二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:  花残の月 〔 inzm, 〕 ( No.36 )
日時: 2012/04/29 20:54
名前: 紅闇 ◆88grV3aVhM (ID: dNKdEnEb)
参照: 個人的に三話目が一番大事だと思ってる




  『エレクタム』


3. 平穏は一瞬で崩れ落ち





   *  *  *






 
「……やっぱ、懐かしいな」
「? 何がだ」
「こうして三人がベンチに並んで座ってるなんてさ」
「……ああ——、確かにな」

 俺達の会話に入ろうともせず、無の表情でフィールドを見つめる彼女。
無邪気に走り回りボールを追いかける後輩を見て、何を思うのだろうか。心を読む、なんて難しい事は出来ない。ましてや彼女が相手だと……
 そういえば、前も同じだった。俺達が挟んで真ん中に居る癖に、滅多に口を開こうとしない。お陰で俺達も会話が何となく続かず、気まずい雰囲気になったものだ。
その状態にやっと気付いたかと思えば「何故黙っているんだ?」と真面目に惚ける。どうやら、人の会話を盗み聞く事が好きらしい。変な奴だ。

 此処から見る変な奴の横顔は、俺自身が記憶しているそれよりもずっと大人びていて、少し驚いた。
そして、後悔。もっと彼女と話をしていたなら——……運命は変わっていたのだろうか。もう遅いだけなのに。

「……円堂」
「——うおっ!? な、何だよいきなり」
「あの二人は、前に何かあったのか?」

 茜が指差したのは、パスを繰り返し続ける霧野と狩屋。
特に何も変わった様子は無いが。どうしたのだろう?

「ああ、霧野と狩屋の事か? どうした」
「あそこ、その相手に対してだけ、プレーに乱雑さが見えるなあ、と」
「え、そうか? 確かに、ちょっと前まで色々あったんだけど。うーん、何て言えば良いんだ?」
「お互いを信用し合ったからこそ、練習にも力強さが出ている。それが乱雑に見えるんじゃないか」
「そうそう、それだよ鬼道!」














「ふーん。信用ねぇ……成る程」











 意味深に頷く茜。
とにかく、それだけでチームの穴に気付いてしまうのはさすがだ。ブランクがあったとは思えない。
 まあ、ブランクの間、彼女がどこへ行っていたかは知らない。多分、鬼道も、その妹もそうだろう。昔から秘密主義なのだ。その所為でどれだけ無駄に驚いた事か。勿論、今日の出来事は新たに追加された。

「どうでもいいが。昔から私達が三人で居ると必ず私が真ん中になるこれはどうにかならんのか」

 多分、俺もさっき思った座り方も指しているだろう。今頃気付いたらしい。遅い、遅すぎる。
鬼道を見ると、……こっちも今気付いたらしい。ゴーグルで隠れてはいるが、近くで見るとキャラ崩れが酷い、間抜けな顔をしていた。

「何だよ。二人とも気付いて無かったのか?」
「今更だな」
「同じく」
「お、お前もか鬼道……。まあ、どうしてかと聞かれると……どうしてだろうな?」

「何故だろうな。いつの間にかこうなっていたから。理由は知らん」
「適当だな」
「それはどうも」
「どこをどうしたら褒めている様に聞こえるんだ」
「最初の三文字を『凄い』にしたらそう聞こえる」
「相変わらずの無理やりで」

 どうしよう、二人が何を話しているか良く分からないぞ。
というか、入らなくて良い気がするな。無駄話だろう。多分。

 二人は真顔で言い争っていたが、やがてそれも終わり、どちらが言い出したもなく、口を閉ざす。









 ——そして沈黙。









 それも気まずい沈黙の一種だ。











   *  *  *





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