二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【銀魂】真選組女中ですけど。【原作沿い ( No.591 )
日時: 2012/03/12 22:06
名前: いちか ◆iK/S6sZnHA (ID: q4MzvCIN)



じぃ、と銀時は穴が開くほど見つめていた。

「食いてェ。…だが金がない」

甘味処の前に置かれている、数々のオススメ商品が掲載された看板を。


137)お金は少しでも貯金しておくべき


甘味処の前をひたすら行き来している銀髪は、
財布を片手に何か呟いている。

「今日は諦めるか。いやでもこれ苺はみ出てるもんな。期間限定らしーし」

とはいっても、財布の中には50円玉が一つだけ。
50円では目当ての苺大福など買えやしない。よって諦める他ない。
だが何故か銀時はずっと此処に留まっているのだ。


「この苺大福、ふたつくれる? えっと、此処で食べてく」

そんな時だった、彼女が現れたのは。

笠で顔を隠した女。銀時はその女を凝視する。
自分が食べたくても食べれない苺大福を、この女はいとも簡単に。

店の人から苺大福がふたつ乗った皿を受け取った女は、店前のベンチに腰を下ろす。
そして一つ目を口に運ぼうとするのを、銀時は涎が垂れそうになりながら羨ましそうに見つめた。


……、一向に口に入れない。
不思議に思った銀時が首を傾げると、女は笠を外しながら言葉を発した。

「そんなに見られちゃ食べ辛いんだけど」

笠が取れ、露になったその顔を見て思わず目を丸くする。

腰まで靡く長い髪、サラシが見えるほど胸元の開いた蒼い着物。
以前会ったときとはめっきり変わっていたが、

この顔は、間違いなく、


「お久しぶり、坂田さん」


楠木霞だ。


「てめーは…」

咄嗟に銀時は腰の木刀に手をかける。
コイツの妹、鈴から聞いた覚えがある。コイツは今、高杉の率いる鬼兵隊に属していると。
今思えば、その話を聞いたのは紅桜の一件が起こる少し前…紅桜の件のときには、彼女は船にいたのだろう。

この時自分は高杉との縁を切った。今じゃ立派な敵同士なわけだから、コイツも無論敵。
そういう判断で木刀に手をかけ構えたわけだが。

霞の方はそんなつもりはないらしく、身構える銀時を見て少々大袈裟に驚いてみせた。

「ちょっと、何のつもりよ。物騒ね」
「…」
「別に私は、此処の苺大福が美味しいって高杉に聞いたから食べにきただけだし。
 そしたらコレを食べたそうにしてる銀髪さんがいたの」
「てめー知ってて買ったのか」

銀時は木刀に添えた手を放し、苺大福を頬張る霞を軽く睨んだ。
高杉が苺大福なんか食べるのか、とも思ったがそれは個人の勝手なので放っておく。

「いや、だから元々コレを食べにきたって言ったでしょ。知らなくても買ってたしアンタがいなくても買ってた」

そう言うと霞は、残り一つの苺大福が乗った皿を銀時に差し出す。

「…なんだよ」
「なにって、いらないの? じゃあいいや、私が食べ」
「有難く頂戴致します」


霞の隣に座り、食べたかった苺大福を頬張る。
あまりの美味しさに、銀時はこれでもかというほどに顔を緩めた。