二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: モンスターハンター ( No.10 )
- 日時: 2013/04/02 14:43
- 名前: えびピラフ (ID: JryR3G2V)
プロローグその3
さて…どうしたものか。
俺は試験の合格目的であるドスランポスのほうに向き直り、考える。どう戦うか、どうやって勝つか…
「では、これより試験を開始する!!!」
ドォォォォォォォォォォォン!
とてつもなく大きな銅鑼の音が闘技場に鳴り響き、俺の一世一代の試験が始まる。
「…っらあ!」
先手必勝、思い切り地面をけり、一気に跳躍してドスランポスとの距離を詰める。腰から剣を抜き、思い切り振りかぶり、振り落とす。もちろん、狙うは首元。いくら切れ味の悪いこの剣でも、切り落とすまではいかなくても少なくともだめージを与えられるだろう。
「ギェェェェ!」
しかし、そこはドスランポス。簡単に首を切らせてくれるわけがない。
ドスランポスは攻撃があたる直前で、後ろに下がりかわす。そして、体を半回転させながら、大振りが外れて無防備になっている俺の横腹に尻尾を叩きつけた。
ものすごい衝撃が俺を襲い、後方へと吹き飛ばされる。レザー装備しかつけていなかった俺には、その衝撃を耐え切ることなどできるわけがなく、なす術もなく吹き飛ばされてしまう。
「…がぁ!」
受身を取るのに失敗し、呼吸をすることすら危ういほどのダメージを負ってしまった。ここまでになると、もう勝機はないと見て間違いはないのかもしれない。
試験管たちもそれを悟ったらしく、睡眠弾を打つべくボウガンを構える。
対するドスランポスは、獲物を捕食しようとゆっくりと俺に近づいてくる。…くそぅ、俺はなんて無力なんだよ…こんなんなら親父にしっかり剣術を習っとけば…
ドン!ドン!ドン!
発砲音が三回ほど鳴り、ドスランポスに睡眠弾が打ち込まれる。そして、ゆっくりと地面に倒れ…
こまない。
ギリギリのところでドスランポスは態勢を立て直し、こちらに走りこんでくる。
「うそ…だろ…」
ギャラリーを見ると、試験管が慌しく弾を再装填している。ダメだ、間に合わない。
受験生がざわめく。安全なはずの試験で、このようなことなど誰も想像していなかったのだ。もちろん、俺も。
ためしに、体を動かそうとしてみる。が、尻尾を叩きつけられた横腹や、吹っ飛ばされたときの打撲症が痛むだけだ。指一つ動かない。
そういっている間にも、どんどんドスランポスが近づいてくる。あと、3m…近づかれるにつれて、相手の顔もはっきりと見えてくる。鋭い牙、爪、トサカ…モンスター図鑑でよく見ていた姿だが、実際に近くで見たのはこれが初だ。こんな状況ではなければ、発狂していたレベルだろう。いや、実際にはこの状況でも発狂しそうなのだが…親父、俺…もうダメっぽい…いまそっちに———
ドォン…
死を覚悟しかけたそのとき、一つの砲撃音とともに、ドスランポスが大きく仰け反る。
さらに二発、三発と連続して打ち込まれる。足、首、頭、と、的確に、正確にボウガンの弾が打ち込まれ、ドスランポスは確実に弱っていく。
突然の事態に驚いたドスランポスは、たまらず逃げ出そうと後ろを向く。しかし、それを許さずに、追い討ちをかけるようにさらに弾が撃たれる。
やがて、周りに血だまりを作りながら、ドスランポスは動かなくなった。
あたりに値の臭いが充満し、静寂が訪れる。みな、思わぬ乱入に混乱しているのだ。
俺もみなと同じくなにがなにやら意味がわからない。死にかけて力が解放されたとか?…あまりにも中二病すぎる。
「…こんなものか」
これは、聞き覚えのあるよく透き通った無愛想な声。殺気は篭っています。
俺は、痛みを我慢しながら、ギャラリーのほうを向く。
するとそこには、煙を立たせているボウガンを構えた———黒服の少女がいた。
…オイオイ。これはどういうことだ?
