二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 574章 失敗 ( No.842 )
- 日時: 2013/04/03 21:47
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
「マスターボールが……砕けた……!?」
愕然とするイリスたち。遂にキュレムを捕獲し、戦いが終結すると思った矢先に、場を引っくり返される事態。
マスターボールから解放されたキュレムは、砕け散ったマスタボールの残骸を踏みつけ、低く唸っている。
「ど、どういうことだ……! 奴の作ったモンに、欠陥があるとも思えねぇが……」
流石のイリゼも困惑した表情だ。当然だろう、全てのポケモンを確実に捕まえられるマスターボールで、キュレムは捕まらなかった。ある意味では、この世の真理を覆したようなものだ。
そんなイリスたちに対して、Nとのバトルを終えたらしい——そして負けたらしい——ゲーチスは高笑いする。
「フ、フハハハハ! 愚か者どもめ! もっとワタクシに対して警戒していれば、そのボールも無駄にはならなかっただろうに。なんと無意味なことをしたのか!」
嘲るように笑いながら、ゲーチスは手にした境界の水晶を杖に乗せ、固定してしまう。Nは隙を見計らって境界の水晶を奪うつもりだったが、こうなるとそれも難しくなってくる。
そんなNの思惑に気付いているのかいないのか、杖を掲げるように見せつけ、ゲーチスは続けた。
「この杖は、あらゆるモンスターボールの力を封じる力があります。正確に言えば、モンスターボールのエネルギーを逆流させ、さっきのように破壊するものですが……この杖がある限り、キュレムを捕まえるなど不可能です!」
「っ、そんな……!」
ならば結局、イリスたちがホワイトキュレムに攻撃していたのは、それこそ無駄ということになる。全滅寸前になりながらもキュレムとレシラムを分離させたのが、無意味になってしまう。
「自分で言うのもなんですが、ワタクシは用心深い性格でしてねぇ、こんなこともあろうかと、アクロマに作らせておきました。お前たちは異端で異常な連中だが、それでも根本はトレーナー、ポケモンをモンスターボールで捕獲する者たちです。諦めが悪ければ、キュレムを捕獲しようなどと愚かな考えを持つだろうことは分かっていましたとも」
アシドも妙なものを作っていましたしね、と付け加え、ゲーチスはキュレムに向き直った。
「さあキュレム! 虚無に戻ったお前の魂に、新たな真理を埋めようぞ!」
カンッ、と杖を地面に叩きつけ、ゲーチスはキュレムにそう叫ぶ。すると次の瞬間、キュレムの両翼の先端から、レシラムを捕縛し吸収した光線が再び発射される。
「! レシラム! 捕まったら終わりだ! 今度こそは逃げ切れ!」
「ゼクロム、君もキュレムに取り込まれてはいけない! 逃げろ!」
イリスとNはそれぞれ必至に叫び、指示を飛ばす。ホワイトキュレムの力は嫌というほど見せつけられているので、ここでまた捕まって吸収されるわけにはいかない。二体ともそれは分かっているようで、襲ってくる光線を消しながら、避けることを優先している。そのためか、今回はなかなか捕まらない。
「むぅ、小賢しい。しかし二体を同時に狙うのは少々非効率的かもしれませんね……キュレム! レシラムを狙うのです!」
ゲーチスの指示を受け、キュレムは狙いをレシラムに定め、集中的に光線を発射する。
「なっ……! くっ、レシラム!」
光線がレシラムだけに集中し、振り切るのが難しくなってきた。炎を放ち、なんとか凌いでいるものの、このままでは捕縛されてしまう。
「まずい……ゼクロム! レシラムを放っておけない! 雷撃だ!」
光線が来なくなったことで、ゼクロムは激しい雷撃を身に纏い、キュレムに向かって突っ込む。
「っ、待て! N!」
イリスはそれを制そうとするが、遅かった。
「キュレム、ゼクロムを捕えろ!」
キュレムは翼の向きを急激に変え、ゼクロムに何発もの光線を撃ち込んだ。いくつかは雷撃の雷で打ち消したものの、最終的に光線はゼクロムを取り囲み、捕縛してしまう。
「ゼクロム!」
最初にレシラムを集中的に狙い、ゼクロムがフォローのためにキュレムに接近したところを捕縛する。単純だが、追い詰められた精神状態の彼らには、有効な作戦ではあった。
なんにせよ、今度はゼクロムがキュレムに捕まってしまう。ゼクロムはダークストーンの姿になってしまい、光線を浴びて少しずつ小さくなり、やがて消える。
「キュレム、吸収合体です!」
ゲーチスの叫びと共に、キュレムは体内に取り込んだゼクロムの力を顕現する。
直後、激しい電気と冷気が暴れ回る。空気は凍てつき地面は抉れ、イリスたちにもその余波が襲い掛かった。
同時に、キュレムの姿も氷塊に覆われる——かと思えば、今度は蒼色の雷に包まれる。凄まじい覇気と共に、キュレムは雷の氷塊の中で、虚無の魂を理想で埋めていく。
雷が消え、氷塊が砕けると、そこにキュレムとゼクロムはいなかった。いや、キュレムとゼクロムのどちらもが存在していた。
そこにいたのは、キュレムのようなポケモンだが、ゼクロムの意匠も感じ取れる。全体的に灰色をした体は、右腕と右翼、尻尾の先端などの各所だけが漆黒となっており、左腕、左肩、左側頭部、など、左右非対称に氷塊のプロテクターがある。
そのキュレムに似たポケモンは、背中から何本ものコードのようなものを伸ばし、ゼクロムのものと酷似した尾部のタービンに接続する。すると次の瞬間、タービンは激しく大回転し、蒼色の雷を解き放つ。
その雷を見て、Nはこれ以上ないくらいの驚愕を見せる。
「ゼクロムが……取り込まれてしまった……!」
このポケモンから発せられる雷や電気は、ゼクロムのそれとよく似ている。そのため否定したくとも、現時点でゼクロムに最も近いNには否定できない。
そんなNの言葉を受け、ゲーチスは邪悪な笑みを浮かべる。
「どうでしょう。これこそが、キュレムの虚無の魂を、理想で埋めた姿。混濁した、理想の使者。さあ、今度こそ奴らを消し去るのだ——」
荒々しく弾ける蒼色の雷を背に、ゲーチスは声高らかに宣言する。理想によって魂が埋められた、混濁の使者の名を——
「——ブラックキュレム!」