと、辺り一面は木々が跡形もなく消し飛び、地面は抉れ、無数のクレーターが出来ていた。
そしてその中央には、地面に横たわるダイケンキの姿。
「……ありがとう、ダイケンキ。僕のために、戦ってくれて」
Nは倒れたダイケンキの側まで歩み寄り、優しい手つきでボールに戻す。結局、自分はダイケンキの力を引き出せず敗れてしまった。
だが、まだ終わっていない。ダイケンキはNの五番目のポケモン。まだ、最後のポケモンが残っている。
Nは元の位置まで戻ると、最後のボールを手にした。
「これで最後……二年前、君はダイケンキに敗れた。はっきり言って、ダイケンキは君よりも強い。でも、僕なら君の力の全てを引き出すことができる。だから、勝とう。サザンドラを倒してダイケンキの仇を討つ。そして、ゲーチスの野望を止めるんだ——!」
Nは手にしたボールを放る。
そして、幻影の覇者が姿を現す。
「僕に力を貸してくれ! ゾロアーク!」
Nの最後のポケモン、化け狐ポケモン、ゾロアーク。
漆黒のしなやかな四肢を持ち、鋭い爪が伸びた攻撃的で狐のような風貌。黒混じりの赤い鬣は、末端部がリング状の物体で束ねられている。
Nのエースにして、Nの出会った最初のトモダチ。かつて刃を交えた好敵手の仇を取るべく、そして主人の意志を受け、三つ首の龍を倒すために、その姿を幻影に隠すことなく、ゾロアークは戦場へと赴く。
「ふん、なにが出るかと思えば、ゾロアークですか。そのような虚弱なポケモンで、ワタクシのサザンドラに勝てるとでも?」
「勝つさ。それが僕のすべきこと。イッシュのため、世界のため、そして——トモダチのために、絶対に勝つんだ!」
次の瞬間、ゾロアークの姿が消える。
「ゾロアーク、気合球!」
いつの間にかゾロアークはサザンドラに接近しており、至近距離から気合を凝縮した球体を叩き込まれる。
「ぬぅ、怯むな、サザンドラ!」
いきなり効果抜群の攻撃を喰らい、大ダメージを負ってしまったサザンドラが反撃に出る。
「悪の波動!」
サザンドラは悪意に満ちた波動を放つが、ゾロアークには当たらない。当たったと思っても次の瞬間、そのゾロアークは揺らめいて消えてしまう。
「幻影か……! 小賢しい! サザンドラ、火炎放射で焼き払え!」
サザンドラは三つ首から炎を吹いて広範囲を焼き払うが、流星群で特攻が半減しているため、火力は落ちている。
「ゾロアーク、こっちも火炎放射だ!」
サザンドラが炎を吐いているうちに、どこからか別の炎がサザンドラを襲う。
「そこか! サザンドラ、大地の力!」
ゾロアークの場所を特定したサザンドラは、地面から土砂を噴射して攻撃しようとするが、
「神通力!」
ゾロアークが神々しい念力を発し、大地の力を止めてしまう。その隙に幻影に隠れ、ゾロアークはサザンドラから距離を取る。
「気合球だ!」
「悪の波動!」
ゾロアークは真正面から気合を込めた球体を投げるように放つが、三つの頭から同時に放たれる悪の波動で相殺されてしまう。
「火炎放射です!」
「神通力で振り払うんだ!」
反撃にサザンドラが放った火炎放射も、ゾロアークの神通力で簡単に散らされる。
「大地の力!」
続けて地面から土砂を噴射するサザンドラだが、土砂がゾロアークに当たった瞬間、そのゾロアークは揺らめいて消えてしまった。
「また幻影か……! ええい! 本物はどこだ!?」
叫びながら辺りを見回すゲーチス。すると、サザンドラの背後から灼熱の炎が襲い掛かる。
「っ、そこか! サザンドラ、大地の力!」
サザンドラは炎が放たれた方を向き、位置を特定。地面から土砂を噴出させるが、
「こっちだ。ゾロアーク、火炎放射!」
すぐにまた別方向から炎が放たれる。効果いまひとつだが、サザンドラはダイケンキとのバトルでかなり消耗しているため、小さなダメージでも馬鹿にはならない。なので——
「こうなれば……サザンドラ! 奴らを根絶やしにするぞ!」
——ゲーチスは最大の一撃で、勝負を決めにかかる。
「流星群!」
サザンドラは再び咆哮する。大宇宙の果てより流星を呼び寄せ、ゾロアークへと降り注ぐ。
