二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 580章 終結 ( No.851 )
- 日時: 2013/04/14 14:25
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- 参照: http://www40.atwiki.jp/altair0/pages/308.html
アスフィアとレシラムはブラックキュレムと同じ高度まで達した。ロキの言うように、ブラックキュレムは攻撃が標的に当たるか外れる、中断されるまで次の行動に移れない。二体のポケモンを合体させた歪な存在であるがゆえに、そのような融通が利かないのだ。
なのでライラプスとガニメデがフリーズボルトを止めている今が好機。ブラックキュレムが完全に無防備となっている今、アスフィアとレシラムの大技を叩き込めば、ブラックキュレムは分離するはず。
「参ります……アスフィア」
「レシラム、君もだ」
アスフィアとレシラムはそれぞれブラックキュレムと向かい合い。構える。下の二体も長くはもたない、渾身の一撃で決めるしかない。
アスフィアはその身に炎を纏い、レシラムは燃え上がるジェットエンジンから炎を噴き出す。
そして、
「アスフィア、灼熱砲」
「レシラム、青い炎!」
アスフィアは口腔内に凝縮した業火をさらに圧縮し、最大までエネルギーを溜め込む。いや、最大の力をさらに超過するほどの業火を集め、灼熱の火球を作り出す。
レシラムは紅色に燃える炎を、瞬く間に美しき青い色へと変貌させる。踊るように燃え盛る青い炎はレシラムの周囲を旋回するように動き回る。
次の瞬間、アスフィアは灼熱の砲弾をブラックキュレム目掛けて発射。それに続き、レシラムも青色に燃える炎を灼熱砲の後を追うように放つ。
灼熱の砲弾に青い炎がプラスされた爆炎の砲弾は、容赦なくブラックキュレムの巨体へと直撃する。その一撃でブラックキュレムは大きく姿勢を崩してしまう。
「ブラックキュレム!」
しかもそれだけではない。ブラックキュレムの背から、漆黒の両翼が飛び出している。キュレムとゼクロムが分離寸前なのだ。
この時点でイリスたちの目的はほぼ達成されている。もう間もなくゼクロムはキュレムから剥がれ、合体が解かれたキュレムは封印されるのだから。
だがゲーチスは、まだ諦めていなかった。
「ブラックキュレム、フリーズボルト!」
灼熱砲と青い炎で身を焦がされながらも、ブラックキュレムは冷気を集め、電気を放出し、巨大な氷塊を作り出す。
ブラックキュレムが動いたということは、ライラプスとガニメデは一撃目のフリーズボルトが抑えきれなくなり、やられてしまったということ。この二撃目のフリーズボルトも、アスフィアやレシラムが喰らえば戦闘不能は免れないだろう。
「っ、イリスさん! アスフィアでフリーズボルトを止めます。ブラックキュレムは任せました」
氷塊を視認した一瞬で、ユキはイリスに向かって叫ぶ。その後のユキの行動は早く、アスフィアはあっという間に氷塊の目の前まで移動していた。
「来ましたね、旋風の龍! 貴様もブラックキュレムの氷塊に砕かれるがいい!」
そして、氷塊はアスフィアへと一直線に飛んでいく。やはりその勢いは凄まじく、止めることはほぼ不可能。
しかし、
「アスフィア、灼熱砲」
アスフィアはあえて氷塊と重ならない軌道で灼熱の砲弾を発射した。砲弾はギリギリ氷塊と接触せずに一直線に飛来し——ブラックキュレムへと、直撃した。
「ぬぅ……っ!」
直後にアスフィアはフリーズボルトを喰らって地面に墜落したが、差し違えるようなアスフィアの灼熱砲でブラックキュレムにも隙が出来た。ゼクロムとの分離も目前だ。
攻めるなら今、これが最後。
「レシラム、クロスフレイム!」
レシラムはジェットエンジンをフル稼働させ、紅色の炎を噴き上げる。それを頭上に集めて圧縮し、巨大な火球を生成する。
「レシラム! 世界やイッシュの前に、ゼクロムを救うんだ!」
レシラムとゼクロムは、元々一つの存在。対立していたとはいえ、レシラムにもゼクロムは必要不可欠な存在だ。
ゼクロムを解放する一心で、レシラムは生み出した火球を解き放つ。火球はまっすぐにブラックキュレムへと向かっていき、直撃した。
「ブラックキュレム!」
ブラックキュレムは地面に落ち、紅色の炎でその身が焼かれている。背中からは屈強な腕や、巨大なタービンまで飛び出しており、今まさに、ゼクロムの顔が上がった。
「——ゼクロム!」
次の瞬間、ゼクロムは大空に飛び立つ。同時にキュレムは灰色の虚無の姿へと戻り、もうほとんど威圧感は感じない。
イリスは手にした境界の楔を握った。
「イリス、行ってこい」
「イリス君、頼んだよ」
「イリスさん、お願いします」
