二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: たからものの死臭 【鋼錬】オリキャラ募集中! ( No.17 )
日時: 2011/09/04 16:09
名前: 一条夏樹 ◆iYEpEVPG4g (ID: l4scGqhv)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel3/index.cgi?mode


  もの≫ひと     長編 − 2 −





 例えるならそれは、無。何もない、だれもいない、なにもみえずなにもきこえない、それを無と名付けて存在にしてみたけれど、確かにそこにありはしない。だから、無と呼ばれるものなんてこの世界にただひとつたりともないのだ。全ての出来事に意味が有るとしたら、理不尽だとおもうことも他人への感情だとかって大切なものなんだろうか。誰も無を知りはしないし当然わたしも知っているフリをしているけれど理解しちゃいない。ただ主観的な考えよりわたしを無にわたしの中ですることならできると思った。けどそんなの全て全て混沌とした意味と理由と感情と行動の間で起こるぶつかり合いなんだろう。わたしが望んだものは無だったけれど、結局最後までわかりはしなかった。此処にいるんだと絶望にも似た、されど喜びの混じる心音がきこえる。無性にやるせなくなった。
       
 「それで、しばらく西へ行くと駅があるんですよね?」
耳横にヘアピンを刺しながら、淡々とそう口を開いた。目の前の少年——エドワードエルリックが頷く。殺風景な部屋とそこにぽつりと置かれた白い向かい側のソファに彼が腰掛けている。わたしはその正面に同じく座っていて、礼ぐらいは言っておこうとこうして対談しているのだ。
「ああ、にしてもあんた、目覚めた初っ端から介抱人に小さいだの何だの言ってくれるじゃねえか。」
申し訳ないことをした、とは残念ながら思っていないが、彼は本当に低身長で、そのうえ弟さんとやらがまた体格が良く、並ぶと別の生き物のよう。ここまで言うとさすがに悪い。「すみません、ありがとうございました。」わたしは、これからどうやって過ごしていけばいいのだろうか。平静を装ってはいるが、ここが何処なのか検討もつかないのが一番の問題だ。飛び降り自殺したら道端に倒れてて気分が悪くなっただなんて、言ってしまえば頭のおかしい奴だと思われかねない。——まあ、おかしいのはあながち間違っていない。自嘲ぎみに表情を変えた。

「じゃあな、まあ今後は二日酔いだなんてそういう風なことが無いように気い付けろよ。」
・・・・・言葉が足りなかったようだが、二日酔いだと勢いで説明してしまった。
「ええ。エドワードさん方は、これから何処へ?」
年齢的にはわたしが上だが(しかも二日酔いということで二十代ということにもなってるが)
「セントラルまで。最初は真っ直ぐそっちに行ける予定だったんだけど、ちょいと雑用を押し付けられたんで一時的に。」

 いつまでも人に頼ってはいられない、そう教えられてきた。幸い言葉は通じるし駅だとか二日酔いだとか、一般的な単語もあるらしい。不安なのは金銭的な問題だが、まずは多くを知らなければ。玄関を出ようとして、聞き覚えのある声が聞こえた。
「兄さん!あとちょっとでもうセントラル行きの出ちゃうみたいだよ!」
「え、ちょ、おい時間は八時じゃなかったか?!」
「なんか一昨日から一本ずつ時間が早く変わったみたい。急がないと!」

ドアを開けて金属の鎧を着たアルフォンスさんが横をすり抜けて行った。ばたん、と開けかけたドアが音を立てた。背を向けていた部屋側に視線を戻すと、慌しく二人が走り回っている。ぼうっとそれを見つめている内に、すっかり出て行くのを忘れて、エドワードさんに不意に肩を叩かれるまで気付いていなかった。
        
     
 「そうだ、あんたも乗るんだろ。」
「え?あ、はい。」「何処?」
しまった、と直感。口からぽろりと出た言葉は、
「ええと、セントラルに。」

じゃあ急げよ、という言葉と共に腕を引っ張られて明るい景色がひとみに映った。ああ、また世界に色が戻ってしまった。無にはなれなかった。ただわたしはわたしの中にある、唯一確かな存在。遠い日を見つめると、せめてもう少しだけいないきみに会いたい、そんな感情がまだ心のあちこちに散らばっているようだった。心地良い風がゆっくりと頬を撫でた。晴天の空がこちらを見下ろしていた。