二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Episode/003. ( No.4 )
- 日時: 2011/11/09 10:46
- 名前: 兎子. ◆.UAIP8bSDA (ID: YJqsGTFd)
千年祭が始まる、と。
天使の血を受け継ぐ少年と、その対になる悪魔の血を受け継ぐ少年が同時に呟いた。天使の血を継ぐ少年は深刻な表情を浮かべ、悪魔の血を継ぐ少年はケラケラと嬉しげににい、と口角を釣り上げながら。
壁画に掛かれた其々の先祖の絵をなぞり、そのどちらにも属さない少女がふんわりと微笑を浮かべる。
やや切れ長の瞳に、背中までのロング。そしてその色は全てを飲み込むような深い深い黒色。少女——ナーシェ・スレイヴは小さく呟いた。"凪"という少女の躰を借りて。
「嗚呼、面白いことになるわね」
大人びた顔立ちに似合わぬ無邪気な微笑。其れが少女の威圧感を、恐怖を引き立てる。
白い指がつう、と壁画の絵をなぞる。
ナーシェの白い手首には、無数の赤い線が入っていた。紛れもなく、自分自身で付けた傷。戒めの証。ちゅ、と軽く傷跡にキスを落とし、ナーシェは壁画に寄り掛かった。遠い遠い先祖のことを画いた壁画は、古ぼけてぼんやりとした跡しか残っては居ない。大分埃っぽいし、そろそろ掃除をしなければ、などと関係のないことを考えながら視線を空へ彷徨わせる。
ナーシェが瞳を閉じ、数分が経過した頃。黒かった髪は段々とミルクブラウンの色へ戻り、ふんわりとしたものに変わる。ナーシェから凪へと戻る瞬間は、其れだった。
誰も居ないがらんとした空間にまだ15にも満たぬ少女が一人眠っているのは異様な光景だったが、その空間の場所が場所なだけに警察やら、人の目には付かず、凪は相変わらずスウスウと穏やかな寝息を立てている。
凪とナーシェの関係は、身近な人物でも知らない。例えるならばリトルギガントの監督を務める円堂大介——基アラヤダイスケすら、その関係を知る者は居ないのだ。最も、凪はナーシェのことを話したことも無いのだが。
「……まも、る、」
凪が信じていたのは、双子の弟だけだったから。
心の支えになってくれたのは姿も知らぬ弟だけだった。引き取ってくれた大介も、仲の良いロココも、母親も父親も、弟には及ばなかった。弟に何時か会える、笑ってくれるということだけを信じて凪はここまで来たのだから。何時か頂点で戦う。其れが凪と大介の目指した夢。
穏やかな寝息を立てる凪のことを全て知る人物は今、誰一人としていなかった。
( 彼女は私とは違って、 )