二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 多作品短編集-影踏み-【リク&コメ募集中】 ( No.12 )
日時: 2013/05/05 21:16
名前: 帆波 (ID: voQe75S9)


「…嗚呼、負けて、しまったのですね」
「悪い、シノブ。……じゃあ、また今度」


無様に負けた私の姿を見、少し苦しそうな表情をした兄は、それでも踵を返してボスのいる場所へと足を進ませます。待って、行っては駄目。言いたいけれど、敗者の私にそのようなことを言う権利は、微塵もないのです。
知らぬ間にまた会おう、と言った兄を、私は憎く思います。なんて甘ったれた兄さん、…だからこそ、その甘さに縋ってしまいたくなる。嗚呼、その心に妹への情が少しでも残っているというのなら、どうか。どうかもうそれ以上優しくしないでください。


「どうか……。__私の兄さんを、救ってください。そして、私に罰を、」


この醜い敗者には、罰がよく似合う。





__目を開ければ、壊したくなるほどに真っ青な空。どうやら寝てしまっていたようです。ゆっくりと体を起こせば、どこかの公園。


「…起きた?」
「!?」


本当に近く、耳元で言ってしまったはずの兄の声。驚いて横を見れば相変わらず無表情の兄の姿。……、この体制はどうみても"膝枕"というものの体制。
兄といえど膝枕なんてされたこと、記憶の中には存在しないので、羞恥心で顔が赤く染まります。その感情を精一杯隠して、取り敢えず体制を直して兄の隣に座り直しました。
心なしか兄の表情が残念そうなものに変わったなんて、きっと幻なのです。ああ、私は疲れているのでしょうか。


「…兄さん、何故此処に。ボスは、」
「倒した。その後に、シノブを連れてきた」
「何が目的で。……情報なら、はきませんよ。意地でも、それでこそ死んででも」


私がそう言うと、兄は首を横に振って「違う」ということを表す。じゃあなんで、そう言おうと口を開けかけた瞬間、兄が声を発しました。


「シノブは、大切な妹だから。放ってはおけなかった。…ロケット団だからとか、関係ない。俺は、ただ純粋にシノブが大切。…わかる?」
「は、はい。…でも、今現在進行形でロケット団の私なんかを、これからどうしてくれるおつもりですか」
「一緒に旅する?」
「結構です。…兄さん、私は、ロケット団なんですよ。だから、同僚達を置いて、一人だけ逃げたり、幸せになったりしてはいけないんです。今までしてきたこと、それ相応の罪を背負って生きなければいけないのですよ。…大丈夫、兄さんは正しいことをしたのです。兄さんが、正しい。だから、私は間違っている。……これから、ジュンサーさんの所へ行ってきます。また、同僚と一緒に」
「…ふざけるな」
「…え?」


兄の声は、確かに怒りを含んでいました。表情がいつになく冷たくて、何の感情も感じられません。私は、ただただ驚き、それだけです。


「俺を、他のその他大勢の為に妹を売れる兄だと思うな。…俺は、シノブが思っているほど、正義でも、聖者でもない。他はどうでもいい、シノブだけは、絶対に俺が、」
「それ以上言っては駄目です、兄さん」


薄く笑って、必死な兄の唇をそっと人差し指で塞ぎます。嗚呼、愚かな兄さん。貴方は、罪滅ぼしをする私を静かに見守ってくださるだけでよかったのに。生憎と、私はそれほど謙虚な人間ではないのです。だから、


「甘えてしまいますよ、兄さん」
「…それを、俺が望んでいるとしたら?」
「ほぅ、兄さんも、とんだ食わせ者というわけですか。私は…、欲張りですよ。誰よりも、依存を求めるでしょう。それでも、良いというのなら」
「ああ、上等だ」


なんて綺麗に笑うのだろう、と思いました。今にも消えてしまいそうな、その微笑みはこの上ない、私への赦しでした。

~END~


ピクレ妹主シリーズ第二話です。
意外と計算高い双子だといいと思います。次からほのぼのります。多分。