二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 君が教えてくれたこと〜思い出というキーワード〜 ( No.6 )
日時: 2011/08/10 00:14
名前: 宇野沢千尋 ◆pcUHgqcj4Y (ID: SkGQb50P)

—お母さん—

俺が田島家にやってきて、あっという間に1年がたった頃だった。

あれから一切、佐藤家から連絡も何もない。

多分、父も姉も、俺が佐藤家から離れた事を知らないようだった。

そりゃそうだ。あのおばあさんが、父たちにそんな事言うはずがない。

俺を追い出したのは、あのおばあさんだからな。



「ゆーいちろー、バス来ちゃうよー…」
俺は、玄関先で、そう叫んだ。

すると…

「はいはーい、おまたせー」
田島はいつもみたいに笑って玄関から出た。

それは、髪の毛がぼさぼさの状態で、服もぐちゃぐちゃに着こなして。

「こら!ゆーいちろー!!!駄目でしょ、こんなだらしない格好じゃ」
田島のお母さんはそう言い、しゃがんで、髪の毛をとかしていた。

俺は、その光景が羨ましかった。




『僕にも、お母さんがいれば…』




「ゆーとくん、ごめんね。いっぱい迷惑かけちゃって」
田島のお母さんはそう申し訳なさそうに言う中で、田島はお母さんの横にギュッと抱きついていた。

この年だもん。
誰だって甘えたくなるさ。

田島の様子を見ているこっちの立場は…途轍もなく寂しさであふれていた。


「あ、バス来たぜー」

田島はパッとお母さんから離れ、バスへ向かった。


「いってらっしゃい」

田島のお母さんは優しく微笑んで手を振ってくれた。


そういえば、俺が栄口家にいた時も、同じようにしてたっけ。


「ゆーと!楽しみだなー!今日!!!」
田島はそう言ってはしゃぐ。


今日は、市内の体育館で、公演を見に行くのだ。


それには、色んな小学校、中学校、一般人、沢山の人が集まってくるのだ。



「お菓子もいっぱいもってきたぜー!ほらよ!」
田島はそう言って、大きなリュックを開けた。

その時、

《バゥバゥ!!!》

リュックの中には、田島家のあの犬が入っていた。

「ちょ…ゆーいちろー!どうしたの…犬連れてきちゃって…。」

「どうしても、行きたいっていうからさー!なー!」
《バゥバゥ》

さすが田島だ。
動物の言葉が通じ合っている。




そして、体育館へとやってきた。


バスから降りると、先生の指示で、2列に並んで入口へ向かった。



…その時だった。
先頭に立つ、女の先生と男の先生が、地面に座り、頭を下げた。
その状態は、土下座をしている状態に近い。


「せんせーどーしたのー」
と声をあげる子もいた。

「いいから皆、先生の真似をしてちょうだい」

小声で大きくそう言ったのだ。

その時は、何があったのか分からなかった。


前を見ると、黒くて大きい車から、赤いカーペットが敷かれ、そこから、黒くて綺麗な服を着た、一人の少年が、歩いてきた。

その少年は、‘泉財閥,のあととり。
俺達と同い年らしい。

綺麗な黒髪に、整っている顔、大きな目が特徴的だった。

その少年は何も語らず、そのまま横を通り過ぎていった。