二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 貴方なら、どう攻略する?【剣城京介root】 ( No.52 )
日時: 2012/03/25 20:03
名前: sicrama;ほだす ◆w6bR1QqEtU (ID: fNW8Dqgc)

〈剣城京介root.SideStory.ゆーいちのキ・モ・チ〉

 「兄さん」
 「おお……京介。最近、よく来るな」
 最近、お前は前にも増して病院に脚を運んでくれるようになった。俺は、それが嬉しくもあり……お前の辛い顔を見ることにもなって、哀しくもあった。
 「むぎゅー……よにもいるのでーす」
 「陽丹ちゃん。……ほら、制服がしわになっちゃうぞ」
 前にも増して——それは、彼女——架場陽丹ちゃんが京介と知り合ってからだ。彼女はそれ以来、毎日のように俺のところに遊びに来てくれている。
 陽丹ちゃんと俺は、昔の知り合いだ。





 「こほん……けほっ……ごほっ……」
 「……?」
 あの日。俺は、暇を持て余して、独りで病院散策をしていた。ある病室の前を通りかかった瞬間、俺は、車椅子を押す手を止めていた。
 「……けほけほっ……ごほんッ……ハァッ……はあっ……」
 その個室では、小さな女の子——俺より2つ3つ違うくらいだろうか——がひどい咳に苦しみ、目を潤ませていた。その小さな躰は寒いのか、震えており、呼吸は酷く荒くなっていた。
 俺は、おかしなものを見た気がした。何故なら……彼女は独りだったからだ。本来ならば、母親なり何なり、彼女の背中をさする者がいる筈だ。年端もいかぬ女の子を独り、病室においておく意味が理解出来ない。
 気づけば、俺は、彼女に擦り寄り、背中をさすっていた。
 「大丈夫かい? ……ほら、水だ」
 「……だい……じょぶ……だよ? ありがと……」
 俺コップにはいった水を差し出すと、ぱぁっと輝く笑顏を見せて、それを受け取った。
 「家族は、どうしたんだい?」
 「おとうさんとおにいちゃんは、しんじゃって。おかあさんは……がいこくで……しごと……」
 最後の方は、声が小さく、掠れて聞き取りづらかった。
 俺は、その話に酷く憤った。そして、なにより……彼女の傍にいたい、そう思うようになった。
 「君、名前は……?」
 「……はさば……よに……」
 「俺は、剣城優一だ。……陽丹ちゃん。俺がずっと傍にいる」
 俺は、彼女に誓ったんだ『ずっと傍にいる』と。
 「……ゆーいちくん。ありがと……」
 彼女は顔を明るくすると、満面の笑みで応えた。それと同時に——冷え切っていた俺の心は、暖かく解かされ、生きる希望を与えられた。






 今、彼女に再会できて、眠っていた……良き思い出として残っていた彼女への思いが目覚め始めている。
 
 ——好きだ、陽丹ちゃん。
 
君といると、本当の笑顏でいられるんだ。
君の笑顔の裏側にある、深い深い闇も総て解っていて。
 ……君に思いを寄せているのが、俺一人だけじゃないことも解ってる。
 「きょーすけも、むぎゅー……だよ?」
 ……君が思いを寄せているのが、俺じゃないことぐらい解ってる。
 「はっ、はい……」
 チクリ。その腕が彼女を包んだ瞬間。俺の胸に突き刺さるような——痛み。
 「きょーすけ……あったかい……」
 赤くなった京介に抱き締められ、幸せそうな顔をみせる、君。
 イライライラ。理性ではない何かが、胸の奥でズキズキと痛みを持つ。知っている。俺は、この痛みの名を知っている。

 それは——[嫉妬]という。

 俺は、総てを知っているんだ。
 自分の気持ち。陽丹ちゃんの気持ち。京介の気持ち……総て。
 「……先輩も、暖かいです」
 俺が、お前の瞳を射抜くと、お前の視線は踊り……凍りついた。
——兄さん、俺は……もう。
 お前は、自分の気持ちを隠すことが、俺の幸だと思っているのか。

 哀れだ。

 お前の優しさも、今は——。
 もう。何もかもが。遅すぎたんだ。

 だったら。



















——この、三人の行く末を、ハンデとして貰っておくよ。