二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:  冬結晶. 〔 inzm・東方小説集 〕 ( No.109 )
日時: 2012/04/03 21:31
名前: 紅闇 ◆88grV3aVhM (ID: dNKdEnEb)
参照: ネタあり突っ込みは無しの方向超駄文と生存確認なり。









 ガヤガヤと周りの喧騒を尻目に、ここ一帯は沈黙が続いていた。

 背中に刃物を付き付けられている茜、見ず知らずの女、師匠の小さな異変に気付いたカーナ。
この三人は、身動きを取らぬまま無言で立っていた。






「——……あーあ! 穏便に済ますよう努力したんですが……、この場所で二対一なんて勝てる訳無いでしょう」

 女は茜に向けていた刀を下ろすと、参った、とでも言う様に両手を肩の高さまで持ち上げた。
背後での殺気が途絶えたと分かり茜はフウッと息を吐いた。いつの間にか溜めていたらしい。

「ハァ、もういいぞカーナ。下ろせ」

「……大丈夫なんですか?」

 口では反論しながらも、カーナは納得いかぬ顔で渋々短剣をしまう。結局師匠には逆らえないのだ。
 茜がやっと後ろを振り向ける状態になった時は、既に女は列から外れ、颯爽とその場から離れていた。

「…………カーナ、お前並んでおけよ」

「え、えぇっ!?」

 口早にそう伝えると、足元に落ちた短槍を拾い、女が去って行った方向へ茜も走り出していた。




 

 ——女が離れる直前に呟いた「貴女は本当に何も知らないんですね」という言葉が気になっていたから。














        *











「此処に居たか」

「もう見つかりましたか。結構速く歩いてたんですけどね」

 茜が足を止めた場所。そこは人気の無い寂れた所。
 もはや人が通った跡が無いその場所に、先程の女は居た。
切り立った崖の外側に足を出し、地に座っていた女は、足音を聞いてゆっくり振り返った。

「もはやお前は『崖大好物人間』だな」

「崖は食べられませんよ。いや、別に私が崖好きと言われれば別にそうでもないんですが」

 茜は表情を柔らかくして女に近づいた。


 小道から出た途端、風が髪を揺らし、茜の目線を横にずらす。

「へぇ……人工の湖か何かか」

「人の手で造られた自然は汚いでしょう?」
 
「ああ、凄まじく汚いな」

 遠く先に見えるのは広大な水の溜まり場だった。
 此処は空中に浮かんでいる。水が溜まる場所なんてそうある訳でもない。ましてや、海など論外だ。
かなり前に、この空中都市で造られたそうだ。
 自然には許されざる澄み切った無色の水。勿論、生き物が住める筈が無く。
生き物が寄り付かない美しい湖。彼女らはそこまで考えてこの湖を『汚い』と言った……のだろうか?










「じゃあ……——久しぶりだな、十夜」

「貴方に名前呼びなんてされたた記憶がありませんが」

「忘れたか、それとも照れたか」

「ああ思い出しました、常時そうでしたね」

「照れてたら面白いのにな、ギャップが」

「黙って下さい。こんな無駄話をする余裕なんてゼロに近いでしょうに」

 どちらも無表情。これに装飾が付いたら楽しいコメディの出来上がりなのだが、今はそんな状況でもなく。
少なくとも、彼女達の性格に陽気で馬鹿げた話はある意味似合いそうも無い気がする。

「そうだな、お前を怒らせたら後が手間取るしな」

「本気の私を止められるとでも?」

「まあ、時間は掛かりそうだが」

「大した自信で。とりあえず私は貴方に負ける気など微塵もありませんが」

「試してもいない事に賭けない方が良いぞ。後で痛い目を見る」

「試してもいない事に自信を持って、痛い目をみるのはどちらでしょう」

「このまま言い合いしてたら行が無くなるな。ここらで終わりにしようか」

「軽く危ない発言の気がします。確かにやろうと思えばかなり続きますが」


 軽く、と言った女、十夜——正式に言えば白銀十夜は、茜の無限に続きそうな挑発も軽くかわす性格の持ち主であった。























「んじゃ、話を聞かせて貰おうか。今日、此処で何が起きる?」