二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 中編その1.特訓 ( No.80 )
- 日時: 2011/10/09 09:57
- 名前: 伊莉寿 (ID: r4kEfg7B)
*最強姉弟と光*
ふう、と溜め息をつく。そして後悔した。
ラ「幸せを1つ逃がしてしまった…」
ミ「逃げる幸せは有る様に見えないけど?」
ラ「!!!」
くすくす笑いながらミストレが放った言葉。ありますっ!と反論したものの、直ぐに幸せが思いつかないラピスだった。
パスも様になって来た事で、次にバウゼンは必殺技の開発の徹底強化を厳命した。つまり必殺技をすぐに身につけろ、と言う事である。
それを受けて、バダップはサッカーにおける「ポジション」を決める事にした。ポジションに応じた必殺技を開発する為だった。
例えばGKの選手がシュート技を覚えても、大して使わないだろう。それを身につける時間は無駄になる、と言う事だ。
予定では1試合しか必要としない必殺技で、期間もあまり無い。強力な必殺技を多数編みだす必要がある、無駄な事はしていられない。
バ「それぞれの力を考慮した上でポジションを決めた。異議は認めない。」
GK:ザゴメル・ザンデ
DF:ゲボ・トランガス/ブボ・トランガス/ダイッコ・ブーカ/ジニス・ジンキンス
MF:サンダユウ・ミシマ/ドラッヘ・ギュンター/イッカ・スタックス/ラピス・フォルール
FW:エスカ・バメル/ミストレーネ・カルス/バダップ・スリード(キャプテン)
ラ(MF…)
彼女の中では2番目に嫌なポジションだった。しかし異議するつもりはなく、それを受け入れる。
とりあえず同じポジションの人だけでも名前を覚えようと何度も頭の中で繰り返す内に、カタカナばかりで気分が悪くなってしまった。
バ「これから特訓だ、GKから順番に闘技場に入れ。それ以外の者は廊下でトレーニング。」
特訓、それは……
殲滅戦だった。
*
1対100。
100人の生徒の一団で襲いかかり、選手である1人を倒すのだ。選手は足のみ(キーパーは手の使用が認められる)を使い100人を倒す。
武器は使えず、また殺してもいけない。それぞれに持てる技術で1対100。格闘技VSサッカーだった。
どちらかが倒れるまでの殲滅戦。
それは、少年達を戦闘マシンに変える訓練でもあった。
「バダップ。準備は良いか。」
バウゼンの声が闘技場に響く。闘技場最上階の窓から、訓練に挑むバダップを見下ろしていた。
いつでも、と冷静で冷たい声が返って来た。
バウゼン「今までの戦闘員は、100人を叩き伏せるのに30分以上かかってしまっている。倒す事無くやり遂げはしたが、我々としては満足できる結果では無い。」
バ「では、自分は5分以内に。」
大きく出たな、と僅かに驚き交じりの声。だが、バダップなら出来そうな気がしていた。
リラックスした姿勢の彼を見て、バウゼンはスイッチを押した。扉が開き、100人の生徒がなだれ込んでくる。
灰色の仮面を付けた生徒達は怒号を発しながら襲いかかる。目を閉じているバダップは自分を高めながら、右脚に力を込めた。
撃つべき場所は一点。
轟然と振り上げられた右脚から、生徒たちの殺気を取り込みながら強大な力を生み出した。
必殺シュートが生み出された瞬間。
100人の生徒をドミノ倒しのように、一瞬で倒してしまった。5分にも満たない。
バウゼンは、感嘆の声を上げた。
バウゼン「この一撃、まさに必殺技…誇り高き王牙学園の紋章を額に刻む栄誉を与えようではないか。」
闘技場の天井から、光が彼の額に集中した。鬼を象った紋章が額に刻まれて行く。
光が収束し目を開けた。額が温かく感じる。
バ「ありがとうございます、教官。」
*
最後はラピスだった。
やっぱりやらないとダメか、と覚悟を決めて闘技場に入る。GK,DF,MF,FWの順でやっているはずなのに、何故か最後なのが引っ掛かったが。
警戒しながら扉を開けると、バウゼンがいた。敬礼の姿勢を取り、名前を名乗る。
バウゼン(以下:バ)「唯一の女子だな。」
ラ「!…はい。」
そう来るとは思っていなかったが、大丈夫そうだ。そこに立ちなさい、と指さされた場所に移動する。
一通り特訓の説明を受けると、壮絶さに絶句した。通りで時間がかかっているはずだ。
ミストレでさえも特訓の後は息を切らしてキレかかっていた。……理由が分かった。
バ「君は倒す事が出来るかな。」
ラ「!」
挑発されるように言われ、しかしそれは女子だからられているのだと気付く。
不安になった。
バ「準備は良いか。」
ラ「はいっ!!」
バウゼンがボタンを押す。100人の生徒が、なだれ込んで来た。
*
ラ(重要なのはタイミング、それさえ分かればきっと出来る———。)
目を閉じて胸に手を当て落ち着かせる。高ぶる鼓動を抑え込むように。
深呼吸をした。気合の怒号が聞こえ、押しかけて来る気配がする。
頭の中でリズムを取り、目を開いた。
右脚を振り上げ、その衝撃で起こった風が生徒達を包み込む。風に巻き込まていく様子は、竜巻を想わせた。
一撃だった。心臓が飛び出そうなほど鼓動が大きくなっている。
終わった、と安堵してその場にしゃがみこんだ。大きく深呼吸する。
バウゼンは呆気に取られていた。必殺技の類か、と納得させようにも理解が難しい。
バダップが彼女を推薦した理由が、分かった気がした。
*つづく*