二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

第一章  一つの旅への羽ばたきの音 ( No.3 )
日時: 2011/10/27 13:29
名前: 天熊 ◆zdSz24mXnI (ID: tgMaGFHR)

     《Noah side》

春風が、心の蕾を拓かせる時期。 
時間は正午を過ぎた所。 
季節外れの黒いコートに身を包んだ少女——「ノア」は、木漏れ日が光る、草原の上に腰を下ろした。 
そしてバッグから一つのモンスターボールを取り出し、独り言。

「どうして言うことを聞いてくれないの?」



          【第一話  二 人 の ト レ ー ナ ー】



彼女はモンスターボールの開閉ボタンを押した。 
中からは巨体のバンギラスが出てくる。 
腕を振り回し、いかにもバトルがしたいと言い張る態度。 
ノアは呆れて空を見上げる。 
真っ白な雲に蒼い大空は少女の心境とは似ても似つかなかった。

「意外とポケモンを慣らすのは難しいよ……。 つまんないっ!」

細目でバンギラスを睨む。 
相手は全くの無視。 
時々、草を千切り、土の地面を探す行動をする。 
仕方なくノアはバンギラスの我が儘を聞くことにし、バッグの中身をあさる——と言っても、この行動は約二十回目。

「これで最後よ! 分かった?」

と言ったのも約二十回目。 
大事そうにプレミアボールを取り出し、バンギラスの手前へボールを投げる。

「でも……私、次は本気でいくからね」

ボールから出てきたのはガブリアス。 
バンギラスは、待ってました! とでも言うように攻撃の構え。 
しかし、ガブリアスは少しずつ小さくなっていく。 
色は藍色ではなく、どんどん違う色へと変化していく。 
白い光に身を包み、空中へと佇んだ。 
身を包む光が消えた時、バンギラスの目に映ったのはガブリアスではなく、桃色の身体、尾をしなやかにくねらせる、幻のポケモン——「ミュウ」だった。

「バンギラス——いや、“ランス”。 これが貴方のニックネームよ。 ミュウが出てきて驚いたでしょ? この子の技“変身”でね、チャンピオンのシロナさんのガブリアスに変身してたのよ」

バンギラスは酷く驚いているようだ。 
目を大きく見開け——漫画で言うなら汗を流した。 
さっきの勇ましい姿は、可愛らしい姿へと変化したのだから無理もない。

「さーてと、バトルしたい?」

バンギラスは、いえいえ結構ですよ! と言う様に両手を振り、拒否する。 
——このバンギラス、なかなか常識が分かっている。
倒されるのは自分だと察したのだろう。 
ノアは「よろしい」とだけ言って、バッグから一つの分厚い本を取り出した。 
ページをめくり、そのページを見てはめくる、という動作が何回か続いた時、ノアは声を張り上げた。

「ジムバッジを持っていれば、獰猛なポケモンも言うことを聞くのかぁ。 よし、なら早速行くよ」

ノアは本を勢い良く閉じた。 
ミュウはノアの肩に乗り、バンギラスはその後ろへと歩く。 
天から差す太陽の閃光は、徐々に薄暗く変わっていく雲に遮られ、辺りは少しだけ暗くなる。 
その光景は彼女たちの運命をも象徴しているように見えた。



                    change



     《Scarlet side》

場所は変わり同時刻。 
木々の隙間の木漏れ日が消えた頃、蒼い頭の屋根の家から勢いよく飛び出した少年は後ろも振り返らずに「いってきま〜す!」とだけ言い放つ。 
紅色のキャップに上着は白に黒のアンダーライン、下着は黒の長ズボン。 
ヒップバッグも掛けており、今から旅に出るというような服装。

「これから俺達の冒険が始まるんだな!」

この少年の名は「スカーレット」。 
両親から名付けてもらったこの名前は、やや黄味を帯びた赤色のことで、彼が旅に出る理由に関係があった。

元々幼少時は悪戯好きで、そこから少し経った頃に引きこもりをしていた。 
それは、なかなか上手くポケモンを扱えずに近所の友達からも相手にされなくなってしまったからだ。 
しかし、偶然にも一つの出来事が彼の運命を変える灯火となったのだ。

その出来事とは「レッドのポケモンリーグ優勝」。
このレッドと言う少年も、初めはポケモンを扱うのが苦手だったらしい。 
しかし、努力を惜しむことなく練習した結果、ポケモンリーグを優勝できるほどの力を持った。 
そもそもポケモンリーグと言うのは、ポケモントレーナーが一番憧れている聖地と言うべき場所だ。 
トレーナーの実力、愛情など、ポケモンに対して、トレーナーに対しての様々なことが試される。 
ポケモンと毎日暮らせるだけでいい、と言う人も勿論いる。

本題に戻り、ポケモンリーグへ行くには、地方各地のポケモンジムと呼ばれる、戦いの基本、戦術などを試す場所へ行く必要がある。 
勝つことができたのならば、ジムバッジと呼ばれる“証”を貰える。 
見事八つ集めることができたのなら、ポケモンリーグへの扉は開かれる————。

これは全てスカーレットが調べたことだ。 


————自分と似ている。 
名前、バトルが苦手なこと。 
しかし、レッドは諦めなかった。 


そこから彼はレッドを尊敬し、必死にバトルの腕を磨いていった。 
そして今日という今日————スカーレットが旅立つ日。

「目的は勿論、ジム制覇とリーグ優勝だ! もし、それが達成できたら、今度はレッドさんに勝負を挑みに行こう!」

ヒップバッグの中にあるモンスターボールに喋りかけるように彼は優しく叫んだ。 
中にいるポケモンは何か認識できないが、優しく微笑み返しているようだった。

「——あれ? ところでレッドさんってどこにいるんだろう? …………ま、いっか!」

嬉しそうな表情で、灰色の道路を走る彼から離れた背後には、何やら尋常じゃない雰囲気が漂っていた。



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