二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【短編・シリーズ物など】刹那的蜃気楼【取り扱い】 ( No.6 )
日時: 2012/05/27 22:16
名前: 帆波 (ID: cA.2PgLu)


突然ですが、私には兄がいます。
兄といっても双子の兄で、年は一緒なのです。
私と兄の仲はとても良い、というわけではありませんでしたが、ただ仲の良い双子よりは、断然接しやすい関係でありました。
双子だからか、兄は私の感情をいち早く理解できます。私も、表情の乏しい兄の感情を理解できました。以心伝心、とでも言うのでしょうか。言わずとも分かり合える関係、なんて心地の良い関係なのでしょう。

ですが、兄と私、決定的に違う処がありました。
"才能"
私は自分の運動神経には自信があります。頭も、並以上には良いはずです。そんな私に欠けている才能、それはポケモンバトルというものの才能です。なにも、全然ないわけではないのです。言うなれば普通、練習さえすれば伸びる才能でした。

…けれど、兄は天性の才能なのか、すぐにポケモンと仲良くなり、すぐに野生のポケモンを倒し、すぐにトレーナーも倒せるようになりました。その兄と私は、ことあるごとに比べられました。仕方ないのです、ここはポケモンという生物が生きる世界なのですから。
でも、幼かった私には少々重たすぎたようです。両親も、嫌いじゃない、寧ろ好きな兄でさえも遠ざけるようになりました。それから数年後、一人立ち、即ち旅の出来る年になりました。私はすぐに家を飛び出しました。一刻も早く、あの居心地の悪い家から出たかったから。

家を飛び出した私は、ただ一つのモンスターボールを持って、旅をしていました。ある日、私はとある人にとある組織に入らないか、と勧誘されました。私は、特にやる事が見つからなかったので、それに了承しました。その組織とやらに入ってみれば、なんという事でしょう。組織、というのは世間を騒がれているロケット団だったのです。気づいた時には、もう既に後戻りできなくなっていました。

悪事を働く組織といえど、楽しみくらいはあります。私の楽しみは、同僚や上司の幹部との雑談と、ポケモン達との戯れでした。細やかな楽しみでしたが、それがあったからこそ、段々こんな生活も悪くないと思えてきたのです。

___なのに、なのにその細やかな楽しみでさえも、なくなってしまうのですね。


「__兄さん、お久しぶりです。私のこと、覚えていらっしゃいますか?」
「……しの、ぶ?」
「そう、貴方の妹のシノブです。まあ、今は貴方の敵でもあるわけですが、」


目の前に佇んでいる、私の兄__レッドは表情の乏しいはずの顔を驚きと疑問で溢れさせていました。それもそうですか。妹が、家を出る前まで使っていなかった敬語を使い、ロケット団の制服を身に纏い、貴方の目の前に敵として立っているのですから。


「なんで、シノブがロケット団に、」
「さあ、何ででしょう。少なくとも、あの家にいたくなかったので。…此方のほうが、余程心地いい」
「…そう。なら、シノブは敵、ロケット団。」


だから、倒す。
そう少し声変わりのした、テノールの声で言いました。ええ、そうです。私は敵。……ですが、何でなのでしょう。わかってる、わかっているはずなのに、胸が痛い、苦しい。
兄がボールを構えたのを見て、私もボールを手に持ちます。心なしか、手に力が入っているように思えます。まもなくして、お互いのポケモンを出し、合図もなしにバトルが始まりました。


「手加減はしない」
「私もです。…さ、キュウコン。いきますよ」


私の一番の相棒に声をかけ、技のぶつかり合いの始まり。

__嗚呼、なんて悲しい悲劇。