二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

中編その1.想いは唐突に ( No.68 )
日時: 2011/10/05 02:35
名前: 伊莉寿 (ID: r4kEfg7B)

*最強姉弟とカルチャーショック*


ラピスはサッカー経験者か?

低く良く通る声で聞かれた時、背筋に寒気が走った。手に抱えていたモノクロのボールを思わず落としそうになる。

闘技場でミッションのメンバー全員と顔合わせをした後の事だった。名前が全員長く覚えられるか不安に思った矢先。

居たのは自分ラピスと隊長——バダップだけ。2人きりなのは、彼も少し配慮してのことだろうか。

ラ「そう見えますか?」

焦っている事を表に出したは行けない、と言い聞かせた。狼狽している事が分かってしまえばYESと答えているも同然。

バ「とても手慣れているからな。」

ラ「他の方より、練習は多めにしているつもりです、だからじゃないですか?」

気まずくなりたくなかった。

練習開始から2日。これから更にミッションのメンバーで過ごす時間が増えるはず。

バダップなら気まずく、と言う事は無いだろうがもしも他のメンバーに漏れたらどうなるか。

学校内の生徒や教師は彼女の事を悪く思っていない。真面目で優秀な、そんな彼女だからサッカー経験者と分かったら。

気まずい空気が流れてしまう。

バダップは無言でラピスを見つめた。彼女の心音がうるさく聞こえる。冷や汗が伝うのが分かった。

バ「…今の質問は忘れてくれ。」

ラ「…ぇあ、はいっ!!」

思わず変な返事になってしまった。

彼が闘技場を出て行くのを見送り、ラピスは手に持ったモノクロのボールを落とす。

高くバウンドするボール。ふと胸の辺りで寂しさを感じて、ボールを抱きしめた。

ラ「…全然練習なんて…」

嘘だ、と呟く。

声が闘技場の固い空気に消えていった。付きたくなかったはずなのに、嘘をついてしまった事が寂しく、悔しかった。

ラ「早く、ミッションなんて終われば良いのにっ…!!!」

丸い丸いボールは、力強く抱きしめたら落ちてしまう。



ドアから差し込む光に気付いたのは、寮に戻ろうと立ち上がった時だった。

ハッとして光を見ていると、少しずつ光は広がって行く。

ドアを開けて気まずそうに闘技場に入って来る少年を見て、彼女は大きく目を見開いた。——聞かれた?


ラ「ミストレ、さん…」


少年、ミストレはごめん、と呟いた。





風丸がサッカー部へ助っ人として入る事を決意した。更にやる気を失っていた染岡達も呼び戻してくれて練習が始まった。

魁渡は練習に混ざりたい気持ちを抑えることが物凄く大変で、カノンに未来に戻されちゃうよ?!という声で何とか抑えている。

今混ざってはいけない。歴史が変わってしまうからだ。

魁「…やりてー…」

カ「他のこと考えて他のこと!;」

カノンに促されて考えてみる。今目の前では大きな装甲車が着て帝国が来ているが、ふと脳裏をかすめたのが瑠璃花だった。

不思議な気持ち…帝国のキャプテン、鬼道を見た瞬間に彼女を思い出した。

ゴーグルマントで瑠璃花に繋がる事が全く理解できなかったが、何か縁でもあるのだろうか。

魁「瑠璃姉大丈夫かな…」

カ「瑠璃花さんなら大丈夫だって!」

魁「…この装甲車で学校を壊すのかぁ…宇宙人の如し(笑)」

カ(話題変わり過ぎ!!!!)




ラピスの目は見開かれていた。

理由は『突然謝られたから』、これだけだったが。

元々ミストレは簡単に謝る様な人には見えないし、彼女は謝っている所を3日の内一度でも見た事が無い。

そしてそれは正しく、ミストレは強烈なナルシストだった。

ラ「何で、急に…」

ミ「話を盗み聞きして、いや…何となく雰囲気的に。」

ラ「…雰囲気?」

うん、とミストレが頷く。ラピスは呆気なさに衝撃を受けたが、そっか、とぎこちなく笑った。

ミ「ミッションなんて、早く終われば良いと思う?」

寮へ向かう途中、ミストレが尋ねた。

答えられない。

ミ「もしかして、嫌だった?」

嫌、だったのだろうか…ラピスは自分に尋ねる。

分からない。


戸惑いはした。余りに突然の事だったし格闘も出来ない自分が、と疑問もあった。

でも隣に居るミストレや、一緒に特訓をするエスカバ、バダップ、今日仲間になった新しいメンバー……彼等は?

嫌だった?、この質問にYESと答えたら、まるで彼等も否定している様で…。


迷っている自分に気付いて、また、笑う。ふ、と笑う。今度は鼻の奥がつんとしていた。

嫌なんかじゃないんだね、とミストレに言われてしまって少し間の抜けた様な顔でラピスは隣の彼を見る。

ラ「…嫌じゃない。でも、ちょっと重荷で…」


そう言う事で良い。

ラピス・フォルールには抱えきれない、そんなミッションで。




翌日の特訓は、まずチームワークの為にパス練などから始めた。

休憩時間になると新しいメンバーは息を切らしていたが、これから体力もつくだろう。

そんな事より、学園の噂などが休憩時間の間は話されていた。耳を傾けてみると、バダップが全て1位の前提で話されていたのだ。

話教えて、と割り込んでいくとすんなり仲間に入れてもらえた。

バダップが全てにおいて上級生を引き離す程、頭が良くて完ぺきであること、ミストレの親衛隊は色々すごい、エスカバは同性の子分を引き連れている、ミストレはバダップに勝負を挑み鼻を折られたetc...

ラ「…は、鼻を折られた?!」

サンダユウという少年がその時のことを詳しく話して聞かせる。


ミストレは何でも1位になりたかった。ただこの学園では、何でもバダップが1位でミストレが2位だった。

それでも上級生に入るすきを与えないから彼の頭の良さ、身体的な面はとても優れていはいた。

ただバダップに勝てないのが悔しかった。

だから1対1の勝負を申し込んだのだ、場所は闘技場。観戦する生徒の数、教師の数は凄く、迎えたミストレの笑顔も凄い。

天使の笑顔と称されるその笑顔は、バダップ以外の全員に効果があるらしい。ノックアウトされると言う意味で。

こうして始まった勝負は肉弾戦だった。両者とも動きが凄かったがバダップの凄いはまた違った。

一切無駄の無い動き、スピード、そして相手の戦略を無効にしていく「戦略」。

一発のかかと落としがミストレに当たり、そこから先は完全にバダップのペースだった。

僅か一発で相手の戦意を砕いたのだ。

ミストレは自分と彼との強烈な違いを、実感したと言う……。


肉弾戦か、とラピスは呟く。

ラ(この人達次元が違い過ぎる……!!!!)


カルチャーショック、だった。