二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- プロローグ ( No.1 )
- 日時: 2011/10/25 21:33
- 名前: 天熊 ◆zdSz24mXnI (ID: UE6W7gUy)
- 参照: プロローグは短くした方がいいのかな…?
【プロローグ】
「つまらないわ……」
全身を黒いコートに身を包んだ少女は、何処か寂しそうに呟く。
首を下に向けて溜息を一つ吐く。
その弾みで銀髪のポニーテールが、左肩をそっと撫でた。
少女の黒い瞳に映る景色は、光を交えた暗闇の中。 見渡す限り、木々が草花が生い茂っている。
「ハァ……」
二度目の溜息。
次は上に向かって吐いてみた。
ここで少女は初めて、近くに野生のポケモンがいることを悟った。
そのポケモン達はまるで地上の星のように明かりを出していた。
認識できるのはバルビートとイルミーゼ。
それも数匹ではなく、何百匹もいるように思えた。
「何でこのポケモンに気が付かなかったんだろう……?」
確かにその通りだった。
もう十二時を過ぎる夜だというのに、辺りはポケモンのおかげで明るい。
まるで皆既日食の正反対のようだ。
やがて、少女の前に一匹のバルビートが近づいて来た。
少女はバルビートを見つめながら呟いた。
「私の所に来たって、何もあげないよ? それとも——」
少女はバルビートの異変に気が付いた。
——このバルビート、何処か苦しそう。
少女は両手をひらき、そっとバルビートを抱えた。
よく見てみると、バルビートは左足に火傷を負っていた。
それと生々しい噛みついた後が残っていた。
——“炎の牙”!?
ふと少女は立ち上がり、敷物代わりにしていた肩掛けのバッグのチャックを開けた。
「確か、あったはずなんだけど……」
見つけた、と言わんばかりに笑顔をつくる少女と苦しさに耐えるバルビート。
少女は二つの木の実を持っており、一つはチーゴの実、もう一つはオボンの実と呼ばれる、回復の代名詞と言えるほどの料理などの材料だった。
バルビートを抱きかかえ、はじめに少女はチーゴの実をかじらせる。
続いてオボンの実。 チーゴの実には火傷を回復する効果があり、オボンの実には体力を少しだけ回復する効果がある。
バルビートは苦しそうな表情から、嬉しそうな表情に変わった。
「前言撤回するわ。 木の実を二個もあげちゃったからね」
バルビートは言葉の意味が分かったかのように、更に微笑んでいた。
しかし、その表情はまた一変し、今度は何かに怯えるように小刻みに震えだした。
「あれ? どうかしたの?」
少女の問いかけに、バルビートの左手が彼女の頭の方を指差した。
少女は上を見上げる。
——この瞬間に少女とバルビートは刹那の内に、右へ吹き飛ばされた——と言うよりも、あるポケモンの攻撃を喰らった。
少女のいた地面は抉られたように約一メートルの穴があいていた。
バルビートが指差した、少女の後ろにいたポケモンは腹部に水色の菱形、自身にも数か所小さい穴があいていて、薄い緑色の巨体——バンギラスだった。
おそらく先程の技は、太い尾を使った鉄壁の攻撃とも言える“アイアンテール”。
少女は状況を整理し、バッグに手を伸ばす。
このバンギラスは素早さが低いのか、大股だがゆっくりした動作だったので、遠くのバッグには楽して届いた。
「分かった、分かったって! バトルしたいんでしょ? ボール、ボール……」
そして少女は一つのボールを手に取る。
知られている赤と白の柄ではなく、真っ白。
これはプレミアボールと呼ばれる、少し珍しいボールだ。
「出てきて! ガブリアス!」
プレミアボールから華麗に登場したのは、藍色の龍の姿のポケモン、ガブリアス。
翼を伸ばし、体を折りたたむと龍の旋風の如く、音速で飛ぶように素速くバンギラスへ駆けていった。
しかし、それを察知したようにバンギラスは体を右へ倒した。
ガブリアスの攻撃は空振り。
翼を折り、地面を足につけて地面に降りた。
スピードが乗っていた為か、少し後ろに足を引きずり、体のバランスを保った。
「あきらめないでね、ガブリアス」
ガブリアスは彼女の言葉が嬉しかったのか、少女の方を向いて、一吠え。
両手を腰の部位まで下げ、尾を左右へと揺らす。
——ここから勝負は決まったも同然だった。
バンギラスも負けじと豪快に吠える。
ガブリアスを睨むように双眼を細くし、牙にエネルギーを溜める。
そこから熱気に包まれ、炎が歯の一つ一つから溢れだしてきた。
灼熱、鋭牙————“炎の牙”。
少女は両目を見開き、驚き、そして悟る。
「あなただったのね、バルビートを気付けたのは?」
少女の言葉にはお構いなしに、バンギラスはガブリアスの左足へ噛み付こうとしていた。
しかし、ガブリアスはそこで霧のように消える。
いつの間にか此処には、“砂嵐”が舞っていた。
これはバンギラスの特性。
そして、ガブリアスが消えたのも特性——砂隠れ。
これは砂嵐が起こった時に回避率が上がるという物である。
「ガブリアス、“逆鱗”!」
バンギラスの死角、後方にいたガブリアスは、誰しもが触れてはいけない怒り、“逆鱗”を繰り出した。
ガブリアスは全身をバンギラスの背中へと押し倒す。
バンギラスは逃げる間もなく“逆鱗”を喰らう。
しかもそこは急所。
バンギラスは足元から頭へと、前に倒れこんだ。
と同時に、砂煙がバンギラスの身体を避けるように、舞う。
「なかなか、強かったよ。 その性格、私が直してあげる」
少女はバンギラスに向かってモンスターボールを投げた。
バンギラスの額にあたる。
そして、バンギラスは見るからにも眩しい光に包まれ、大きな体はモンスターボールの中へと入り込む。
ボールは二、三回揺れ、ついには静止。
つまり、バンギラスを捕まえた。
モンスターボールは実に不思議な代物である。
ショップに行けば色んな機能を持ったボールが売られている。
不思議なのは、その小さな小さなモンスターボールの中に、あの大きなバンギラスが入ることである。
そして、そのボールを使った主の命令に聞くようになるのだ。
野生ポケモンとはもう去らば。
全てのポケモンがそうなるとは限らないが————。
「本当に、つまらないわ……」
また少女は呟く。
そしてモンスターボールを手に取り、ガブリアスもボールに戻し、バッグに入れた。
何事もなかったかのようにバルビートとイルミーゼの光道を歩き出し、少女は少し微笑みながら、またまた呟く。
「でも、ポケモンを愛せない人の方がもっとつまらないわよね」
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