二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

第7話 ( No.38 )
日時: 2011/09/19 14:53
名前: ゆう ◆Oq2hcdcEh6 (ID: KCnf7FEj)


「まさか、あれは……!」

 キーパーを務めている先輩が呆然と呟く。
 そうだ、化身だ。ボクだって実物は全然見たことないし、使えるわけじゃない。ただのサッカーを起用すればボクは最強と言える存在だが、化身を使うサッカーを考えるとボクはまだまだ、だ。フィフスセクターになんてどう抗っても勝てないという答えが正しいのだ。
 揺らぐ揺らぐ黒いそれに、恐怖を歓喜を覚えた。間近で見れた嬉しさと、勝てないという恐怖が混ざり合う。頬を汗が滑り落ちた。

「な、何と、フィールドに現れたのはサッカープレイヤーの間で噂されるあの化身なのか——ッ!」

 甲冑に、まるで騎士にもみえるその姿。大きな剣を持ち盾を持ち、マントが後ろで翻る。
 不良君が口を開いた。

「これが俺の化身、剣聖ランスロットだ」

 剣聖ランスロット——聞いたことは無い。ボクの知る化身は、"あの三人"のものだけなのだから。其れが、知らないのが当たり前だと思う。
 化身使いは居ないと言われてきた。最も、円堂守の世代は化身と同じと言われるものが存在していた。現在になり気が具現化されたものを化身と呼ぶようになってきただけだ。つまり、現在の——現在の中学サッカー界での化身使いはボクが知るだけでも四人いる。
 ただ、シードの中には化身使いがもっと居るということを昔お兄ちゃんに聞いた。其れを考えると多分——……

「化身使いはまだ居る、ということか」

 ぽつりと呟いた言葉は誰にも聞こえなかったようだ。

「はあ————っ!」
「うあああっ……」

 不良君が化身を纏いながら松風君へ突っ込む。化身の持つ剣が、攻撃が容赦なく松風君を襲う。ボクの足は最早動かない。恐怖に駆られて、動くことすらままならない。何だ、ボク、まだまだ弱いよ。
 ——自分を犠牲にしたくないという想いも強い。きっと自分勝手だとキミは嘲るんだろうね——お兄ちゃん。
 不良君の勢いは増す。松風君がぼろぼろになるのを、ボクはただ静観していた。ほんと、下らないよ。

「天馬君!」

 誰かが、——大方女の子だ——叫ぶ。松風君は吹き飛ばされ、フィールドへ倒れる。ボクはそれを見ていることしかできない。ぎゅ、と拳を握りしめるとボクはぽつりと呟いた。

「ざけるな……ふざけんなぁっ……!」

 剣城くんが足を振り上げ、ボールを松風君へと蹴る。舌打ちをしてボクは柄にもなく彼の前に立ち、そのボールを受けた。激痛が走る。初めて、ボールで傷ついた。
 威力を増すそのボールを止めきり、ボクはその場に屈みこんだ。かはっ、と情けのない呻きが漏れる。
 サッカーは人を傷つけるためにあるわけじゃないのに。
 どうしようもない怒りが溢れて、——痛かった。ズキリとボールをまともに受けたお腹は痛みを訴える。キャプテンこと、神童先輩が慌てて駆け寄ってくる。

「だ、大丈夫か!」
「、っは……これくらい、何ともないよ」

 そうだ、何時までも倒れてるわけにはいかない。ボクは痛む体に鞭打って立ち上がる。
 やっぱり少しふらつくなあ。
 次いでボクの無事を確認した神童先輩は松風君の方へと足を進めた。松風君が、言う。

「やりたいんです……」

 サッカーがやりたいと、松風君が言う。ユニフォームを掴んで言う松風君の腕を神童先輩が掴んだ。

「、俺だって……!」

 ポロポロと涙をこぼす神童先輩。松風君が驚いたように神童先輩を見詰めている。

「何で、何でだよ……俺はチームメイトさえも守れない、……何がキャプテンだ、こんなものっ……!」

 神童先輩を取り巻く空気が、変わる。

「畜生—————ッ! うぁあぁああ——!」

 神童先輩の後ろに揺らめく影と、現れる影。指揮棒を持つそれは——化身だった。まさか一試合でこんなに化身が見れるものとは。ポカンとするボクや観客たち。
 ——何だか、面白いことになった?






化身シーンとか分からん(