二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 〜続・イナイレ*最強姉弟参上?!*〜§バトン完成§ ( No.535 )
- 日時: 2012/04/04 23:46
- 名前: 伊莉寿 ◆OIb3ToTaW. (ID: r4kEfg7B)
第53話 天使の求める物
〜霧野SIDE
橘「霧野、先輩…」
どこか怯えているように見える橘。その態度を不審に思いながら、俺は走っていた足を止めて近付く。
橘「先輩、何で…」
霧野「俺もう練習出れるようになったんだけど、体鈍ってて。動かしたら勘取り戻せるかと思ってジョギングしてるんだ。」
橘「…体は、大事にして下さいね。」
…あれ、こいつってもっとハキハキしてなかったか?分かってる、と返事をしながら違和感を覚えた。
橘の表情が暗い。
霧野「お前も気をつけろよ、暗いんだから。」
橘「家がすぐそばなので大丈夫です。霧野先輩も、危険を察知したら技で逃げて下さいね。」
霧野「男は大丈夫だろ…」
橘「最近は変な人もいるらしいですし、ってよくその容姿で言えますね。」
ツインテールを引っ張る橘。コイツ…元気な時と性格違くないか!?
黒い気がする…。
橘「…シャツかわいいですね。」
霧野「野性味溢れるホッキョクグマだが…」
何年か前に行った動物園で買ったTシャツ。ホッキョクグマが険しい顔で吠えている柄だ。可愛いって…
直後、ぽつりと呟かれた言葉。
霧野「?…橘?」
橘「楽しみにしてたのに…サッカーしか約束果たせてない…」
その言葉を認識した頭で、警報が鳴る。
この言葉に、隠された彼女の本心が見え隠れする。
涙が、彼女の頬を伝って落ちて行った。
霧野「たっ…橘!」
橘「っ、ふぇぇ…」
霧野「泣くな、落ち着け!!水族館に行きたいならいつか行けばいいだろ!」
涙をぬぐいながら、橘は首を横に振った。行けない、と。
橘「いげないよ、もぉ…。お母さんともお父さんとも、行けない…」
霧野「なら俺達と行けばいい。大会が一息ついたら、皆で…月乃たちと一緒に。」
橘が顔を上げた。うるんだ目が揺れながら、俺を映していた。
きっと楽しい、と付け足すと口が開かれる。
橘「…霧野先輩とは行きたくないです。」
霧野「!?」
橘「冗談です、じゃあ約束してください。大会が一息ついたら皆で水族館に行く、って。」
霧野「…いつか、な。」
俺の勝手でそんな事は…。
橘「いつかなんて言わないで下さいっ!」
霧野「!?」
橘の剣幕が、俺の首を縦に振らせた。そして彼女の震える拳が、彼女の望む言葉を引き出させてしまう。
霧野「分かった。」
何で俺、橘の事を放っておけないんだろう。
彼女の悩みも隠し事も、放っておけないという割に触れてはいけないと理解していて聞く事が出来ない。
約束です、と橘が右手の小指を立てて差し出せば、迷わず同じように小指を立てて巻きつける。
「…ゆーびきった。」
指を離して顔を上げれば、橘は泣きはらした顔で安堵したような笑顔を浮かべていた。
*IN神童邸
〜メイドSIDE
拓人様は電話に出ております。帝国学園総帥である、鬼道様からのお電話です。
先日杏樹様が帝国学園内で誤って倉庫に入ってしまい出られなくなった時、鬼道様が助けて下さったと聞きました。
なので、その時の事を話されているのではないかと思います。
しばらくして切られると、拓人様はどこかへ電話をお掛けになりました。
辺りが静かなので、少し声が聞こえてきます。途切れ途切れに聞こえてくる単語から、相手が病院であるという事が分かりました。
予約をされているのでしょうか。
拓人様が受話器を置かれたので、私はどちらにお電話を、と尋ねてみました。
神童「稲妻総合病院です。月乃の様子がおかしかったので、一応専門の医者に診てもらった方が良いと鬼道さんが。」
メイド「杏樹様ですか…。確かに、お帰りになられてから声を聞いてません。」
神童「…。明日の午後、月乃の送迎をお願いします。稲妻総合病院の受付に行けば分かると思うので。」
メイド「かしこまりました。」
杏樹様は…現在お休みになられています。食欲もない様です。
今日は午前中のみ学校へ行かれます。ただ私としては、今晩が心配でなりません。
サッカー界に関わる財閥がいくつも集まっての、パーティーが行われるのです。
**
神童『…パーティー、ですか。』
せっかくの誘いだったが、月乃を連れていくのは難しいだろうと思う。今は安静にしていた方がいいというのは、誰が見ても分かる。
ただ、サッカーに関わる財閥がいくつも集まるそのパーティーに、神童財閥は今まで参加した事が無かった。
しかも、クラリス家が招待してくれている。興味と、これを逃したらいつ参加できるか、という考え。
ティアラ『この前、月乃さんに嫌な思いさせちゃったみたいだから…そのお詫びに、と思って。出席する財閥の内、吉良財閥・鬼道財閥とは私と一緒に行く予定の歌音も知り合いだから安心できるでしょ?』
2つとも有名な財閥だ。吉良財閥は社長が相当すごい人らしい…。
ティアラ『それに月乃さん、今までパーティー出た経験がないみたいだから…歌音と一緒なら良い練習になると思うよ。』
その言葉に、心が揺れる。
月乃は、戸籍上神童財閥と血縁関係がある立場だ。記憶が戻れば関係が無くなるが、それまでは俺の親戚。
その関係がある以上、必要最低限参加しなければならないパーティーがいくつかある。
まだ月乃が現れて日が浅いから無いものの、これから出てくる事は確実だ。ならば同級生の歌音が出る、規模の小さいこのパーティーはうってつけだろう。
ティアラ『あと、吉良財閥の社長は元イナズマジャパンだよ?』
神童『出席させていただきます。』
神童「ということだから、今晩俺と一緒にパーティーに出てもらう。」
月乃「……分かりました。」
神童「午後は病院で診察を受けて、4時頃には着替え始めて。」
俺の言葉に、朝食を食べ終えた月乃は頷いた。それからすり寄ってくる猫を右手で撫でる。表情は穏やかだった。
昨日家の敷地内にいたという猫はメス。綺麗に洗われ食事を与えると、すっかり元気になった。
拾われた恩を分かっているのか、月乃に懐いている。俺にも警戒心は抱いていない様だが…。
神童「月乃、この猫の名前も決めてくれないか。」
月乃「え…」
神童「名前が無いと不便だからな。」
きょとんとした顔で俺を見てから、月乃は視線を猫に戻した。猫は彼女を見上げる。
月乃「……ルナ。」
撫でる手をとめて、月乃が呟くようにいう。
月乃「私が付けて良いのなら、ルナにします。」
ニャー、と返事をするように、猫が鳴いた。