二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re:576章 伝説 ( No.846 )
- 日時: 2013/04/05 02:47
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
境界の楔を用いて、キュレムを再び封印する。ユキのお陰で、希望の光は消えずに済んだ。まだ、終わっていない。
「ありがとうございます、イリスさん。ではまず、最初にあなたがたがホワイトキュレムをそうしたように、ブラックキュレムをキュレムとゼクロムに分離します。境界の楔が封印できるのは、あくまでもキュレムのみ。ゼクロムの力を吸収しては、封じることはできません」
「え……?」
一瞬にしてイリスの表情が暗くなる。結局キュレムをゼクロムと分離しなければいけないのであれば、状況は大して好転していない。なぜなら、今さっきまでイリスたちが絶望していたのは、圧倒的な戦力不足が大きいのだから。
しかしユキは、その辺りも抜かりなかった。
「安心してください。ブラックキュレムと戦うための戦力は、私が用意してあります。そのために、ロキさん、イリゼ君。これを」
ユキは二つのボールを取り出すと、それぞれロキとイリゼに手渡した。
「……これは?」
「なんだか、随分とおっかない気配を感じるぜ……」
二人は渡されたボールから伝わってくる大きな気配に、顔を少しだけ歪ませる。だがユキは、ボールから出せば分かります、と多くは語らない。
「私とロキさん、イリゼ君。それと、レシラムを従えたイリスさん。この四人なら、キュレムからゼクロムを引き剥がすだけの戦力としては十分でしょう」
十数人総出の攻撃とゼクロムの力でようやく分離させたホワイトキュレム。それと同等の力を持つブラックキュレムに対し、たった四人で挑むというのもどうかと思うが、それだけユキが用意したという戦力——ポケモンは、強力なんだろう。
「……やれやれ。ユキちゃんには敵わないなぁ、すぐにペースを持って行かれる。父親としての尊厳が台無しになってしまったよ」
「だな。だが、もう俺たちにできることなんざたかが知れてる。昔からユキの言う通りにして失敗したことはない。ここは従うしかねぇ」
二人も言いながら、手渡されたボールを構えた。
「そういや、お前とタッグを組むのは久々だな。二十年……くらいか? 正直どうでもいいけどよ」
「そうだねぇ。ま、正確にはユキちゃん含めたトリオ——いや、イリス君まで含めたカルテットかな」
そして、ボールを開く。
「鬼が出るか蛇が出るか、それとも仏か?」
「最後に残った希望、正にパンドラの箱だね」
イリゼのボールから出て来たのは、屈強な四肢を持ち渦巻くエネルギーを背にしたポケモンだ。
地形を歪める力を持ち、伝説の語られる大犬ポケモン、ライラプス。
ロキのボールから出て来たのは、緑色の体色に赤い模様のある色彩の鮮やかなポケモンだ。
感覚を狂わす力を持ち、伝説で語られる鷲ポケモン、ガニメデ。
「ははっ……これは凄ぇ。どんな奴が出ると思えば、まさか伝説のポケモンとはな。参ったぜ」
「まったくだよ。こんなポケモンを手なずけるなんて、ユキちゃん、君は一体何をしたんだい?」
ボールの中から現れた伝説のポケモンを前に、二人は威圧されたかのような言葉を漏らす。だがそれは、同時に安心感からの言葉でもあった。
「手なずけただなんて、人聞きが悪いですね。少しの間、力を借りているだけです。この戦いのために」
言いながら、ユキもボールを構えた。そして、正面に鎮座するブラックキュレムを見据える。
「キュレム、確かにあなたは強い。地上最強のドラゴンポケモンの名が伊達でないということは分かっています。ドラゴンの弱点は冷気。その冷気を操るあなたが、その称号を得るのは道理とも言えるでしょう。しかし、氷を操るドラゴンはあなただけではありません。氷、雷、そして炎。これら三つの力を統べることができるのは、あなただけではないのです」
ユキはボールを開く。そして吹雪と共に、氷帝が姿を現す。
「アスフィア!」
現れたのは、氷の龍。紫色の体に大きな二枚の翼。首の裏には金色の輪が弧を描いている。
鷲を司る星が瞬く時にその姿を氷帝へと変化させるという幻の龍。旋風ポケモン、アスフィア。
ライラプス、ガニメデ、そしてアスフィア。
別地方の伝説のポケモンが三体、この場に並び、ブラックキュレムと相対する。
しかし、
「キュレムを再び封印する、ですか。そしてそのための戦力が、その三体……フフフ、フハハハハ!」
ゲーチスは焦ることなどなく、むしろ余裕すら感じる笑みを浮かべていた。
