二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: たからものの死臭 【鋼錬】オリキャラ募集中! ( No.26 )
- 日時: 2011/09/03 18:29
- 名前: 一条夏樹 ◆iYEpEVPG4g (ID: l4scGqhv)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel3/index.cgi?mode
There is nothing that I got 長編 − 2 −
———とにかく。明らかに景色がおかしいだとか鉄の鎧を着た人間がこんなのに乗車していても騒ぎにならないのか、とか。日本では到底信じられない光景が目の前に広がっている。車内は煙の臭いや熱が篭っていて、それに加えてとんでもなく硬い椅子ときた。少なくともわたしの知る公共の乗り物では考えられなくて、居心地の悪さを感じられずにはいられない。
そこで問題がひとつだ。先に申し上げたことはぶっちゃけどうでもいい。順応力の限界ってワケじゃあない。それ以前にこの本当に大きな問題の前では塵にしか見えない。手荷物は殆ど持っていない、自殺したんだもの。唯一と言えばこのシャツワンピース、胸ポケットに入っていたゴミみたいな紙切れと液晶が割れた携帯、あとは・・・・・10円玉がひとつ。そうである、有り金が無いのである。全く持って深刻な問題である。行きは隣の彼に急ぎだからといって立て替えて貰っていた。窓の外をふと眺めて、項垂れた。
「アンタさあ、シノノメとか言ったっけ。珍しい名前だよな。」
「セントラルには何しに?」と続けられる・・・いや、ほんと、何しに行くんでしょうねえ。
「これと言っては用は無いんですが、ぶっちゃけどうでもいいような理由で。」
「ふうん。」
「あと、一つだけ言っておかなきゃならない事が。」
今まで窓側に視線を向けていたエドワードさんがこちらを振り返る。そのひとみをじっと見つめた。ぎしり、椅子が軋んで音を立てた。腕を組んでくちびるに少し笑みを浮かべる。窓の外の景色は相変わらず緑一色で、汽車の揺れる音がせわしなくきこえる。座っていなければ直ぐにでも倒れこんでしまいそうだ。彼と弟さんとわたしだけの間に沈黙という名の空間ができていた。まるでそこだけ切り取られてしまったかのような。
「お金持ってません。」
「あ、ついでに多分わたしこの国の人間じゃないし、見たことないものばっかで、自分がどんな理由でこんなとこに来たのかもぜーんぜん、わからないです。二日酔いってのも嘘です。近くの駅で降ろすのもいいですし駅員さんに突き出してくれても結構ですよ。」
自嘲じみた、というのは適していないか。顔というものはひとの感情をあらわすものだけれど、多分わたしがするのは他人に向ける作り笑顔が一番多いと思う。そんな顔だ。その姿は傍から見れば何の不自然さも感じない。そこで微笑んでいるだけの認識。ふう、と彼はため息をついて、今度はしっかりとわたしを見据えた。
「別にいい、それぐらい大した額じゃない。」
「そう言われましても。第一子供にそんなたかるようなマネはしたくありませんし。」
「だ、れ、が子供だ!俺が良いって言ってんだから別にいいんだよ!ああもううるさい。」
「失礼ですが年はお幾つで?」
「今年で15だよ悪かなったな小さくて!」
「わたしの常識では十分子供です。」
にこり、と笑う。彼はどうやら身長がコンプレックスのようだ。小さな個室に騒音が響き渡る。笑いかけるとますます気に障るようで、これが中々面白い。——ふと。(彼はわたしの大切なものになってしまうかもしれない)そうなってしまったら?わたしはまた妹のようにあの人のように、母の結婚指輪のように、彼をそうしてしまうのかもしれない。欲しいものは暖かいものだったり愛だったりするけれど、わたしにとって必要なものは欲しいものを手にしようとするとそれが足らなくなってしまう。そうしたらきっと、わたしは生きていけない。
「・・・それじゃ、お言葉に甘えて。」
「あら、わたしの過去のことは訊かないんですか?」
「訊く、いいか、細部に至るまで詳しく話せよ。」
「どうしてって、言っちゃいけませんか?」
「俺達の探し物のヒントになるかもしれない。」
「それは、仮にも命の恩人な訳ですし、協力しないと、いけませんね。」
「それと——、」
「今度からはわたしのこと、ちづるって、呼んでくださいませんか。」
せめて神様が、もう少し残酷だったなら。遠慮なんて愛だなんて全て狂ってしまえたのに。何のためらいもなくなっていたかもしれない。その方がずっと楽だ。どうしてわたしみたいな生きものがいるの、自己嫌悪の真ん中で、ずっと何かに怯えて壊し続けている。ひとりぼっちになったら愛を探して、また壊して、永遠の循環が続いてゆく。手元に残ったものなどなにひとつ、ありはしない。