イリゼ、ロキ、ユキの三人が言葉をかける。イリスは少しだけ振り返り、その三人に視線を向ける。
「はい、行ってきます……!」
地面を蹴り、駆け出した。
キュレムとの距離はさほど離れていない。ダッシュすればすぐに到達する距離だ。距離を詰めると、イリスは大きく楔を振りかぶり、キュレムの額に突き刺さんとする。
これが最後。この楔を突き刺せばすべてが終わる。長かったプラズマ団との戦いが終結する。
ほんの一瞬のうちに、今までの戦いを想起するイリス。だが、狂ったような怒声がそれを邪魔する。
「まだだ! まだ終わらん!」
どこからかゲーチスの叫び声が聞こえ、イリスの背筋に悪寒が走った。
「キュレム、凍える世界!」
刹那、イリスの周囲が凍りつく。イリスの周りには鋭く尖った氷柱のような氷塊が何本も浮かんでおり、イリスを貫かんとする。
「っ……!?」
キュレムに楔を突き刺すまで、正に目と鼻の先。一瞬以下の時間でキュレムを封印できるのに、最後の最後で、キュレムの凍える世界に阻まれてしまう。
終わりなのはこの戦いではなく、自分の人生だったのかもしれない。そんなことを思ってしまうイリスだったが、まだ理想は残されていた。
ライラプスやガニメデ、アスフィアは既にやられている。レシラムも今からではイリスの下まで辿り着けない。もう、イリスを守るポケモンは残っていなかった。
そう、たった一体の、真実の黒龍を除いては。
「ゼクロム、クロスサンダー!」
突如、蒼色に弾ける雷がキュレムを襲う。その衝撃でイリスを包囲していた氷塊は砕け散り、今度こそ、キュレムは無防備な状態となった。
確かにレシラムたちではキュレムには届かない。だが、キュレムと分離したばかりのゼクロムなら、キュレムに攻撃できる。
「N!」
「イリス、行け! 君の手でこの世界を救うんだ!」
電撃が散る中、イリスとNは叫ぶ。短いやり取りの末、イリスは再び駆け出した。
目の前の境界の龍、混濁の使者、キュレム。
「う、おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
その額に——境界の楔が、打ち込まれた。
「な、なんということだ……っ!」
ゲーチスは手にした杖を取り落とし、わなわなと震えている。
境界の楔を打ち込まれたキュレムは、再び氷塊の中へと封じ込められた。分厚く、途轍もない力を感じる氷だ。キュレムでも破ることはできないだろう。
「終わった……?」
凍りついたキュレムを目の前に、イリスは呟く。これで長かった戦いは終わった。やっと、世界に平和が——
「終わるものか!」
——来る、と思った瞬間に、ゲーチスが叫ぶ。
「……ゲーチス」
だがその叫びは、現実を受け入れられないというような悲痛の叫びだ。まだ足掻こうとしている、哀れみたくなる叫びだ。
「こんなところで終わるものか! 一体、今までワタクシがどれほどの時間と労力をかけてここまで来たと思っている! それが、こんな……まだだ! まだ終わらぬ!」
左手で頭を押さえ、息苦しそうに喚き散らすゲーチス。もはや理性を保っているとは思えない。
「……ゲーチス、もう諦めるんだ。私利私欲のための支配は、この世界では起こってはいけないこと。起こってはいけないことは、起こりえないんだ」
「黙れ! 貴様に何が分かるというのだ! この、ワタクシの苦しみが! ガアァァァァァッ!」
もはや話すらもまともに出来ず、支離滅裂に喚くゲーチス。完全に発狂している。どうしてものかとイリスたちが手をこまねいていると、三つの影がゲーチスを取り囲んだ。
「っ、ダークトリニティ……」
「安心しろ、英雄たち。この戦、我々の完敗だ」
ダークトリニティは静かに告げる。
「ゲーチス様は、もう正気ではない。プラズマ団も解体だ。我々は、今度こそ退く」
言ってダークトリニティは、いくつかのモンスターボールを地面に落とした。
「伝説のポケモンも、もう必要ない。ゲノセクトの破壊も確認済みだ。英雄たちよ、我々はもう、お前たちと関わることはない。さらばだ」
次の瞬間、ゲーチスとダークトリニティはその場から消え去った。
「…………」
結果的に、プラズマ団の総統、諸悪の根源であるゲーチスを捕えることは出来なかった。だが、あの精神状態では、もうまともに悪事を働くこともできないだろう。
すべて上手く行ったわけではないが、なんにせよ目的は果たされた。プラズマ団との戦いは決着し、イリスたちが勝利した。遂に終わったのだ、プラズマ団との長い激闘が。
「終わったのか……やっと」
氷塊に手を着き、イリスは呟いた。その氷は酷く冷たかった。
本当に、今までは長かった。長く険しく、時には楽しく、しかし辛く苦しく、それでも大切に思える道程。英雄なんて関係ない、一人のトレーナーの旅路。
「これが、僕の物語なのかな——」
一人の英雄の物語は、これで一つの終わりを迎えたのだった——