「伝説のポケモンが三体いようと、ブラックキュレムに敵うはずがない! そもそも、伝説のポケモンはその伝説が残る地でなければ力を十分には発揮できない! そ奴らの力は、伝説ので語られるものほどの脅威はない! だが、ワタクシのキュレムは、このジャイアントホールでこそ力を発揮する、この場所はキュレムのパワースポット。そして、キュレムの力もいよいよ安定してきました。今までは力を制御するために、出力をある程度制限していましたが、もうその枷は必要ありません。あとは、お前たちを凍らせ、何も残らぬほど叩き潰すだけだ!」
直後、ブラックキュレムは冷気を吸収し、電気を大量に放出した。
「フリーズボルト……!」
イリスは戦慄する。標的を凍らせるコールドフレアと違い、フリーズボルトは相手を粉砕する技。一撃でも喰らえば、ほぼ終わりだ。ここは確実にかわしておきたい。
だが、
「知ったことか! ライラプス、大地の怒り!」
「そうだね。ガニメデ、ハリケーンだよ」
ライラプスとガニメデは二手に分かれ、左からは大量の土砂を噴出し、右からは激しい嵐を吹き荒ぶ。さらに、
「アスフィア、吹雪です!」
アスフィアもキュレムに負けず劣らずの凍てつく猛吹雪を放つ。
同時に三方向から、伝説のポケモンが放つ大技を喰らったブラックキュレムは、
「効かぬ! 消し飛ばせ、ブラックキュレム! フリーズボルト!」
頭上に電気を帯びた巨大な氷塊を作り出す。そしてそれを、地上目掛けて思い切り突き落とした。
地面に直撃した氷塊は、二つ目のクレーターを作り、氷塊の破片を四方八方に飛び散らす。掠めるだけでも致命傷となる氷塊が飛び散るのは非常に危険だ。だがその時、ライラプスが動き出す。
「んなもん、当たるわけねぇだろ」
突如、地面が捲れる。氷塊が飛び散る寸前に、隆起した地面が砕けた氷塊を包み込んだのだ。よって氷塊は飛び散らず、そのまま消滅した。
「これは……!」
その光景を見て、ゲーチスは顔をしかめた。
「ライラプスは地形を歪める力を持ってんだ。そんなに攻撃を当てたいのなら、直接ぶち当ててみな。ライラプス、悪巧み!」
ライラプスは一瞬でブラックキュレムから離れ、特攻を一気に上昇させる。
「ふん、ならばお望み通り、直接攻撃を当ててみせようではないか! ブラックキュレム、ストーンエッジ!」
今度は鋭く尖った岩を無数に浮かべ、それらをライラプス目掛けて連射する。一撃一撃がさっきの氷塊の破片並みに巨大なため、効果いまひとつでも相当なダメージになるだろう。
しかし、ブラックキュレムのストーンエッジは、ライラプスには掠りもしなかった。ライラプスがかわしたのではなく、岩からライラプスを避けたかのように、全て外れたのだ。
「ふふふ、そんな簡単に攻撃が当てられると思ったかい?」
ガニメデの後方で、ロキは底知れない微笑みを見せていた。
「今度はこちらか……っ!」
ガニメデは感覚を狂わせるポケモン。今のストーンエッジも、ガニメデによって発射の瞬間に視覚かどこかを狂わされ、攻撃が当たらないようにされたのだろう。
「ガニメデ、悪巧み」
そしてガニメデも同じく特攻を急上昇させる。
「小癪な……ブラックキュレム! 貴様の手、自らの爪で奴らを引き裂け! ドラゴンクロー!」
ブラックキュレムは龍の力を込めた爪を振りかざし、一番近くにいたアスフィアへと襲い掛かる。ホワイトキュレムは力を制限していたからなのだろう、ほとんど動かなかったが、ブラックキュレムは制限がなくなったために移動が可能。タービンを回し、途轍もないスピードでアスフィアへと突っ込んでいくが、
「龍の舞」
アスフィアも龍の舞を踊り、宙を舞ってブラックキュレムの攻撃を回避する。
「ぐぬぬ……! ならばこれはどうだ! ブラックキュレム、クロスサンダー!」
ブラックキュレムは全身に蒼色に弾ける雷を纏う。そして空高く飛び上がり、アスフィア目掛けて急降下する。
「ロキさん、イリゼ君。援護をお願いします。アスフィア、神速です」
アスフィアは超高速でゼクロムに突っ込み、正面からぶつかり合う。
「了解だよ。ガニメデ、サイコバーン」
「やってやれ。ライラプス、大洪水!」
そして横からは、ガニメデが引き起こした念力の爆発と、ライラプスが放った洪水の如き水流がブラックキュレムに襲い掛かる。だがこれでも、ブラックキュレムの攻撃は止まらなかった。
しかし、
「レシラム、クロスフレム!」
ブラックキュレムよりも遥か頭上から、巨大な紅色の火球が放たれる。火球は蒼色の雷を吸収し、ブラックキュレムに直撃。地面に叩き落とした。
「っ! 英雄……!」
ゲーチスはレシラムを従え、戦場に立つイリスを憤怒の形相で睨み付けている。
世界の命運を左右する、イッシュの大戦争。この戦いが終結するのも、遠くない未来だ——