二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 577章 帝 ( No.847 )
日時: 2013/04/05 13:38
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html

「ケヒャハハハ……こいつは凄えな、戻って正解だったぜ。ライラプス、ガニメデ、アスフィアに、レシラムとブラックキュレム。実質、六体の伝説のポケモンが揃ったことになんのか」
 ジャイアントホールへと戻って来たアシドは、ジバコイルに乗り、離れた位置から伝説のポケモンが戦い合っている様子を見ていた。
「こんなもんが見られるのなら、計測器を持ってきときゃ良かったな。もったいないぜ、ケヒャハハハ!」
 笑いながらも、アシドは伝説のポケモンから目を離さない。ずっと、ジッと見つめている。
「さーて、この大激戦を制するのは、どっちなんかね……」



「……凄いな、こりゃ」
「おぉー……」
 こちらも、遠く離れた場所から伝説のポケモン五体による戦いを見ているフォレスとフレイ。二人も、伝説のポケモンが五体もいて戦っているという状況に圧倒されていた。
「まさか、生きている間にこんな光景が見られるとはな。いい思い出……には、なりそうにないな」
「もしブラックキュレムが勝てば、本当に思い出で終わっちゃうけどねー」
「縁起でもないこと言うな」
 フレイを背に乗せ、フォレスは彼女を軽く小突く。
「だが、ブラックキュレムの力も恐ろしいな。レシラムだけならともかく、ライラプス、ガニメデ、アスフィアの三体を相手にして、あそこまでやれるとは」
「たぶん、ゲーチスの力も関係してるんじゃないかなー。キュレムはレシラムやゼクロムと違って、純粋な思想じゃなく、混濁した濁りのある意思を求めてるからねー。その点なら、思想から汚れきったゲーチスはキュレムの力を引き出してるとも言える」
 フレイの推測混じりの説明に、フォレスは相槌を打ち、
「それと、世界を支配するなんて、普通に考えりゃ夢物語、つまりは理想論だ。だからこそ、真実のレシラムより、理想のゼクロムを吸収したブラックキュレムの方が、力をより多く引き出しているってことか」
「そだねー。さっすが、血縁関係なくてもハルモニアの親子ってところかなー」



「……凄いですね、あなたのお母さん」
「俺も驚いてる。母さんが腕の立つトレーナーなのは知ってたが、ここまでとはな……」
 目の前で繰り広げられている激戦を眺め、レイとザキは言葉を交わす。
 ブラックキュレムは、四方から攻めてくる伝説のポケモン四体の攻撃を凌ぎ、隙を見て反撃している。ライラプスの地形を歪める力や、ガニメデの感覚を狂わせる力がある限り、力押しは通用しない。それでも、ブラックキュレムの力は強大だ。
「これだけの戦力があっても、五分ですか……英雄さんやお義母さんには勝ってもらわないと困るのですが、大丈夫でしょうか」
「おいお前。今、お母さんの発音おかしくなかったか?」
 ザキはやや慌てたように指摘するが、レイはスルー。伝説のポケモンの戦闘に見入っていた。
「……あとで、あなたのお母さんとお父さん、妹さんとも話をしなければなりませんね」
「こんな時に何を考えてんだお前は!」



「大犬、鷲、氷帝に雷帝……そして英雄と使者、ですか」
 伝説のポケモンが繰り広げる激戦を眺め、エレクトロはふと呟く。
「今にして思えば、貴女はもっと伝説とポケモンと関わりを持っていたほうが自然、逆に言えば、今まで関わってきた伝説が少ないのは奇妙ですね、リオ」
「……なによ、いきなり。しかもこんな時に」
 目を覚まし、あらかた事情は把握したリオは、自然とエレクトロを受け入れていた。それでも彼女は、シャンデラの炎を受けてまだ生きているエレクトロが不思議だと思っているようだが。
「いえ、ただなんとなく思っただけです。私とてあなたの来歴を全て把握しているわけではありませんが、それでもあなたが関わってきた伝説は少ない、その上に浅い。確か、救世主の愛弟子との関わりがるくらいでしたか」
「……別に、それだけってわけでもないけど。それでも確かに、イリスやあそこで戦ってる人たちに比べたら、伝説のポケモンとは関わってないかもね」
 種類にしろ、関係の深さにしろ、それは同じだ。
「私は最初、あなたにも英雄の素質があるものだと思っていましたが……そういうわけでも、ないのかもしれませんね」
「私は英雄って柄じゃないわ。まあでも、イッシュを救いたいって気持ちは、彼らにも負けるつもりはないけどね」



「……これが、お前の言う龍の力か。いや、それ以上かもな」
 ムントは少し離れた位置からブラックキュレムと戦う伝説のポケモンたちを見ていた。その手には一本の石製の牙が握られている。
「キュレムの復活は止められなかった……だが、また封印できるかもしれない。俺が出来ることはもうないが、せめて、この戦いを最後まで見届けさせてもらう」



