二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 〜続・イナイレ*最強姉弟参上?!*〜本編更新 ( No.547 )
日時: 2012/04/03 21:54
名前: 伊莉寿 ◆OIb3ToTaW. (ID: r4kEfg7B)

第56話 見張り?偵察?

「ようこそ、いらっしゃいました。」

ドレスに身を包んだ月乃は、その声を無視して辺りを見渡した。見るもの全てが新鮮に、煌びやかに映る会場。

優雅な空気漂うのは、気品溢れる人々ばかりがいるからか。恐らく、パーティー特有の物なのだろう。

神童の目は早速、ラティアを捉えた。彼女もまたこちらに気付き、話を中断して出迎える。

ドレスを身に纏うと、また一段と美しく見える。

軽く挨拶を交わし、彼女は辺りを見渡した。誰かを探しているようだが、見つけたのか見つけられなかったのか表情からは分からない。

ラティア「歌音はすぐ戻ってくると思うわ。月乃さんは歌音と回ってくれるかしら。」

月乃「分かりました。」

俯いたまま返事をする。どこか暗い空気が、着飾った月乃から放たれていた。

神童「…ティアラさんは?」

ラティア「留守番よ。」

神童「え?」

私が嫌いな人に会いに行ってるわ、という声はどこか冷たい響きだった。

と、そこに歌音が現れた。場慣れしているのか、歩き方も月乃と比べ落ち着いている。挨拶の仕方も、しぐさも。

歌音「杏樹、一通り今日の会場について説明したいから行きましょう。」

月乃「うん、…それでは、」

失礼します、と頭を下げて神童、ラティアから離れて行った。

神童にも少し手を振ったように見えたが、よそよそしさが傍から見ても感じられる。

小さく、彼は息を吐いた。

ラティア「…何かあったのね?」

神童「いえ…転校する、と彼女が突然言い出したので。」

ラティア「転校?」

さすがに驚いたのか、ラティアは目を見開いた。それから何かを考える素振りを見せ、視線で月乃を追う。

神童「俺は…それでも良いと思ってるんですけど、今のサッカー部の状態を考えると、複雑で。」

ラティア「そうね、月乃さん強かったものね…異常に。」

試合でのプレイが思い出される。でも、とラティアが切り出した。

ラティア「月乃さん1人に頼っていてはだめという事は、分かってるわね?記憶を取り戻す足かせになってはいけないもの。」

神童「はい…え?」

あれ、と神童が顔を上げた。なぜラティアが記憶喪失である事を知っているのか、と違和感を感じたのだ。

すると彼女は笑って言った。

ラティア「世界のクラリス家が知らない情報は、流星瑠璃花の居場所だけよ?」

パーティー楽しんで、という言葉を残して、ラティアはその場を立ち去ってしまった。

残された神童はしばらく呆然と言葉なく立ち尽くし、ようやく出た言葉は「さすが」という呟きだった。





歌音「サッカー部やめる、って本当?」

取り分けたケーキを渡しながら、歌音が尋ねる。月乃は頷いてそれを受け取った。

2人で会場を巡り、一通り説明を終えると食事を始めた。

周りの人達は別に話しかけてこようとせず、これなら話を聞けると歌音は真剣な表情で座っている。

歌音「何でサッカー部をやめるの?」

丁度、口にケーキを含んだ直後。月乃は表情を変えなかったが、ケーキを飲み込み、しばらく間をおいてから口を開く。

月乃「…怖いから。」

歌音「怖い?」

月乃「サッカーしてると…詳しく言えないけど、怖いから。」

歌音「…詳しく、言えないの?」

悲しげな光が、歌音の瞳に揺れた。

ケーキを食べる手を止め、月乃がぽつりぽつりと語りだす。

月乃「私は前世でサッカーが好きだった、けど大好きな人が死んだ時も自分が周りに拒絶された時もそこにサッカーボールがあったから…。だからボールはダメ、マイナスの感情が噴き出して自分を抑えられる気がしない。」

歌音「…前世の記憶なんて、普通は残らないじゃない。」

月乃「前世は単なるたとえ。」

顔を上げ、空を見る月乃の視線を追う。空には星が輝いて、暗い所へ行けばもっと星が見えそうだと歌音は心の中で呟いた。

歌音「…サッカーが重荷、か。私はサッカーしてもそう思わないから、幸せなのかもしれないわね。」

月乃「…だけど、私は弱いから。不幸せとか、言ってられない。」

歌音「弱虫でも、雷門サッカー部は歓迎してくれるわよ?」

月乃「…だけど、」


『月乃さん!』


途端フラッシュバックする、天馬の笑顔。

月乃「…だけど、もう決めたから。記憶を早く取り戻さないといけない理由もある…。」

歌音「…その理由、聞かせてもらえる?」

月乃「…」

迷惑をかけてしまうから。

何よりの重荷であり、それが居づらい理由であった。早く記憶を取り戻して神童家を出ていきたい、家を見るたびに思う。

居心地が悪いわけではなく、逆にとても良い。ただ自分は客人として持て成されてしまっているのである。

けれど彼女の考え事は、記憶だけではなかった。

歌音「…飲み物、持ってきてあげる。」

何が良い、と尋ねると「水」という答え。欲が無い彼女らしいと言えば彼女らしい。

席を離れていく歌音を見て、月乃は顔に悲しさをにじませる。

友達がどういうものか分からない。互いに助け合うという物が良く分からない。どうしたら自分は歌音の〝友達〟になれるのか。

そう考えた時、誰かが自分の近くで足をとめた気配。顔を上げると、緑色の髪の男性が笑顔を浮かべていた。

月乃「…何か。」

「いや、君雷門イレブンだよね?俺円堂の知り合いだからさ。緑川リュウジっていうんだ、よろしくね。」

イナズマジャパンで、その昔にはエイリア学園として数多くの学校を破壊した緑川リュウジであった。

ことわざ好きとしても知られる彼は、現在吉良財閥社長秘書を務めている。

緑川「何を悩んでるんだ?」

月乃「…友達って、何なのか分からない。」

緑川「…ケンカでもした?」

月乃「そういう事じゃない。…」

〝ただ、友達と付き合っていた記憶が無いだけ。〟

出かかったその言葉を飲み込む。記憶喪失だとさらけ出すような言葉だった。

緑川は少し考えてから、自分の方を振り向かない彼女にそっと言葉をかけた。

緑川「その友達が君の事を好きなら、そういう事は気にしたりしないんじゃないかな。君に何か足りないなら言ってくれるだろうし、君は友達が何を求めるか分かるだろうし、その為にどうしたら良いのかはその時になれば自然に分かるものだと思うよ。友達の為に何かしたい、という気持ちが今君にあるなら、それで十分だ。」

月乃「…」

緑川「人の気持ちを読み取るのは、俺得意だからね。」

どうして分かったの、という月乃の視線に緑川は得意げな顔で答えた。

と、緑川を呼ぶ声が近くから聞こえた。恐らくそれはヒロトの物だが、月乃は知らない。その声をした方を向いている。

緑川「おっと、俺は行かないと。そう言えば、君名前は?」

月乃「…月乃杏樹。」

緑川「杏樹ちゃんか、次会った時はよろしくね!」

椅子に座ったまま彼が走り去るのを見送ると、月乃は小さな声で何かを呟いてから背後を振り返る。

少し遠くから、何人かの人をはさんで男の視線を感じていた。

ピンク色の髪の男は、フィフスセクターで会った人物。

月乃「…」



















〝次会う時も、この名前だったら良いけど。〟













*続く*
グダグダですいません…