二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 花残の月 〔 inzm, 〕 ( No.37 )
- 日時: 2012/04/29 21:19
- 名前: 紅闇 ◆88grV3aVhM (ID: dNKdEnEb)
- 参照: 個人的に三話目が一番大事だと思ってる
<<前 → 後>>
* * *
俺が頭の中で次への話題を考えあぐねていると、音無がこちらに手を振って何か叫んでいる。
よくは聞こえないが、鬼道が反応し立ち上がった為、兄妹関連に関する何かだろう。俺が入る理由も無い。
それよりも、気まずい沈黙の中、俺と茜だけという今までにない嫌な緊張感があった。
経験の後知った事は、この沈黙の中で俺がどれだけ喋っても、茜は適当にしか返事を返さない。悪い時は返事さえもしない。悪く言えば無視される。
「……そういや」
運良く、茜が珍しく自分から話し始めた。
その時の自分の状態は、顔には出さない様にしながらもどうする!? と自問自答が俺の中を飛び回っていた。
「今日、こっちに着いた途中、あの子に会ったよ」
そう言って彼女が見たのは、チームの中でも一際楽しそうにボールを蹴る松風だった。
「あの子、名前は?」
「松風天馬。今年入学してきた一年生だ」
「素質あるな」
「ああ。驚く程にな」
「そうか。で、あの松風にだな、道の曲がり角で危うくぶつかりかけたんだ……と、言っても向こうが突っ込んで来ただけだがな」
見に覚えがあるだろ? と嫌らしい笑みを張り付かせて俺の方を向いた。
覚えと言わなくても、『道の曲がり角』という単語だけで何となく察しはついている。まさか、当たるとも思わなかったけど。
「……ありすぎて困る」
「どっかの誰かさんとの出会いとソックリだろ? 誰だったかなー」
「…………俺です」
そう、俺だ。
いつか監督に呼ばれた日、俺は見事に遅刻して、道を急いでいた。
そして……後は松風と一緒だ。目の前に人が居て、急ブレーキをかけたが止まれなくて——……
「あの時は驚いたが、今見てると本当に似てるな」
「そうか?」
「ああ。特にサッカーをする時の顔が」
「……良く言われるよ。意識してやってた訳では無いんだがなあ」
「同じ質問をすれば、あの子も同じ返し方をすると思うな」
……言い返せない。
* * *
「おう、鬼道。お帰り」
「何かあったか? 音無に呼ばれて」
「私情絡みだ、気にするな。主に咲乃、お前の事だが」
「やっぱりか。お前を呼んだ時の春奈の目、私を見て異様に光ってたもんな」
「マジか」
「ああ、ギラギラしていた。で、色々話していた時、サッカーをしていた筈のプレイヤーが皆、聞き耳を立てていたぞ」
「……ん!? 何となーく集まってたのはそれか!?」
そしてフィールドに目を向ける。
皆真面目に練習しているが、時々こっちを見てはニヤニヤ笑っていないか?
「……何か、凄い勘違いしてないか? あいつら。お前、何話してたんだ……」
「普通にあの人は本物か、とかいつ帰ってきたんだ、とかだけだが」
「人の目は気にするなとあれ程」
茜は、深く息を吐いた。
「じゃあ、鬼道も帰ってきた事だし、今私が一番気になっている事を聞こうか」
最初から言え、と思ったが、彼女なりに切り出し方を考えていたのだろうか。
また、珍しく表情が「無」から「真面目」に変わっている。気が付くと、無意識に居住まいを軽く正していた。
「お前ら……雷門中は、管理されたサッカーに反対し、革命を行っていると?」
やっぱそれか、と苦笑いしか返せない。言葉が無かった。
今現在、俺達が行っている事は違法という事になっている。つまり、罪。だが、この罪は明らかに可笑しい。そう思って、革命を起こし続けているのだ。
最初は敵かと思われた鬼道率いる帝国も、実は裏で『レジスタンス』というサッカーを取り戻す運動を始めていた。
茜がどこへ居たかは知らない。聞く気にもならない。だが噂であろうと、さすがにそれは信じ難いのだろう。
世間から見れば、俺達はとんでもなく突拍子の無い事をやっているのだから。
「ああ。革命だ。管理サッカーを解放する為の革命だ」
「辛くないか? 後悔は無いのか?」
「俺は無い。きっと此処に居る誰もが、既に辛くも、後悔も無いだろう」
「そうか」
そう言うと、茜は目を伏せた。
反対側の鬼道に目を向けると、ゴーグルの奥にある目が、強い意思で輝いていた。
そうだ。俺達はもう戻れないんだ。一方通行の道に踏み入ったら、後はもう進むしかない。そして、それを望んでいる。
「——円堂」
「何だ?」
賛成するなら、彼女もレジスタンスの一員に。来なくても良いのだ、危険が伴う。
俺はそう思った。
「————……楽しいか?
お遊びの『革命ごっこ』は」
* * *
⇒女は口を開く.