二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   虹の錬金術師、 ( No.1 )
日時: 2011/09/01 16:52
名前: 緋音 ◆gqg2KDGBVg (ID: FvYbH6zw)




 - 序章 -



————錬金術師よ、大衆のためにあれ
その決まりを、あの人はいつだって守っていた。
小さな子供が襲われそうになれば錬金術で撃退して守り、物が壊れたと嘆く者がいればそれを直してやり、悪人を錬金術で痛い目にあわせた時だってあった。
そうだ。あの人は、守ってばかりだった。
私自身、あの人が守られている所を見た事がなかった。いつも笑顔で、周りに元気を与えるあの人のそんな場面。
そんなあの人が、私は大嫌いだったのだと思う。
————あなたは、何故いつも笑っているのですか。何故、誰にも守られないのですか
少し、怒りをふくんだ声だったと思う。
あの人は驚いた様な顔をすると、次にいつもの倍の勢いで笑い始めた。
————何がおかしいのですか
————いや、すまないね。きみがあまりにもおかしいことを言うからさ
腹を抱え、涙目で言うあの人は、何処か違っていた。
涙を拭ってから、あの人はまた小さく笑って、私の頭をゆっくりとなでてきた。
————僕がいつも笑っているのは、きみが笑わないから
何を言っているんだこいつは、と、あの時の私はきっと思っていた。
————でもね。きみは間違えてるよ。僕は守られてるんだ
————誰にですか。いつですか
仏頂面で、淡々と私はあの人に向かって言う。あの人はより一層微笑んだ。
大嫌いだったのだ。その笑顔が。私が笑わないから、笑っている。ふざけるな、という思いだった。
それでも、あの人は尚笑うのだ。
————僕は、いつもきみに守られているんだよ
叶うのならば、もう一度。あの人に会いたいと願い続ける。
叶うのならば、もう一度。あの人の笑顔が見たいと願い続ける。
————……馬鹿、ですね

それは今では叶わぬ、泡と化した夢。


 * * *