二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 578章 旋風 ( No.849 )
日時: 2013/04/13 16:35
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html

 電気を帯びた四つの氷塊は、容赦なく四体の伝説のポケモンへと向かっていく。伝説のポケモンと言えど、この氷塊の直撃を受ければひとたまりもないだろう。
 しかし、

「アスフィア!」

 刹那、アスフィアが業火に包まれる。レシラムほど静かな炎ではない。アスフィアは荒々しい業火の中で、その身を変貌させる。
 業火が消えると、そこにはさっきまでのアスフィアとは違う姿の龍。
 現れたのは、炎の龍。黒い流線型の身体と翼竜のような翼、獰猛な牙や眼。首の裏には緑色の輪が弧を描いている。
 炎をその身に纏い、琴座の力を得た幻の龍。旋風ポケモン、アスフィア。
 氷帝、雷帝、と続く第三の姿。
「アスフィア、大文字です」
 アスフィアは口から大の字の巨大な炎を放つ。大きさも相当だが、なにより凄まじいのはその速度。大文字は他の遠距離攻撃に比べて攻撃が遅めだが、このアスフィアが放つ大文字はかなり速い。あっと言う間に四つの氷塊すべてに大文字を直撃させ、瞬く間に相殺してしまった。
「四体を一度に狙ったのが仇になりましたね、ゲーチス。ブラックキュレムと言えど、そんなことをすれば威力が分散してしまうのは自明の理。この場所ではアスフィアよりもキュレムの方が力は強いですが、あなたがそのような精神状態ならば、キュレムの力をすべて引き出すことなどできません」
 たしなめるようなユキの言葉を受け、ゲーチスは強く歯を軋ませる。そして、憎々しい眼でユキを睨み付けた。
「好き勝手に言いって……! ならば貴様から消し去ってやろう! ブラックキュレム、フリーズ——」
 狙いをアスフィアに定め、ゲーチスとブラックキュレムは大技で決めにかかろうとする。
 だがゲーチスの指示が届くより早く、ブラックキュレムが氷塊を生成するよりも前に、大きな突風がブラックキュレムを襲っていた。
「ガニメデ、ハリケーン」
 いつの間にかブラックキュレムに接近していたガニメデは、猛烈な突風でブラックキュレムの動きを止める。効果はいまひとつだが、ガニメデの放つハリケーンだ。一瞬くらいならブラックキュレムの動きも止まる。
 そして、
「ライラプス、大地の怒り!」
「レシラム、青い炎!」
 その隙にライラプスは地面から土砂を噴出し、レシラムは青く燃える炎を放ち、それぞれブラックキュレムへと攻撃する。
「振り払え、ブラックキュレム! クロスサンダー!」
 ライラプスとレシラムの大技を一度に受けても、ブラックキュレムは止まらない。全身に弾ける電撃を纏い、土砂と青い炎を振り払って急上昇する。そして狙いを一番近くにいたガニメデに定め、すぐさま急降下した。
「っ、まずいね……ガニメデ、連続でサイコバーンだよ」
 ガニメデは咄嗟に念力の爆発を連続で引き起こし、衝撃波を放つ。ブラックキュレムは衝撃波で勢いが減衰したが、それでも止まることはない。衝撃波を突っ切ってぐんぐんガニメデへと接近していくが、
「アスフィア、神速」
 刹那、超高速でアスフィアがブラックキュレムに突っ込んだ。龍の舞で攻撃力が上がっているため、タイプ不一致の神速でも十分な威力が見込める。加えて側面からの攻撃だったので、クロスサンダーの軌道がずれた。さらに、
「ダイヤブラスト!」
 次の瞬間、ライラプスがブラックキュレムに接近していた。ライラプスは白色に煌めく爆風を放ち、ブラックキュレムに直撃させる。神速でずれた軌道は大きく曲がり、ブラックキュレムは勢いを殺し切れず、地面へと激突していった。
「助かったよ二人とも。流石にあんな攻撃、喰らえないからねぇ」
「分かったから、とっととこいつをぶっ倒すぞ。やっぱ場所が悪ぃぜ」
「そうですね。ジャイアントホールはキュレムのパワースポット。対する私たちの伝説のポケモンは、本来いるべき場所から離れてしまっています。十分な力は発揮できないでしょう」
 四対一で、状況はブラックキュレムが劣勢に見えるが、実際はかなり拮抗している。
 ゲーチスも言っていたが、伝説のポケモンはその地方、地域と強く結びついているもの。ゆえに、その力を十分に引き出すには、その伝説が伝わる場所でなければならない。
 そのため、アスフィア、ライラプス、ガニメデの三体にレシラムが加わってやっと、総合的な実力が同じになっている。
「とはいえ、そろそろブラックキュレムも、ゼクロムと分離しかかってるみたいだけど……」
 イリスが呟く。
 先ほど少しの間だけゼクロムと共に戦った影響なのか、ブラックキュレムがキュレムとゼクロムに分離しつつあることが、イリスには感じられる。ホワイトキュレムの時よりも弱いが、感覚として伝わってくる。
「うん、そうだね。確かに、ゼクロムはキュレムから剥がれかかってるっぽいね」
「そうなのか? 俺にはさっぱり分からねぇが」
 同意するロキと、首を傾げるイリゼ。どうやら前世代でも、真実の英雄なら感じるところはあるようだ。
「なんにせよもう一息です。このまま攻撃を続け、キュレムとゼクロムが分離する。そしてその時が勝負です、イリスさん」
 ユキはイリスに視線を移す。その視線を受けてイリスは、手にした境界の楔を強く握った。
(もうすぐか……)