二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 君が教えてくれたこと〜思い出というキーワード〜 ( No.15 )
日時: 2011/08/10 23:54
名前: 宇野沢千尋 ◆pcUHgqcj4Y (ID: SkGQb50P)

—幼馴染—

田島が記憶喪失になってから、もう1週間たったとき、
この日もいつものように、林檎の差し入れを持って
病院に向かった。


「悠一郎、林檎食べる?俺、やっと綺麗に林檎むけるようになったんだ…。」

静かな病室で俺はそう言い、林檎をシャリシャリと剥き始めた。


オキカズトシの記憶の田島は、
自分がオキカズトシではなく、悠一郎だという事も
少しずつ理解してくれた。

水谷は、一緒にいても、全然元気がなくなってしまった。
病院にも来なくなった。

泉は、学校も違うし、病院にも来ない。
あれから一度も会っていない。

2人とも、田島の事をどうでもいいとかなったわけではなくて、
ただ、怖くなって、病院に足を入れるのも無理だったんだと思う。



「はい、悠一郎」
俺は、一切れの林檎を田島に手渡した。

「ありが…とう…」
そういうと田島は林檎をシャリシャリと勢いのある音を出して
食べ始めた。

「勇人って…林檎剥くの美味いね」

この時、
久しぶりに田島の笑った顔を見た。

この笑顔に涙が溢れそうになった。



田島とかつ丼を食べに行こうとした、あの日。

あの日も確か…こんな感じに笑顔だったな…。


そして俺は、
無意識に口を開いていた。


「ごめん………かつ丼…食べられなくなって…ごめん…っ」


俺はその言葉を残し、
勢いよく病室から出てってしまった。

そして、知らない間に病院の屋上に立っていた。

そこには、西広の横顔が見える。




…あれは涙だ。






西広は泣いていた。






西広は、俺がいたことに気付いたのか、
「あ…ごめんね…。」
と涙を拭って言った。


俺は、どうしても涙の理由が知りたかったから、
聞いたんだ。

そしたら、西広はこう言った。

「悠一郎くんが言った、‘オキカズトシ,あの人、俺の幼馴染なんだ。」

西広とオキは、昔からずっと仲がよかったらしい。

でも、あの事故のせいで、
オキは目を覚まさなくなってしまった。

「…1年も待ってるんだけどね……全然目ぇ覚まさないんだ…。」

西広はそう言い、
しゃがみ込んでまた涙を流し始めた。

「…俺…怖いんだ。カズトシと会うの。…だから、もう、ずっと病院に行ってない…。俺って…酷い奴だよな…。」

西広の気持ちは、
水谷と泉と全く同じ気持ちだった。

怖くて会えない感情。

だったら、怖くないって思えばいいんだ。
きっと、目を覚ます、そう思って勇気を持って会いに行けば…。

「辰太郎くん…俺…オキに会いたい…」

俺は、西広とオキを会わせる為に言った。

「…だから、…オキのところに連れて行って。」

西広は、少し困ったような顔をしたが、
俺の目を逸らさず、うん、と頷いた。

すると、西広は、勢いよく屋上を飛び出した。

俺もその後を追い、屋上から出ると、
屋上の扉の前に、三橋が泣きながら

「ごめん…は…話…聞いちゃ…った…。」

俺は、その泣きじゃくる三橋を見て、
迷いなく腕を引っ張って、
西広の後を追った。



オキのいる病院は、
俺達の住む隣の県。


電車で2時間乗って着くぐらい。



オキの病院は、西広病院より、
さらに大きくて広かった。


そして…



「ここが…カズトシの病室だよ。」


そう西広が言って、
ゆっくりと足を入れた。


そこにいたのは、
少し癖っ毛の黒髪の男の子。
俺よりは、身長高いようだが、
少しぽっちゃり系だった。

綺麗な白い病院のパジャマを着て、
眠っているかのように横になっていた。

「この子が…オキ…。」

「…今に…っも…目…覚ましそうな顔…してる…っね…。」


その瞬間、
静まり返っていたこの病室が、
西広の泣き叫ぶ声で一杯になった。


「っなんっで…なんで目、覚ましてくれないんだよ!!!!!」

「辰太郎くん…。」

「…西広くん。」

「カズトシ…!!!!!こんなのってないよ!!!!!!絶対、目、覚ましてくれるよな!?また…野球…するんだろ…なぁ!!!!!!!!!!」

初めて見る、西広の素顔だった。
いつもは冷静な西広なのに、
俺と三橋は、何もできずに、ただ見てるだけだった。

「俺…カズトシが目ぇ覚ますの…待ってるから!!!!!!!!!!!!」

西広はそう言い、オキの左胸に拳を叩きつけ、
病室を出て行った。


でもその後、
俺と三橋は、見たんだ。








オキから涙が流れているのが。