二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 十三羽目 ( No.42 )
- 日時: 2011/09/17 19:23
- 名前: 和華 (ID: imuS2CMi)
- 参照: http://id15.fm-p.jp/data/301/sayuki302/pri/86.jpg
不意に、ピルルルと携帯電話の着信音がしました。
どうやらそれは、椿先生のものだったらしく、
椿先生が受話器に耳を当てました。
「何かネ?ハニー。…なんだって?…今からかい?仕方がない子猫ちゃんダ!」
そう言って通話ボタンを切り、
「注ゥ目ゥーー」
と、手をあげてみんなの視線を集めました。
「しばらく休憩にする。いいかネ!基本的に蝦蟇はおとなしい悪魔だが、
人の心を読んで襲いかかってくる面倒な悪魔ナノダ!
私が戻るまで競技場には降りず、蝦蟇の鎖の届く範囲には決して入らないこと!いいネ!
わかったら以上!今行くヨ!子猫ちゃ〜ん!!」
そう言い残して、椿先生は疾風のごとく走り去っていきました。
「…今、子猫ちゃんいうてはったで。」
「え、え?アレ…いいんですかね…?」
私たちが戸惑っているのを横目に、
勝呂さんが眉間のシワをさらに寄せながら言いました。
「なんやあれ…!あれでも教師か!!
正従事学園て、もっと意識高い人らが集まる、神聖な学び舎やと思っとったのに……!
生徒も生徒やしなあ!」
とつぜん、勝呂さんが怒りの矛先を奥村さんに向けました。
今日の勝呂さん、本当に機嫌が悪いみたいです。
「…なんだよ、さっきからうるせーな!なんで俺が意識低いって判んだよ…!」
「授業態度で判るわ!!」
「ま、また始まりましたよ…」
この二人は、何回喧嘩したら気が住むのでしょうか。
「坊、大人気ないですよ。」
「止めたってください、坊。」
「あのあの、喧嘩したっていいことないとおもいますよ、勝呂さん。」
私たちがなだめても、勝呂さんは
「やかましいわお前ら!黙っとけ!」
と一括します。
不意に勝呂さんのしせんが蝦蟇の方へ向きました。
「そうや…。そんならお前が意識高いて証明してみせろや!! 」
「は!?」
「あれや。」
勝呂さんの指の先は、やはり蝦蟇を指していました。
蝦蟇もこころなしか、黙ってこちらをみていました。
「蝦蟇に近付いて、襲われずに触ってかえってこれたら勝ち…!
蝦蟇ゆうのは、目に映った奴の目をみて感情を読み取ってくる。
恐怖悲しみ怒り疑心。とにかく動揺して目をそらしたりしたら最後、襲いかかってくる悪魔なんや。
つまり平常心で入れば襲われずに済む。
今後祓魔師としてやってくねやったら、蝦蟇なんてザコにビビッとられへんしな?」
そういってやや挑発てきに奥村さんを見つめました。
奥村さんは黙って勝呂さんを見つめたままです。
「もちろん俺もやる。当然勝つ!
お前も無事戻ってきたら覚悟決めてやっとるって認めたるわ!
どうや!やるかやらんか決めろ!!」
勝呂さんは声を張り上げて言いました。
すぐろ、今まで無表情だった奥村さんがニヤリと笑います。
「……へっ、面白ェーじゃねーか!」
そう言ったあと、
「まぁ、やんねーけど。」
と、まるで興味なさそうに告げました。
勝呂さんは驚いたように「なん!?」と声を漏らしました。
「間違って死んだらどーすんだ。バッカじゃねーの。
俺にも、『お前と同じ』野望があるしな。こんなくだらない事で死んでらんねーんだ。バーカ」
と、もっともな意見を口にしました。
勝呂さんは、しばらく黙っていましたが、いきなりハッとしたように私たちのほうを向きました。
「…お前ら、言うたな……!」
「「いやぁ…」」
「ご、ごごごめんなさい…」
しばらくギッと私たちを睨んでいましたが、
奥村さんの方へ視線を戻しました。
「何が、野望や……。お前のはビビッただけやろうが!!
どいつもこいつも…なんで…何で戦わん…くやしくないんか!!!」
顔を真っ赤にし、そう叫びました。
そのときです。
「あの」耳鳴りがしてきました。
こんなときに限って…!
—キィイイイイン—
『舞えや蟲神、我血の理にて、その姿を示して給わえ。』
男の人—否、彼は「茅原隼」。
正十字騎士団の上二級祓魔師。
彼は、詠唱騎士だったが、手使騎士としての才能も持ち合わせていた。
しかし彼は、手使騎士にはならず、父親と同じ詠唱騎士の称号だけを獲得していたが。
彼の答えに、一羽の「なにか」が現れる。
『すごいじゃない、隼!母さんびっくりだわ!』
『そんなすごいことじゃないよ、きっと』
茅原隼は母親の無邪気な言葉に苦笑いをしてみせる。
きっと、照れているのだろう。
『この子も、祓魔師になりたいって言い出すのかしらねぇ…』
そういって母親はお腹に手をあてた。
そのお腹は子を宿し、大きく膨らんでいた。
『ははは、そうかもね…。父さんも俺も、祓魔師だから、きっとコイツも…。』
そういって彼はまた微笑んだ。
「なにか」がそれにともないひらひらと舞っていた。
「なにか」がひらり、と大きなお腹に止まり———
「ハっ!?」
耳鳴りが止みました。
『私が生まれる前』の記憶…。
なぜ、そんな昔のことまで思い出してしまう——
そうだ、勝呂さんは——!?
私が競技場に目をやると、
「いいか?よーく聞け!サタンを倒すのはこの俺だ!!!てめーはすっこんでろ!」
そう奥村さんが叫んでいました。
蝦蟇は奥村さんに頭を撫でられ、落ちついており、
勝呂さんはその場にしゃがみこんでいます。
「………な…………な、なななん………バ、バカはてめーやろ!!死んだらどーするんや!
つーか、人の野望パクんな!!」
「パクってねーよ!!オリジナルだよ!!!」
勝呂さんが立ち上がると同時に、また二人が喧嘩しはじめました。
だんだんと手足がでる激しいものに変わっていったので、
またもや志摩さんの合図で二人を止めに行きました。
—舞えや蟲神、我血の理にて、その姿を示して給わえ—
ふと、兄の言葉が頭をよぎりました。
兄が召喚した「あれ」は、一体なんだんたのか、それだけが思い出せません。
とりあえず、私は二人を止めることに専念しました。