「これが、伝説の力か……!」
 ザートは危険を顧みず、凍りついた木々の間に身を潜ませ、近くから伝説のポケモンたちを見つめている。
「素晴らしいな。これだけの力がぶつかり合う様など、そう見られるものではない」
 ザートからすれば、ブラックキュレムが勝つ負ける以前に、伝説のポケモンが争っているという状況が重要だった。
 伝説のポケモン特有の多大な力が、ここまで伝わってくる。やはりこれらの伝説は、崇拝するに値するものだ。
「だが……これを伝える者は、いるだろうか」
 二年前も、真実のレシラムと理想のゼクロムが雌雄を決する戦いを繰り広げた。しかし現代の社会は、その事実を表沙汰にはせず、結局伝説は伝説のままとなってしまった。
 本来、ザートは二年前にレシラムとゼクロムが戦ったことで、その役目を終えるはずだった。伝説の力が世界に広まり、それでザートの目的は達成されるはずだった。
 だが事実が隠蔽され、伝説は隠されてしまったがゆえに、彼女は7Pとして動くことにしたのだ。
「……この戦いは、消えてはならん。悲劇と歓喜、そして伝説を伝えるべく、この戦いの記録は残さねばならん」
 ザートは呟く。力強く、懇願するかのように。
「英雄、貴様が勝つのは自由だ。だが、伝説の力を闇に葬るような真似だけは、してくれるなよ……!」



「アスフィア、氷雷波」
「ガニメデ、ハリケーン」
「ライラプス、大地の怒り!」
「レシラム、クロスフレイム!」
 四体のポケモンの大技が一斉にブラックキュレムに炸裂する。しかしそれでもまだ、ブラックキュレムは倒れず、分離もしない。
「ブラックキュレム、クロスサンダー!」
 ブラックキュレムは全身に弾ける蒼色の電気を纏い、自らを雷球と化し、空高く飛翔した。
「デュアルクロスと言ったか。貴様の炎、利用させてもらうぞ。英雄!」
 レシラムの炎を吸収し、纏う電撃が増大したブラックキュレムは、そのまま凄まじい勢いで急降下する。
「やばい……!」
 デュアルクロスが発動したブラックキュレムのクロスサンダーの威力は、ゼクロム比ではないだろう。伝説のポケモンと言えど、この一撃は致命的。
 だが、しかし、

「アスフィア、雷帝へ!」

 直後、アスフィアが激しい電撃を纏う。ブラックキュレムのような攻撃の電撃ではない。アスフィアは電撃の中で、その身を変化させる。
 電撃が消えると、そこにはさっきまでのアスフィアとは違う姿の龍。
 現れたのは、雷の龍。黄色と緑の体にしなやかな四肢。首の裏には銀色の輪が弧を描いている。
 大犬を司る星が瞬く時にその姿を雷帝へと変化させるという幻の龍。旋風ポケモン、アスフィア。
「フォルムチェンジ……! アスフィアも、複数の姿を持っているのか」
 雷帝へと姿を変えたアスフィアは、真正面からブラックキュレムのクロスサンダーを受ける。効果いまひとつということを抜きにしても、非常に安定した防御だ。デュアルクロスが発動したブラックキュレムのクロスサンダーを、完全に凌いでいる。
「アスフィア、雷です」
 クロスサンダーを耐え切ると、アスフィアは激しい稲妻をブラックキュレムに落とす。ゼクロムの力を吸収し、電気技が使えるとは言っても、ブラックキュレムのタイプは氷とドラゴンだ。半減タイプはドラゴン一つ。
「ライラプス、ダイヤブラスト!」
「ガニメデ、熱風」
 さらにライラプスの煌めく爆風と、ガニメデの高温の熱風が追撃をかける。
「ブラックキュレム! 奴らを振り払え! ストーンエッジ!」
「レシラム、龍の波動!」
 ブラックキュレムが鋭く尖った岩を放つのに合わせ、レシラムも龍の波動を撃ち込む。一瞬でもブラックキュレムの気が逸れれば、後はガニメデが感覚を狂わせて軌道を逸らしてくれる。
「まだだ! ライラプス、大地の怒り!」
「ボクらも行くよ。ガニメデ、ハリケーン」
 土砂と暴風を両サイドからぶつけ、ブラックキュレムは動きを止めてしまう。
 そして、

「アスフィア、氷雷波」

 その隙にアスフィアは冷気と電気を吸収し、凍結した稲妻を波動に乗せ、ブラックキュレムへと放つ。
 ブラックキュレムはその一撃の直撃を喰らい、大きく態勢を崩したが、
「まだだ! ブラックキュレム、フリーズボルト!」
 態勢を崩したまま、ブラックキュレムは冷気を吸収し、大量の電気を放出する。
 そして次の瞬間、ブラックキュレムの正面には途轍もなく巨大な電気を帯びた氷塊が、四つも作り出された。
「ブラックキュレム! 奴らを消し去れ!」
 そして、四つの氷塊は、それぞれの伝説へと向かっていく。