二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 魔道の世界--旅人達は--  *稲妻小説* ( No.13 )
日時: 2011/11/25 23:15
名前: 紅闇 ◆88grV3aVhM (ID: dNKdEnEb)
参照: ただいま戻っちゃったよ!




6話*記憶は霧の奥底に





「どーして言ってくれなかったんですか!」

「……聞かれなかった」

「もう! お師匠様の友達なら、私ちゃんとしてたのに! 何回も此処に来ておいて、今更可笑しいでしょーがっ!」


 カーナちゃんが、師匠である筈の咲乃を叱っている。最初の俺から見れば、立場は咲乃の方が上に見えた。勿論、当たり前なのだが。しかし、内面的なことでは、カーナちゃんの方が上なのかもしれない。
咲乃は今、目線をあさっての方向に向け、頭をカリカリと掻いている。彼女は叱られ上手でも無いし、適当に話を切り上げ、話題を進めるだろう。
 ……と、俺がそんな考えを巡らせている内に、説教(?)が終わっていた。俺の思い通りに咲乃は話を終わらせたらしい。カーナちゃんの顔にはまだ不満が残っていたが、もうこれ以上言っても、咲乃はまともに話を聞かないだろう。
カーナちゃんは俺の方に歩いてきて、咲乃が言いかけた言葉を俺に聞いてきた。その声には、まださっきの怒り口調が混じっていたが。


「で、店主さんの本当の名前は何なんですか!」

「俺はただの店主だよ」

「…………」


 さすが咲乃の弟子、気迫が凄い。俺の営業スマイルも聞かず、カーナちゃんは俺に冷たいような、それでいて哀れみの視線の送ってきた。
このまま俺が変な人だと誤解されても困るので、仕方なく自分の名前を言った。


「俺はヒロトだよ」

「ヒロト、ですか?」

「そう。『基山ヒロト』」


 自分の名前を言った瞬間、妙に清々しい気分になった。自分の名前を久しぶりに聞く。名を言いたく無かったし、言う必要も無かったからだ。町の人たちは、俺を『宿屋の店主』として受け入れてくれた。
 人から特別視されるのが嫌だった。平凡で、皆と並んでいれば良かった。しかし、咲乃とチームを組み、何度も何度も戦い、勝ち続けたから、平凡ではいられなくなった。
俺にはそれが耐えられなかった。咲乃はどうだったのだろう。彼女は俺より強いから、苦にもならないのではないか。いや違う。咲乃は俺以上に目立つのを嫌がっていた。平凡が良かった。そうだ、考えが同じだったからこそ、チームを組んだんだ。


「店主……いえ、基山さんは、お師匠様とどんな関係で?」

「店主で良いよ。もう名前は忘れたんだ」

「そうですか。では基山さん、うちの師匠とどんな関わりがあったのですか?」

「……本当に咲乃と似ているね。
 昔、いや、二、三年前だ。俺達はチームを組んでね。魔物……うーん、人を脅かす悪い奴らを倒すチームかな。ただの変人の集まりだったんだよ」


 人は簡単に記憶が薄れていく。だがそれは、無くしたのではない、どこかに仕舞われているだけだ。何かのきっかけがあれば、一気に飛び出してくるのだ。俺の場合は、『昔の友人』と『思い出話』なのか。


「だが、あることを境にして俺達は解散する。今思えば、本当にくだらないことだったんだけどね。ね、咲乃」

「あ? おやつは美味いかって?」

「惚けるな」

「……ふん。私達は馬鹿なだけだったんだよ」


 俺は変わった。もう目立とうが目立たまいがどうでも良くなった。だが咲乃は変わらない。何故だろう。やはり、“永遠に遊びの心を忘れない”からか。
今になっても、咲乃は馬鹿げたことを言う。年齢は聞いたことは無いが(聞くと冥界に送られそうだからだ)、俺と同じか、少し上か。だが、“あの話を信じるとすれば”もしくは……


「話は終わったか? 始めるぞ」

「え、何をですか」


 咲乃はずっと持っていた剣の鞘を抜いた。今でも錆びることの無い、美しきその刃。
今になって後悔する。何故俺はこれに首を突っ込んでしまったのか。平凡で何も無い世界が好きだったのではないか。刀身を見てしまえば厄介事にに巻き込まれるのは想定内だ。なのに。
ああ、きっと俺は仲間の危険を無視することが出来ない、お人好しなんだ。
 俺は、棒立ちになっていたカーナちゃんを、咲乃から遠ざけた。今からこの空き地は、膨大な『現象』の力が集まる。こんな町の片隅でやるのも、住民の危険を考えてのことだ。
いくら咲乃の弟子でも、魔道の全てを心得ていないカーナちゃんには危険だろう。俺自身、立っていられるかどうか不安なのだ。それ程、『現象』の力は膨大で、咲乃はそれを操る超人的な力を持つ。

 俺は確信する。この世界には、何か波乱が起きようとしていることを。


「同じような物を何本も持っていたのは、それの為だね。貴重品で、今まで何度となく盗もうとする輩がいた。一種の防犯対策」

「ああ。素人には見分けは付かん。分かるのは……私とお前と、私の友人達ぐらいだ」

「お師匠様、それって……」


 カーナちゃんは知っているだろうか。“悪魔を滅した聖なる剣”のことを。











「白く輝き、永遠に穢れることないその剣。咲乃、お前が持っているのは、神の“分身”だ!」