二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:  冬結晶. 〔 inzm・東方小説集 〕 ( No.113 )
日時: 2012/05/04 15:03
名前: 紅闇 ◆88grV3aVhM (ID: dNKdEnEb)
















「ひ……ひぃぃー……、ご、ごめんなさい! 許して下さいごめんなさいいいッ!!」




『おっと! 対戦者がまさかの逃走! 地上人咲乃、無傷で準決勝に突入だッ!』











「何なんだよ、此処は……」

 明らかに呆れた、という顔をする茜。既につまらないという事を隠そうともしなかった。
雲の上の人間。思った以上に戦いに関しての知識は1だ。武器もまともなものが無い、魔道の能力も最低。いや、闘争に使える魔道能力が最低なだけだろうが。
 実況者だろうか? その人間もどうだ。下手な実況の大声をマイクで響かせて今にも耳が壊れそうだ。物静かで謙虚なイメージがガタ崩れ。
茜の場合、ライディという賢者に会ってから、子供の夢というものがどんなに甘いかを思い知らされたのだが。

 とにかく、茜が適当に。威嚇のつもりで放つ最弱レベルの魔道を見て、対戦者は背中を向けて逃げ出す。
逃げた背中を追うのが好きではない彼女は深追いはしないが——それでもつまらないと思ってしまうのだった。

「このぐらいのレベルなら、カーナを出した方が安全だったかもなあ」

 柄にもなく、前の事を後悔し始めている茜。
確かに、“此処と向こう”のどちらが安全かと言ったら……今現在、無論此処の方が安全だろう。手に余るぐらいだ。


 

 だが、程なくして。

此処に自分が出ていて良かったと考えを訂正する事になる。












『さあ次は咲乃対、美谷戸の闘争! 地上人達の戦いはどちらが制するのかッ!』












「……地上人?」






























「今度の相手はコイツか? まあ、俺に掛かればほんの一捻りだろうがな!」
























   *  *  *

















「どうしてこうなった」
「諦めて下さい」

 浮遊島の端には、大きな城がある。賢者やその他、国の代表的な人物は皆、此処が居城なのだ。
一般は立ち入り禁止。民達からの憧れというこの城内は、闘争大会という一大イベントにおいて、警備を除いてほぼもぬけの殻であった。

 その中にこそこそと入り込んだ二人、カーナと十夜。
潜入は、元々十夜が一人で計画していた物だが、危険が伴うという事で、茜に助け——つまりカーナという助っ人を借りたのだ。
勿論カーナは師匠にチケットを奪われ、挙句の果てにはいつの間にか犯罪を行っている訳で。呆然とするしかないだろう。




「つまり、白銀さんは城内に兵器が隠されていると?」
「そう。この先、地上が壊滅されては嫌でしょう? 私はそれを探りに来ただけです」
「何の理由で探りに? そもそも、その情報はどこから仕入れたのですか?」
「プライバシー保護により、それ以上は言えません。ただ、来ただけです」
「……何かあったら嫌ですよ?」
「貴方の師匠が了承したんですから仕方ないでしょう。精々、自分の身ぐらい守ったらいかがですか」
「…………」



 生まれて何回目だろうか。

 ——師匠……貴方を恨んでやる……ッ!















「まあ、それは置いておきますよ」

 ピタリ、と。

いきなり立ち止まり、遠くの方を眺める十夜。
肩を並べて歩いていたカーナは、半歩進んでから慌てて止まり、顔を後ろに向けた。

「カーナさん。そこから二歩右に行って下さい」
「……え?」

 頭に疑問符が浮かぶ中、仕方なく言う通りに右に行く。

「あ、半歩戻って下さい」
「……戻りましたよ」
「では、絶対に動かないで下さいね。何があっても」

 十夜の口調に、重い響きが追加される。
それに気付けたカーナの目が大きく開かれ。

 左右を見比べる様に見つめ続ける十夜がふいに、一歩先へ進んだ。


「……!」


 空を切る落下音。

 その音が鳴り止み、周りを見渡すと。






 床と直角に交わっている大量の小刀が辺り一面に突き刺さっていて——