二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 〜続・イナイレ*最強姉弟参上?!*〜§バトン完成§ ( No.532 )
日時: 2012/03/20 17:01
名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: r4kEfg7B)

第52話 いしんでんしん。


雨が降り出した。

傘を出しながら、霧野が天気予報当たったな、と呟くように声をかける。そういえば、通り雨があるとの予報だった。

結局、アルティメットサンダーは完成しないまま部活が終わった。

剣城を頼れない10人での試合でこのままだと、帝国戦は相当厳しい戦いになるだろう。

俺も倉間も打ち返す事が出来ないあの力のこもったボールを打ち返せるのは、雷門では剣城だけだというのに…。

霧野「神童、また明日練習頑張ろうな。」

励ますように霧野が言う。折り畳みの傘をさしながら、ああ、と返事する。

神童「霧野は足治ったばかりなんだ、あまり無茶はするなよ。」

手を振って、俺たちはそれぞれ家路についた。



「ニャァ…」

少女は、足をとめた。

振り返って、と言うようにもう一度、同じような鳴き声が足元から聞こえる。

黒と白の小さな猫が、雨に濡れながら少女を見上げている。

桜色の髪を同じように濡らした少女は、何度か瞬きをした。猫は立ち上がり、近づいてくる。

月乃「…。」

家の敷地内で猫を見たのは、初めてだった。

帝国学園で大変な目に遭った後のテニス部の練習試合で集中できるはずもなく、結局1試合の1ゲームしか参加しなかった。

1人でバスに乗ったりして自身の家、神童邸まで帰って来たのだ。傘など無いから、びしょぬれになって。

「ニャァ…」

月乃「…どうしてほしい…?」

右手をそっと差し出すと、猫は体をすりよせて甘えてくる。

ザーザーと雨が体を打つ感覚にはすっかり慣れ、そのリズムの心地よさに目を閉じた。

月乃「…やっぱり、寒い…?」

「ニャ、」

月乃「……」

YES、と返事したように聞こえて月乃は目を開けて猫を見、その奥にあるダンボールの存在に気付いた。

落して行ったのか猫が脱出したのか、ダンボールは倒れている。

月乃「…捨てられたんだ、人に。私も、捨てられた…」

猫が首をかしげた。

月乃「気付いて、くれない…あの方には、もう私を見つけることは…」

刹那、雨音が遮られる。

顔を上げると、走ったのか深呼吸をして落ち着こうとする少年。

神童「月乃っ、お前こんな所で何して…風邪ひくぞ!?」

左手に鞄、右手に傘を持ったジャージ姿の神童。傘の下に入ると、心なしか少しだけ暖かい様な気がした。

月乃「兄様…。」

「ニャァン…」

神童「!」

神童の目に、薄汚れて濡れた猫が、目に入る。足は泥で茶色くなって、月乃の手には白く細い毛が何本か付いていた。

彼女が猫を構っていたのだという事は、一目瞭然。

少し迷うその間も、月乃は猫を見つめるばかりで動こうとしなかった。ふう、と息を吐いて神童は傘を左手に持ち替える。

そして、猫を右手で持ち上げた。

猫を追って、月乃が顔を上げる。

神童「中に入ろう、月乃。猫もお腹空かせてるだろうから。」

猫は神童の腕に抱かれて少し抵抗するも、月乃が小さく頷いた直後に大人しくなった。


不思議だ、と神童は思う。月乃の表情が、少し柔らかく見えた。


**

橘「花音ちゃん、ありがと〜♪」

美咲ちゃんが試合終了後に、私に水筒を渡しながらそう言って。

だから私も、こちらこそ、と返す。自然と顔がほころんだ。組んでみたかった月乃さんは帰って組めなかったのは残念だけど…。

でも、美咲ちゃんとも意思の疎通みたいなものが出来て、勝てたから。

花音「足、大丈夫?」

橘「平気っ!」

花音「もうそろそろ、復帰できる?」

橘「!」

運動神経が良い方の美咲ちゃんは、部内でも強い方。だからいてくれたら嬉しいな、って思うの。

…でも、美咲ちゃんは顔を暗くして。

橘「…ごめんねっ、分からない!」

無理して、笑顔を作った。


**


橘「…大丈夫かな、つきのん。」〈ガンッ〉

橘「記憶、戻ったよね…あれなら。」〈ガンッ〉

橘「あたし、間違ってないかな…」〈ガンッ〉


〈ビーーーーッ〉


橘「!!!!?」

突然鳴りだした音は、彼女の頭の中に直接響く。

慌てて注意が逸れ、壁に向けて蹴ったボールが顔面に当たった。かろうじて転倒は防ぐものの、バランスを崩し壁に寄りかかる。

彼女の家の近くにある、古い倉庫の前。そこでサッカーボールを1人蹴っていた。

橘「ソ、ソフィア勘弁して…」

ソフィア『何、確証もない彼女をあんな危険な目にあわせておいてそれは無いんじゃない?悪魔が来る事分かってたでしょ?』

橘「…うん、」

ソフィア『途中までは守るつもりだったけど、気が変わった…のね。』

天界側からの強引な通信。…それを断る事は出来ない。

上司に当たるソフィアの質問に、頷き続ける橘。帝国学園で月乃を守ると決めていたが、悪魔の気配を感じ取り浮かんだ案。

———悪魔に月乃をゆだねる。

自分が常に気を張っておけば、大きな事態にはならないだろうと思っての行動だった。あの時、手を離したのは。

そこまで語って、ソフィアが静かになる。

橘「…ソフィア?」

ソフィア『バカ…そんな危ない橋、もう二度と渡らないで!!あれは魔界1の悪魔だったの!!!貴女1人で止められる訳無いでしょ!!?』

橘「!?」

彼女が怒る姿が、脳裏に浮かんだ。腕に抱えていたボールがすり落ちて、小さくバウンドしながら転がっていく。

何も言えず目を見開く美咲の気配を感じたのか、ソフィアは一度深呼吸して、今度は優しく言い聞かせる様に言葉を紡ぐ。

ソフィア『…分かって。貴女1人じゃ何も出来ない…強敵には、敵わない敵を目の前にしたら、味方がいないと何も出来ないのよ…。』

言葉が、しみ込んでいく。

橘「…味方がいないと。」

言葉を繰り返して、下唇をかんだ。フラッシュバックする、前世の光景。


森林と、少年と、穏やかな空と。


橘「…1人じゃ、何も守れない…分かってるよ、分かってる…」

湿った空気が吹く中、呟く。右手を強く握り拳を作ると、ボールを拾いに数歩歩いた。

ソフィアは安心して通信を切る。何もないのに見張っていられるほど、彼女は暇ではない。


そう、ソフィアは通信を切っても構わなかった。この問題は関係ないのだから。


「…橘?」

橘「っ!?」


雲に覆われた、午後6時。

避けられない対話が、始まる……。





「霧野、先輩……」






* to be continued... *