二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 〜続・イナイレ*最強姉弟参上?!*new:フィフスセクター ( No.555 )
- 日時: 2012/04/10 01:13
- 名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: r4kEfg7B)
第58話 VS…?
〜天馬SIDE
橘「…何か久し振り。」
帝国学園のグラウンドに向かって歩いていると、美咲が吐く息に乗せて呟いた言葉。
そう言えば、美咲はテニス部でついこの前来たばっかりなんだっけ。
今日はホーリーロード地区予選準決勝、帝国学園戦。剣城がいない10人で戦う事になる。月乃さんも、休部だから。
月乃さんがいれば心強かったとは思うけど、事情があるんだってキャプテンが言ってたから俺はどうこう言えない…かな。
本当はその事情が何なのか教えてほしいし、良くなるように手伝いたい。だって、万能坂戦で月乃さんは俺達を助けてくれたから。
助け合うのが仲間だという以前に、俺は月乃さんから見ればきっと友達にもなれていない、でも、だからこそ。
橘「…天馬、どうしたの?そっちは壁…」
「ゴンッ」
葵「天馬!?」
西園「大丈夫!!?」
ほ…星が散った…。
三国「薄暗いから、気をつけろよ?」
天馬「はい…」
でこが痛い。考え事をして歩いたらだめ、ってこういう事だったんだ…。
でも、考えずにはいられない事だった。………今度からは前を注意して考えよう!←
橘「…何考えてたの?でこ大丈夫?」
天馬「大丈夫!」
美咲の右手がでこに当てられた。熱を持ってるからか、ひんやりと冷たく感じられて気持ちいい。
橘「…試合の時、タンコブ出来てたら面白いね!」
葵「美咲ちゃん…;;」
でも相手選手の注意がでこに向いて、良いかもしれないなぁ…。
**
『貴女は悪魔の血を継いでるんだから!』
『違うっ、パパは…普通のパパだもん!!優しいんだからっ!』
『良い悪魔なんて、居る訳ないじゃない!』
『あの悪魔がどれだけ天使を殺したと思ってるの!?』
月乃は思う。
自分は、ここでどうあるべきなのか。ただ記憶を取り戻すだけで良いのか、と。
自分に友達などいなかった。居る様で、いなかったのだ。
記憶が戻るにつれ、ぼやけた輪郭ながらとても親しい存在を思い出していた。彼女も自分の遠くに居た。結局は、周りと同じで。
強い存在がいたから、強い力を使えなかったから。
病室のテレビの音が、廊下にも漏れていた。わずかに開いたドア。聞こえてくるのは、偶然にもホーリーロードの試合の音。
歩くのをやめ、少しの間その音に耳を澄ます。
雷門は10人でのフォーメーション、対する帝国はやや攻撃的な陣形で試合に挑む様だ。
細かく見れば50年前から因縁のある対決となる、雷門VS帝国。
その一戦は、会場・戦力からして雷門が不利な状態で始まろうとしている。
月乃はネームプレートに視線を移す。剣城優一、試合に出ないらしい剣城の兄だった。
続いて彼女は辺りを見渡し、近くに剣城がいない事を知る。彼が試合に出ないつもりである事は、彼女にも分かっていた。
ならば、ここに来るのではないかという推測。
兄弟それぞれの気持ちを考えてから、しかし表情を変えずにその場を立ち去ろうと一歩踏み出した刹那、背後で足音が止まる。
「月乃さん、勝手に出歩かれては困ります。」
振り返ると、そこに立っていたのはフィフスセクターの黒木。
かつて黒の騎士団を率いて、雷門中サッカー部に壊滅的なダメージを与えた存在だ。
月乃「…私は、診察を受けに来ただけです。」
黒木「まっすぐ来るという話では?」
月乃「私の話を聞いてそう思っただけでは。その様な事は一切言ってませんから。」
しっかりとした口調で、月乃は言い放つ。二度目の診察が必要だったという事を言い忘れたのか、わざと言わなかったのか。
そこは、本人しか知る由もない。
月乃「…これから診察なので、失礼します。」
礼をして歩いて行く彼女の背中を見て、黒木は小さな笑みを浮かべる。
「だが、ここ——入院病棟——に居たという事は剣城の事が気になっての事だろう?」
**
雅野「…おかしい。」
何で彼女がいないんだろう、とキーパーグローブをはめながら雅野は首をかしげる。
視線の先では、雷門サッカー部がウォーミングアップをしていた。
雅野は人数を数えて10人である事にまず違和感を覚え、そして先日帝国学園を騒がせた月乃が居ない事に気付く。
万能坂戦で不可解な行動をしていた10番の姿も見当たらない。
龍崎「雷門は俺達をなめているのか?」
雅野「…ベンチにも選手がいない。何か問題があったと見るのが妥当だ。」
フォーメーションに着いた龍崎。雅野の言葉を受けて、つまらなそうに再び雷門陣を見つめる。
彼らの力がどの程度の物か、龍崎も知っていた。
万能坂戦からどれだけレベルアップしたかは分からないが、そうだとしてもたかが知れていると彼は考えていた。
自分がシードで、化身技を自由に使えるという自信が笑みに現れる。
一方、雷門陣は緊張した面持ちでそれぞれポジションに立った。ベンチにも緊張が走っている。
円堂は鬼道を見た。表情から考えを読み取る事は出来ない。
こうして、試合は始まった。
前半、アルティメットサンダーに挑戦するも全く成功しない雷門は1点を試合開始早々に奪われていた。
神童のフォルテシモも、帝国学園キーパーの雅野があっさりと止めてしまった。
この程度か、とボールを持ってリラックスした表情の雅野は言う。対照的に、雷門陣は驚きの表情を隠せない。
今まで、神童のフォルテシモを技なしで止めた選手がいただろうか。
美咲はフィールドを数秒見つめてから、ベンチを立った。気付いた葵が声をかけようとするも、それより早く彼女が振り返る。
フィールドでの接戦に釘付けになっているのか、ベンチでは葵と円堂以外美咲が立った事に気付いていなかった。
彼女は右手人差し指を立てて口元に持っていき、静かに、というジェスチャー。続いてすぐ戻るから、と口の動きで伝える。
直後、会場にどよめきが広がる。
葵が振り返ると、展開されていた帝国のフォーメーションは中央をがら空きにするという驚きの物だった。
意味を考えてしまった葵がハッとして振り返ると、そこには既に美咲の姿は無く。
スコアは0−1、点数以上に雷門の不利。
*
橘「…ん、良かった。悪魔は動かないんだ。」
ソフィア『あくまでも今の段階での話。逆に何かあると考えられるから、今日はここから見張ってるわ。それと、今日の対戦相手。ラフプレイが得意な選手が多いみたいだから。』
珍しい、と心の中で橘が呟き、画面に映るソフィアに笑みを返す。
橘「了解、忠告ありがと。」
通信を切断し、フィールドの方を向く。そろそろ前半が終わる時間だ。
橘「…サッカー、かぁ。」
彼女の呟きは、薄暗い帝国学園の校舎で響かなかった。