二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【ボカロ】夢に惑わされて、【人柱アリス】   ( No.14 )
日時: 2011/10/08 21:43
名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: V9u1HFiP)

 暗い森の中には、見え難いが確かに川があった。メイコは、川辺まで近付いて、そこにしゃがみこんだ。そして、川の水を手で掬い、口の中に入れる。何度かそれを繰り返し、腹を満たす。

「うぅ……腹を満たす為とはいえ、飲みすぎると流石に気持ち悪いわね……」
 
そこに草が茂り、こけも生えている事もおかまいなしに、メイコは寝転がった。そして、上を見上げる。
 空が、どこまでも遠い。木々の葉は、夜空も、青空も、見させてくれない。時間を知らせてくれない。
 メイコは、悩んでいた。それは、自分の生死に関する事である。早めに町を見つけなければならないと思うのだが、水を飲んだだけでは腹が満たされる筈もなく、動く気力がなかった。空腹で倒れてしまう前に町を見つけなければならない。今動けばいいのか、今眠って、体力を温存してから動けばいいのか。

「こんな事なら、何か持ってくるんだったわね……ラパンも、教えてくれたっていいのに。あの変人」

いつぞやのウサギ耳を付けた青年、ラパンを思い出し、疲れ気味に文句を吐き出した。
 風の音と、水の音。しきりに鳴るその心地良い音色が、子守唄の様になって、メイコに眠気を催させる。

「まあ、いいわ。眠たいから、眠りましょ」

仰向けになって、大の字の格好。そしてメイコは、自分の本能に忠実になって、目を閉じた。


「……ふああ。うぅ」
 
欠伸をしながら目を開ける。いつも通りの日常は、なかった。いつも訴えてくる空腹は、昨日から続いている。食料もまともにない森の中で、メイコは初めて一日を過ごした。
 目を擦って起き上がり、川の水で顔を洗った。それでも、光は見えない。

「はあ、お腹空いた」

冷たい水が、メイコの喉を通る。両手で水を掬い、落ちないうちに飲み干す。何回も繰り返すが、腹は満たされない。腹の中に、水が溢れている感覚を、メイコは感じて、気持ち悪いと小さく呻くのだった。
 暫く動く事もせず、ただ川の向こうを見つめてみるが、何も変わった事はない。
 横を見てみると、ラパンに渡された剣が置かれていた。金色の柄にスペードのマークのついた、刀身の白い剣を、見つめていた。

「折角あるんだし、何か斬ってみたいわね……まあ、時が来たら斬る事になると思うけど」

剣を見つめて、呟いた。そして続ける。

「くだらない願望でゲームオーバーになるのも、嫌だし」

笑いながら剣を取り、メイコはそこから立ち上がる。
 空腹と戦いながら、歩を進めた。