二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 魔道の世界--旅人達は--  *稲妻小説* ( No.11 )
日時: 2011/11/18 20:43
名前: 紅闇 ◆88grV3aVhM (ID: dNKdEnEb)
参照: ただいま戻っちゃったよ!


4話





「茜さん!」


 店主が手を握り締めて叫ぶ。茜は耳を手で塞ごうとするが、店主の真剣な顔を見て、一瞬カーナを見る。そして向き直った。


「何だ、耳元で叫ぶな」

「どういう事だい? よりによって弟子に行かせるなんて……カーナちゃんに何かあったら」

「カーナにとって奴はちょっとした修行相手だよ。良いじゃないか、カーナが良いって言ったろ」


 信じられない、という顔で茜を凝視する店主。茜は勿論どこ吹く風。


「……今までもこういうことが?」


 ニヤッと笑う茜。それには一切の口答えを許さない何かが現れ出ていて、店主は口を塞ぐ。


「さあ、どうだろう」




     ☆



 お師匠様も人使いが荒い。カーナは内心溜め息を付いていた。勿論、誰にも悟られぬよう顔には出さなかったが。
 カーナは睨みをきかせている男の前に立つと、人差し指と中指を出し、男に向けた。


「アァ? ガキ、何してる?」

「貴方はこの町の平和を乱した。だから私が懲らしめる」


 片目を閉じ、出している二本の指に力を込めた。カーナが集中する度に、風が少しずつ渦を巻いて出る。その様子に、男は半歩下がった。しかし、自分が名も知らぬ年下の子供に押されていると感じると、


「ガキ……惚けんのもいい加減にしろよぉぉぉおお!!」


 男は肩に担いでいた棍棒のようなものを振り回すと、そのまま全体重をかけてカーナに突進する。悪鬼のごとく赤くなった顔は理性を忘れ、ただ目の前の敵を倒すことしか頭に入っていないようだった。


「<緑現象・風流>」


 指を横になぎ払うようにして振る。すると、突然強い風がカーナと男の間に吹き荒れ、男は反射的に腕で顔を隠す。カーナは、棍棒を握る手に隙が出来たのを見逃さなかった。振った指を開き、風を後押しするように男の方に再び向けた。
男は、風の流れが急激に変わったことに、それが自分に向かっているとようやく気づく。そして、今自分は不利な立場にいると悟った。カーナは暴風に揺れる髪をかき上げ、片手を上に突き出す。空いている方で支えるように手首を掴み、男の位置を確認する。


「<緑現象・竜巻散花>!」


 男は目の前に立つ少女の手を見て、目を見張った。その手には、カーナの身長と同じくらい、大きいとは言い難いが渦を巻いているものが浮かんでいた。そしてカーナはそれを、


「えいっ」

「は、」


 投げた。
 吹き荒れていた風に押され、渦は男に向かって飛んでいく。棍棒に力を込めたが、既に手遅れ。渦は男に勢いよくぶつかりそのまま巻き込んだ。
 町には、男の悲痛な叫びが響いたという。





     ☆




「お前、運が悪かったな」


 風が止んだ。
 カーナが立っていた所から数十メートル離れた場所で、男が目を回して倒れていた。茜がどこから持ってきたのか縄を男の体にぐるぐる巻きつけ引きずって帰ってくる頃には、通りに人が戻っていた。町が賑わいを戻したのだ。
 持っていた縄を、呆気に取られて未だ動けない店主に掴ませると、茜はカーナを呼んだ。


「カーナ」

「はい」

「ちゃんと技、出来てるじゃないか。……良くやった」


 短い一言だったが、カーナは微笑み、元気に返事をした。だが、


「ただ、周りへの被害は考えような」


と言う言葉に、ひび割れた地面や壊れた家を見て、苦笑いに変えるのだった。
 その様子に茜はポンとカーナの頭を軽く叩くと槍を小さく振る。柄を下にして地面を軽く突くと、両手で槍を持った。


「<ティエラスティフ>逆らえ!」


 柄が突いている地面から、金色の薄い布のようなものが、地面や家など、壊れた場所に広がっていき、覆った部分から少しずつ傷が消えていく。茜が槍を定位置に戻す頃には、周りは何事もなかったように修復した。
 茜は頭を犬のように乱暴に振り、「久しぶりに使った」とだけ答え、後ろにいる店主の方に行った。修復された場所をじっと見ているカーナには目もくれず。


「……驚いたよ」


 降参、と店主が両手を上げた。茜は既に無表情だった。


「カーナちゃん、強くなったね。でも、茜さんは何も変わらない」

「色んな所に突っ込みたいが、一つだけ。さん付けをやめろ」


 クククッと笑う店主だが、茜の鋭い眼差しに気がつくと、慌てて口を押さえた。茜は気にも留めず、掴んでいる縄と、捕まって未だ呻いている男に目をやると、指を指し言った。


「こいつ、何とかしておけよ」

「はいはい、ちゃんと突き出しておいて上げますよ」





 茜はカーナを呼ぶ。陽が真上に昇った直後だった。