だが、今回の流星群は特異だった。流星群という名の通り、数多の流星を降り注ぐのがこの技だが、今サザンドラが呼び寄せた流星は一発のみ。代わりにその流星は、非常に巨大だった。
「数多の流星を一つにまとめた一撃だ! 消えろ、N!」
総合ダメージでは一撃目より、特攻の下がっている今の二撃目の方が低い。しかし流星一発分のダメージなら、小さな流星より、巨大な流星の方が威力が高いのは道理。数にものを言わせるのではなく、サザンドラの特攻が下がったことにより、ゲーチスは最後の一撃に賭けたようだ。
「……それなら、僕らも最大の攻撃で迎え撃つまでだ。行こう、ゾロアーク!」
ゾロアークも咆哮し、両腕に漆黒のエネルギーを纏う。ゾロアークはその両手を振り上げると、次の瞬間、思い切り振り下ろした。
「ナイトバースト!」
刹那、夜の如き漆黒の衝撃波が同心円状に放たれる。衝撃波はゾロアークを守るように、そして流星を砕くように、凍てつく空に広がっていく。
サザンドラの流星とゾロアークの衝撃波がぶつかり合う。流星群とナイトバースト、普通なら素の威力が圧倒的に高い流星群に軍配が上がるが、威力を収束させているとはいえ今のサザンドラは特攻が半減している。そのため、流星と衝撃波は激しくせめぎ合っている。
「ゾロアーク! 負けるな!」
「サザンドラ! 全て潰してしまえ!」
しばらくして、ほんの少しだけ、流星が衝撃波を押し始めた。それを機に、少しずつ少しずつ、流星は衝撃波を押し、ゾロアークへと迫っていく。
Nは焦燥感に駆られる。このまま押し切られれば、ゾロアークもただでは済まない。まだ攻撃を受けていなくても、この流星の破壊力は相当なもの。下手に喰らえば、一撃で戦闘不能になりかねない。
そんな時、ふとNの頭の中に声が響いて来た。一つではなく、複数の声。その声は、Nの持つモンスターボールから聞こえてくる。
「みんな……そうか」
ゲーチスに倒されたポケモンたち。しかし彼らも信じていた。最後に、自分たちが繋いだ意志を受け取り、この戦いを終結させる覇者を。
Nが出来るのは、その声を、思いを届けることだけ。たったそれだけでも、Nは、叫ぶ——
「——ゾロアーク!」
Nの声を聞き、ゾロアークは咆哮する。
そして、漆黒の衝撃波は巨大な流星にひびを入れる。ピキピキと軋む音をたて、流星は綻びていく。
「っ!? 馬鹿な、サザンドラの収束した流星群が、破られるなど——!」
綻びは大きくなり、やがて崩壊へと変わった。流星は崩れ去り、壊れる。欠片も残さず消滅し、漆黒の衝撃波が、サザンドラに向かっていく。
「サザンドラ!」
そして遂に、三つ首の龍は——地に落ちた。
「なんたることだ! このワタクシが、不完全な人間如きに敗北を喫するなど!」
杖を何度も地面に叩きつけ、ゲーチスは叫び散らす。完全に逆上しており、まともに会話できるとも思えない。
しかしそれでも、Nは言葉をかける。
「……あえてこう呼びます、父さん。あなたが負けた理由は、ポケモンを道具としてしか見ていないことです。ポケモンは、トレーナーと共に生き、それぞれを高みへと導くパートナー。あなたが集めた7Pという人たちだって、それは分かっていた。だから、あなたも——」
「うるさい黙れ! 貴様のような化け物が人間の言葉で語るな!」
まるで聞く耳を持たないゲーチス。息を荒げ、殺気立ち、凄まじい眼光でNを睨み付けている。
パキンッ
ふと、どこかでそんな音が鳴った。その音の方を向き、ゲーチスは今までの憤怒の形相が嘘のように、憔悴した顔に邪悪な笑みを浮かべる。
「フ……フフフ、フハハハハ! そう、そうですよ! ワタクシはまだ終わっていない! ワタクシの野望はまだ潰えていない! たかだか一度敗北を喫した程度で、ワタクシは止まらない! ワタクシにはまだ、キュレムがいるのだ!」
突然、天を仰ぐように顔を上げ、高笑いするゲーチス。その視線の先には、キュレムとレシラム、そしてゼクロムの姿があった。
「……!」
次の瞬間、凍てつく空に雷鳴が轟く——