二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 〜続・イナイレ*最強姉弟参上?!*new:VS…? ( No.559 )
- 日時: 2012/04/13 22:05
- 名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: r4kEfg7B)
第59話 Good bye.
カラリ、とドアが開けられた。
驚いた反動で物想いから覚める。ずっと、弟の事を考えていた。試合に出ず現れたかと思えば、なかなか戻ってこない弟の事を。
「……」
入口に立っていたのは初対面の少女だった。
どこかで見た事がある様な気がして記憶を探る。無意識の内に首を傾げていた。
「剣城優一、さん。」
細い声で突然名前を呼ばれて、俺は目を見開いた。一体何の用だろう…?
虚空を見つめていた瑠璃色の瞳が、俺を捉えた。そして開かれた口から告げられた言葉に目を見開く。
「弟さんの所へ、案内しようと思って。」
ああ、そうだ思い出した。
優一「君は、月乃杏樹さんだね?」
彼女は表情を変える事無く、俺を車いすに乗るよう促した。淡々とした動きに、ふとある少年の面影を見る。
…弟に、似ている気がした。
それが何を指すのか、俺には分からない。ただ漠然とそう思っただけで。
車いすが止まる。そこは中庭への入口で、月乃さんを振り返ると、視線は中庭へ向けられていた。
彼女の視線を追う。
視界に入って来たのは、黒ずくめの男と弟・京介の姿。何かを話している様子だが、男の方は明らかに怪しい格好をしている。
京介の顔も強張っていて、良い話をしている訳ではないと分かった。
中庭へ続く扉を開け、少しの罪悪感を抱きながら耳を澄ます。弟の為、と思い2人の声を必死になって拾った。
しかし。
聞こえてきた言葉は、全く予想していなかったものだった。
月乃「…分かりましたか、弟さんのしていた事。」
落ち着いた声色で月乃さんは、俺の知らなかった事を語りだす。
月乃「彼が所属するフィフスセクターはサッカーの試合に関して勝敗指示や内容の指示を出し、管理する組織です。弟さんは専属選手〝シード〟として雷門中サッカー部を監視しに来ました。指示に逆らおうとすれば力で服従させる…それはフィフスセクターの指示です。」
優一「…何で、京介はそんな事…」
声が震える。初めて真実を知り、京介を見れば今までと同じように思えなかった。どうして、どうして…。
疑問の答えを教えてくれたのは、月乃さんでは無く京介だった。
剣城「…兄さんの手術費は、出してくれるんですよね。」
優一「ーっ!?」
黒木「勿論ですよ。」
俺の、手術費……?
震える拳は、太ももの上にあった。事故で動かなくなったこの足を治すには手術が必要、だがかかるお金は膨大な金額だった。
一般家庭にそんな金がある訳ない。
だから俺はサッカーが出来なくなった、でも京介はサッカーが出来るのだから普通にサッカーをしてほしかった。
悔しさから下唇をかむ。
握りしめた拳を見つめていると、月乃さんが車いすを動かした。後ろに引いて、部屋に戻りましょうという声。
月乃「…今の雷門には彼の力が必要です。そして変えられるのは、優一さんだけです。…あの組織から救えるのは。」
その言葉に、俺は理解した。京介と月乃さんが、似ていると思った理由を。
同じような表情。恐らく、フィフスセクターという組織の重圧に苦しんでいたんだろう。つまり、今までの事を考えれば。
優一「1つ、質問して良いかな。」
月乃「何ですか。」
優一「月乃さんも、そのシードなのかい?」
沈黙が訪れる。
病室に到着し、俺はベッドに戻った。月乃さんの顔を見れば、ゆっくりと彼女は視線を合わせる。相変わらずの、無表情で。
月乃「私は、シードではありません。」
瑠璃色の瞳にある光は、ほんのわずかな物。
月乃「…もうそろそろ弟さんが来ますので、私は失礼します。」
頭を下げた彼女は、体を震わせていた様に思える。シードでは無い、だけど。
病室が俺1人になった直後、京介が何食わぬ顔で入って来た。
さあ……どうしようか。
優一「京介。」
剣城「兄さん…?」
俺の表情は、恐らくいつもより厳しい。京介は気付いたらしい。
さあ、どうしようか。
フィフスセクターのサッカーをやめてほしいというこの想いは、どうすれば真っすぐ届いてくれるんだろう。
**
『月乃さんも、そのシードなのかい?』
違う、と答えた本人は病棟を出た。そこで立ち止まり、振り返る。
今頃、兄弟の対話がなされているのだろう。
月乃「私は、弱い…」
結局、自分1人では力になる事が出来ない。
月乃「私は、シードではありません。」
結局、自分は弱い。再び口に出してみて、悲しさが心を支配するのを感じた。
月乃「……今、は。」
窓から、病院の駐車場を見降ろす。
そこにある1台の黒い車は、フィフスセクターの物だ。恐らく、黒木がいるのだろう。
しばらくそれを見つめてから、出入り口へ向かう。けれど、外には出ずドアの前で立ち止まった。
見つめるのは、階段。
目を閉じて、耳を澄ます。
多くの雑談する声の中、遠くに急ぐ足音。
今すぐに、階段を降り切って視界に入るだろう。
家族の為ではなく、自分の為に。それが、家族の為にもなる。
彼は気付いたのだ。
月乃「…剣城さん。」
剣城「!月乃っ…」
月乃「…すぐ、向かってくれま…」
彼女が、言葉を切る。剣城が頭を下げたのだ。
ゆっくりと頭を上げた剣城が月乃の目を見ると、瑠璃色の瞳いっぱいに彼の顔が映る。
表情には驚きがにじんでいた。
剣城「…俺はお前を、フィフスセクターに売った様なものだ…」
月乃「それは違います、私は…望んで、入ったんです。」
剣城「!?」
今度は、剣城が驚く番だった。
月乃は背を向ける。
早く、という言葉は彼に向けられたものだろう。独り言のようにこぼれた言葉、それはいつも通りの声に聞こえた。
月乃「早く…雷門サッカー部の所に行って下さい。」
桜色の髪は、周りの世界に馴染むことを拒む様で。
剣城は、なぜか走りたがる自分の足を理解できないまま、そのままに走り出す。
試合に出るため、に。シードとしてではなく、雷門中サッカー部の部員として。
**
月乃「…さよなら、雷門中サッカー部。」
これが、サッカー部員としての月乃杏樹の、最後。