二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 忠誠のキスと眠り姫. 【002】 ( No.10 )
- 日時: 2011/08/02 18:07
- 名前: ゆう ◆Oq2hcdcEh6 (ID: uUVs9zNY)
「——ほんと、使えない」
あれだけの演技をしたというのに、彩音信者の皆さんにはそんな演技なんてびくとも通じはしなかった。傍らでじっと正面を見据えている従者に怒りをぶつけるかのようにそう言葉を紡ぎ出した。その従者こと、ヒロトとエドガーはきゅ、と唇を結び作戦の失敗を悔しんでいるようにも見える。
お姫様になりたくてもなれない私の気持ちはきっと彼女には分からないしどれだけ言っても伝わらないだろう。だから私は彼女を突き落とす。そうすれば私はお姫様になれる、から。
「……姫、」
ぽつ。哀しげに姫と私のことを呼んで私の黒髪に小さくキスを落とすエドガーを横目で見て笑みを浮かべれば、エドガーはそれでも哀しげに笑った。ヒロトだって同じ表情だった。どうしてそんな顔するのか私には全く理解できない。ねえ、私、
「煌びやかな部屋も、要らないよ。私に必要なのはお姫様という地位だけ。私が手に入れたいのはそれだけなの。そうすればあの人も私を認めてくれる。彩音ちゃんばかりがオヒメサマなんて許さない」
「——分かってるよ、姫」
ぎりぎりと手に力を込めてそう呟けばヒロトが私の手に自身の手を重ねて哀しげに笑った。私はそういう笑い顔なんて求めてはいない、のに。私は結局何時も大切な人にそんな顔をさせる。笑顔にさせたいと願うのは自分なのに、大切な人は何時も哀しげにする。あの人だってそうだった。どれだけ収めようとしても掌からぼろぼろ、ぼろぼろ、と零れ落ちていく。
「————あの人に認められるのなら、どんな手を使っても良いの」
「姫、ですがあの方はもう、」
エドガーの紡ぎだすその言葉を聞くまいと耳を両手で塞ぎ、私は虚空を仰ぐ。あの人は眠ってるだけ——、そう言い聞かせて今日も私は演技をするの。
叫び声を上げた瞬時に見えた彩音ちゃんの姿が酷く歪んで見えた。
( それでも私は今日もただ、 )
** ??視点 **
あまりにも哀し過ぎる現実だった。
私の最愛の子、亜美は彩音という女の子を嵌めているようだった。お姫様じゃなくても、私は亜美を認めているというのに。彼女は純粋で無邪気で、——人に認められたいという気持ちがより強い女の子だった。お姫様になれば私に認めて貰え、更には私が好きになってくれる。きっと純粋にそう考えているんだろう。でも私はありのままのあの子が好きなだけで、別にあの子がお姫様だろうと何だろうと関係は無い。彼女は私を信じ過ぎ、依存し過ぎている。だから私は離れなくちゃならないと思ったの、に。私の存在は彼女にとってあまりにも大きなものだったみたいだ。
私が死んだと伝えた瞬間に彼女は何て言った? 寝てるだけ。起きてくるんだ、って。いきなりの言葉に彼女はぱっちりとした大きな瞳を見開いて、ショックから涙も流せずにそう言葉を紡いだの。確かに私は彼女の育ての親だし懐かれていても何ら問題は、無い。それでも彼女はあまりにも異端すぎた。それでも、
「——あの子に依存してる私は、一番駄目なのかもねえ」
「アリア様……?」
「何でも無いわ。ただ少し思い出してただけ、」
ただ無限に広がる真っ白い病室の真っ白いベッドの上で上半身だけを起こして彼女のことを考える。傍に控えるロココの頭をぐりぐりと撫で、私はただ遠くを見つめた。
「アリア様が居ないと、アミはもっともっと、」
「壊れるでしょうね」
「じゃあ……!」
「……ロココ、亜美はね、私に依存してるの。私も亜美に依存してる。だからね、依存してはいけないの。亜美から離れれば、私の存在は必要じゃ無くなるでしょう? ロココ、ごめんね。きっとエドガーやヒロトが亜美を支えてくれるの。私は死んだの」
ロココがぽかん、と此方を見つめている。私はただ穏やかに笑み、もう一度だけロココの頭を撫でて白いベッドへ寝転んだ。
( それが正しいとは言えないけれど )