二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 貴方なら、どう攻略する?【剣城京介root】 ( No.34 )
日時: 2012/02/28 19:26
名前: macra;ほだす ◆w6bR1QqEtU (ID: 8gvA/W.A)

〈剣城京介root.Episode4〉

 「……あれ、剣城? 来てたんだ……」

 皆がグラウンドに向かうと、一向に姿を見せなかった剣城京介が、準備体操を始めていた。……どうやら、遅かったのはこちらの方だったようだ。

 「それじゃあ……練習始めるか」

 監督も顧問も来たところで、神童の掛け声と共に今日の部活は開始した。

 



 
 日もすっかり暮れ、暗くなった頃——。
 「よーし! 今日の練習はここまでだー」
 円堂監督の、部活終わりの号令と共に、今日の部活は終了した。
 「ぷはあーーー。おわったー」
 「今日の練習もハードだったなぁ……」
 「何? お前、もう、バテてんの?」
 それとともに、部員たちの気のない声がグラウンドに響き渡り、マネージャーたちは仕事を始めた。
 「……たいち。よに、つるぎくんのとこ行ってくるね」
 陽丹は、汗まみれの三国にタオルを渡すと、羽織っていたジャージをベンチに置き、剣城の許へと向かった。
 
 「えと……あの、つるぎくん……」
 「……?」
 陽丹は、剣城が一人になるタイミングを見計らって声をかけた。
 「……よには、3年のはさばよにっていうんだけど。けさは、たすけてくれてありがとう。ちゃんと、お礼いいたくて……」
 見覚えのある顔だったために、剣城は目を見開く。その様子に多少の威圧感を覚えつつ、陽丹は礼を述べる。
 「……いえ」
 なんと答えていいのか解らないのだろう。剣城は何を喋るでもなく、うつむいた。
 「……」
 「……」
 二人の間に、一時の沈黙が流れた。
 止まった時間を気づかせるかのように、冷たい風が頬を撫でる。
 「それで。つるぎくんにはききたいこともあって……」
 陽丹の一言によって、時間は動き始める。
 「……つるぎくんには、おにいちゃんがいるよ、ね?」
 陽丹のそれは、疑問というよりは確信……むしろ確認の意と認識したほうが良いのかもしれない。
 「? ……いますけど……」
 普段、自ら兄のことについて話すことはないため、剣城は動揺を隠せない。 
 「なまえは『ゆういち』だよね?」
 「……そうですが……」
 すると、剣城の返事と共に、陽丹の瞳が潤み始めた。
 「よに、ゆーいちくんとおんなじびょういんににゅういんしてたんだ。……ゆーいちくん、いま、どうしてるのかな?」
 陽丹は、はにかむと、カーディガンの袖でゴシゴシと涙を拭った。
 「……兄さんは、今も入院してます。手術費用がなくて……」
 京介は、兄の怪我を自分のせいだと思い込んでおり、背負っている節がある。あまり人には話したくないのであろう、苦虫を噛み潰したような顔になる。
 「きょうすけくん……だいじょうぶだよ? じぶんをせめちゃ、だめ」
 陽丹は、その事情も優一から聞いているようで、優しい声をかける。
 「……よに、ゆーいちくんにあいたいな。ゆーいちくんにあって、むぎゅーってしたい」
 まるで、自らの元気な姿を見せることで、兄弟の不安を吹き飛ばそうとしているかの如く。
 「……是非、会ってやってください。兄も喜びます」
 そう返事をした彼の顔は、ほころび始めていた。





 ——そうか、この人が……兄さんの支えになった——天使——。

 翼をなくした——lost——天——angel——使。