ちらり、ドスランポスを見てみる。やっぱり死んでいる。
ボウガンを持った黒服の少女。ボウガンからは煙が出ている。そして今少女が言った言葉…
理解した。ドスランポスは少女が倒した。
ってオイィィィィィィィィィ!
マジか!?マジなのか!?
「う…おおお!」
傷む体を無理やり起こすと、少女の元へとダッシュする。
「おい!もしかして、このドスランポスは君がやったのか!?」
「…あなたが死にかけてたから、助けてあげた」
「そっか〜ありがとう。って、そういうわけにはいかないよ!なんでボウガン使えんの!?てかそれどこにあったんだよ!?」
「…うるさい」
一蹴されてしまった。ショボン。
だって気になるもん。…いてて、ツッコミしてたら傷が…端っこで座っていよう。
「…そこの試験管」
「……」
さっき睡眠弾を打って失敗していた試験管は、何が起きたのか理解できないという風に、口をパクパクしている。
「…この、ボウガン?というのか。なかなかおもしろいものだな。お前は全く使いこなせていないようだったが…それにしても、我が助けなければあいつは死んでいたぞ」
「…な、何を言うか!お前の助けなどなくても、ドスランポスぐらい俺が一人で倒せたわ!」
虚空を見つめていた試験管が、我に返ってなんとか言い返す。うん、言っちゃ悪いかもしれないけど、俺も死を覚悟してたけどね。
「…そうか」
ふぅ。と、少女は一息をつく。そして、今まで俺に向けていたのとは比べ物にならないほどの殺気を試験官に放ちながら言い放った。
「…お前は、今そこでうずくまっている男、あいつにも劣る下衆と言うわけだ」
「な、何だと!?」
…ん?そこにいる男って俺のことじゃないか?
うーん、さすがに試験官って言ったらお偉いさんだし、そこまでじゃないと思うんだけど…でも、あの少女が俺を褒めるなんて珍しい。初めてかもしれないな。
「…あいつは自分が死の危険に晒されている時、覚悟を決めていたな。お前のように無様にパニックに陥ることなく。ふん、もし試験者があいつではなくお前だったなら助けることはなかっただろうな」
「あ…う…」
おおう…少女怖い。少女の中では俺が死を受け入れられるだけの覚悟がある人間だと思われているらしい。
なんて言うか、パニックになれるだけの力がなかっただけなんだけどね。
「そこまで!両者はけんかをするでない!離れろ!」
そこで闘技場に響き渡る怒号。その声の主を見ると、闘技場の入り口にいたあの試験管だった。
「さて…様子を見に来てみれば、試験管と見学の生徒が言い合いをしているではないか。どう説明してくれるのだ?」
「こ、これは…」
「…」
む、少女はもう何も言う気はないらしい。試験官はパニックだし…仕方ない。
「あー…俺が試験をしていたんですけど、失敗してしまいましてね。それで、そこの試験官さんが眠らせようとしたんですがこれまた失敗して、そこの少女がとどめを刺したんです」
「ほう、これを一人で、か。これはこの村のハンターが4人がかりで捕獲してきたのだが…弱っていたとはいえ、すごいな」
少女へと賞賛の声を連ねる試験管。俺だってがんばったのにね。
「ふむ…試験者の皆!聞いてくれ!」
すこしザワついていた闘技場内が一気に静まり返り、試験官に前視線が集中する。
「近頃、モンスターの行動領域が広がり、図鑑には載っていないような新種の凶暴なモンスターの目撃情報も多数報告されている。だから、生半可な試験を行なって中途半端なハンターを戦場に送り、犬死させないよう、今年の試験は内容を難しくした。試験官もつけているから安全だと思い込んでいた…しかし、実際に死者が出るところだった。これは私達試験官の怠慢だ。本当にすまなかった!!!」
試験官はそこまで言い切ると、深く深く頭を下げた。
…たしかに、さっきは少女が助けてくれたから良かったようなものの、本当なら俺は死んでいたんだ。さっきしっぽを食らった横腹がズキリと痛む。それが妙に生々しく、震えが止まらなくなってしまう。
「…しかし、忘れないでほしい。一度このむらを出ればそこは戦場。大自然という名の脅威だ。誰も守ってくれるものなどいない。自分の身は、自分で守るしか無いんだ」