二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 君が教えてくれたこと〜思い出というキーワード〜 ( No.24 )
日時: 2011/12/29 15:26
名前: 宇野沢千尋 ◆DkObR1jfNg (ID: SkGQb50P)

—攫った人—

「…え…見かけた…って…」

俺は、息を詰まらせながら沖に聞いた。

沖の話によると、
たまたまこの街に来ていた沖は、
6時半頃に、制服姿の泉を見かけたのだという。

「たまたま来たっていっても、記憶をたどって、皆に会いに行こうとしてたんだけどね。………。そんで…孝介が…———。」



沖が口を閉じた。



言いにくそうな顔、
俯いて、体が震えていた。



「…一利…?」



「ごめんっ…」


沖は俺に頭を下げた。

そして続けて、


「俺、孝介が誘拐されるところ…見たんだ…。」

顔を真っ赤にして、
ずっと俯いたまま、話を続ける。


「人気のない、真っ暗な1本道だった。…俺、道に迷ってて………適当に道を進んでたら、孝介の後ろ姿が、見えて…」


沖が震えながら話す。
俺は沖の背中を擦りながら静かに話を聞いていた。

「だから話しかけようと、走って孝介のとこ行こうとしたんだけど…孝介の隣に、黒くて大きい車が止まったんだ…。だから俺、てっきりリムジンかと思って…話しかけるのやめたんだ…。」

沖はずっと下を見、俯いていた。
だから顔は見えなかったけど、
涙がポタポタと落ちるのがわかった。

そして、
沖の涙により、雨が降ったかのように地面が濡れた。



俺は、自分を責め俯いている沖の姿を見て、
胸が締め付けられるように苦しくなった。


誰も沖のせいだなんて思っていないよ。

誰も沖を責めたりしないよ。

だから…顔をあげて。



「…一利…顔、あげて…。」


俺のその言葉で、
ようやく沖は顔を上げた。

目と鼻を赤くして、
沖の涙は溢れ返っていた。



そして俺は沖をギュッと抱きしめて、


「皆で…皆で孝介を見つけよう…」


と言った。



沖は、うんうんと頷いて、
俺をギュッと抱きしめ返した。



沖は漸く涙が止まったようだ。




「ありがとう、勇人。…そんで、俺、思い出したことが1つある。」


沖は再び真剣な顔をして、
語り始めた。



「その車から、男の人が出てきたんだ。鍔付きの…キャップを被ってた。そんで、ジャージきてたと思う…。」


「男の人…?」


「うん…。年齢は分からないけど…俺たちより、身長は高かった…。辰太郎くらい…かな…?…髪型と顔は分からない。深く帽子被ってたから。…そんで、帽子に…Mって文字が光ってた。」


「M?」


「うん…。それと…その男の人…マユムラ…って名前…らしい。自分で…なんか言ってた……よく、分んなかったけど…。」





泉を誘拐した人…。



沖によってなんとなくわかった気がした。





西広ぐらいの身長の男———。
帽子を深くかぶってて、Mの文字が光っている———。
ジャージ姿———。
名前は、‘マユムラ,———。





——————————————————。






あの後俺たちは、
警察、おばさん、悠一郎たちにそのことを話した。


近所のおばさんたちにその話が耳に入ると、
話はあっという間に広がっていった。




「…———って一利は言ってたんだよな!?」


次の日、学校での朝の会中に
悠一郎は机の上にドンっと座り込んで言った。


「シ—ッ!!!悠一郎、声でかいって!!!今朝の会なんだからさ…。」


皆の顔は、俺と田島の方を向いていた。
視線が痛いほど感じるのがわかった。
俺はそれが恥ずかしかったから、田島を大人しくさせようと、
椅子に座らせた。

これには先生も困ったように、
コホンっとせき込んだ。

「ほら、悠一郎のせいで皆迷惑してるだろ。」

「ちぇー」


田島が大人しくなったところで、
朝の会が再開した。


「えぇー…皆も聞いたと思うが、泉財閥の孝介様が誘拐されたそうだ。…不審者はまだ捕まっていない、だから、下校の際は一人で下校しないように!!!」


泉の話は大幅に広がっていた。

俺も田島も皆頑張って探したけど、
結局見つからなかった。



「…っと、それと、今日から、このクラスに転校してきた、新しい仲間を紹介する。…転校生入って。」




先生のこの言葉に、
皆は一斉にドアに注目した。


そしてゆっくりとそのドアは開いた。



途端、俺は目を疑った。



まさかとは思ったけど…。