二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 魔道の世界--旅人達は--  *稲妻小説* ( No.16 )
日時: 2011/11/28 22:34
名前: 紅闇 ◆88grV3aVhM (ID: dNKdEnEb)
参照: ただいま戻っちゃったよ!




7話





「<我らを見守る創造の神よ。今この地は穢れたものの手によって災厄が降りかかろうとしている>」


 茜は謳うように何かを唱え始めた。剣の柄を指と指で挟み、刃は地面に向いている。いつも以上に早口で、その一言一言に重みがあるような、威厳を感じさせる口調だった。
 カーナは茜が口を開いた途端、急に酷い目眩がした。茜を見つめていたら、目の前がグルグルと回り、もはや茜の姿さえ認識出来なくなって。
そんな状態だから、いつの間にか肩を掴まれ、無理やり立たされていることに気が付くのには時間が掛かった。後ろから、店主……基山がカーナを支えていたのだ。


「カーナちゃん、大丈夫か?」

「……何か、いきなり目眩がして」

「良い? 咲乃を見つめているんだ。自分を棒にして、何も感じないように」


 カーナは閉じかけていた瞼を無理やり開けた。一度は落ち着いた目眩が再び襲ってくる。同時に病み上がりのようなだるさを覚え、小さく呻いた。倒れないように。そこにある“何か”の力に押さえ込まれないように、歯を食いしばった。
 止まっていた茜の口が、再び動き出した。


「<その災厄とは何か? この剣を依り代に、我に授けろ。無限に与えられた神の知識を!>」


 そして、指を開いた。
 支える対象を失った剣は、垂直に落下し、地面に深々と突き刺さる。
 
 衝撃を受け、茜の足元が“動いた”。

 勿論、地面そのものが動いている訳ではない。剣を中心にして、地面が揺らいでいるのだ。まるで湖の中に剣を投げ入れて出来た水の波紋のように。波紋は何重も生み出され、広がっていく。
その波紋がカーナと基山の足元まで迫った途端、目眩とだるさが嘘のように消えた。今までのがただの気のせいかと思える程、音も無く、いきなり。だが、また別の意味で背筋が凍り、足がすくんだ。——地面が、ない?
 さっきまで立っていたはずの地面は消え、“下”があった。眼下には色鮮やかな緑、緑、緑。この下は地上で、上空に浮かぶ透明な板を歩かされているもんだ、と思った。夕暮れの光と周りに合った民家は消え、辺りが夜の星空のように真っ暗で、何かの光がチカチカ点滅していた。


「……この下は、“森”だ」


 未だに波紋は続いていた。一定の間隔で剣から生み出されている。
 何が起きているのか。カーナはそれを知る為に、食い入るように剣を見ていた。が、それは基山の肩を叩く音に邪魔される。半ば憎々しい目線で基山を見上げると、気づいていないのか、ある一点を指で指している。目線もカーナなど見ておらず、その先、茜の方で止まっていた。
 肩を掴まれたまま、カーナは茜の近くまで押された。茜は足元を見ていたが、剣ではなく下に広がる森を見ているようだ。基山が遠慮がちに咲乃、と呼ぶと、振り返り、下を指差した。


「……あれは何だ」

「うっそうと生い茂るたくさんの木々。森だ」

「あ、あそこ。何かありますね」


 カーナもまた、指を指す。場所は三人が立つ所から少し離れた場所。と、言っても同じような景色が広がる今、距離は測れないのだが。
 そこは、緑ばかりの森に囲まれていると、少し奇妙だった。桃色の木が一本だけ、ここから見てもかなり大木だと予想が出来る。木自体の高さも大きいのか、それは一際目立っていた。


「桜、か?」

「今時ですか。珍しいですね」

「あんな奥地に、しかもこの季節。咲乃、あれは五年桜じゃないか?」

「ああ。ならこの森は『五年桜の森』だな。しかし、咲いているとなると……もうそんな時期か」

「災厄地点はここか……行って見る価値はあると思うけど?」

「しかし。かなり曖昧だ。全然関係ない災厄……いや、何か被害が起きてるだけかもしれん。まあ、ある可能性は潰すべきだな」


 茜は突き刺さっている剣を力任せに引き抜いた。幻が解ける感じと似ている。カーナがそう思っていると、あっという間に森は消え、地面と、夕暮れの光が戻ってきた。
 誰彼とも無く溜め息が出た。茜は刃に付いた土を払い落とすと、基山が持ってきていた荷物にしまった。そして、



「カーナ。予定通りだ、町を出るぞ」







     ☆






「世話になった。こっちに戻ってきたらまた寄る」


 槍を持つと、さっきのことを話しもせずにいきなり別れを告げた。茜は何も変化は無いが、基山の瞳は少し霞んでいた。カーナと同じような目眩とだるさを、彼も感じていたのだろうか。


「世話って言っても俺は何もしてないし、たったの三日なんだけどね」


 基山は悲しそうに笑う。一瞬だけ、茜の瞳が暗くなる。しかしすぐに元の鋭さを取り戻すと、笑った。


「俺も出来る限りは手伝うから。森の奴ら、居るかどうか分からないだろう?」

「お前は店をやってのんびり過ごしてれば良いんだよ。……奴らは、居る。この年は必ず」

「居なかったら?」

「無理にでも連れ出させてやる」


 基山はフッと笑い、手を上げた。茜もそれに槍を小さく振って答えると、後は何も言わずに歩き始めた。
何も言わずに別れた茜を見て、カーナは一礼をして急いで追う。


「えと……失礼しました。お元気で、基山さん」


 基山は先ほどとは違う明るい笑みを浮かべて二人を見送った。




 町を歩く二人の姿が見えなくなると、店主は一言呟いて店へと戻っていった。



「——今度はいつ戻ってくるかな、咲乃」




     ☆





 太陽が沈み終わるこの町は、死んだ様に静かだった。朝が早ければ、夜も早い。それがこの町の特徴だった。
その内の一つの道を早足に歩く二つの影。

「お師匠様。質問がいっぱいあるんですが」

「一つだけだ」


 ——それ、“今は”一つだけって意味で良いんですよね?
 カーナは今一番聞きたいことを探り、口に出した。 


「……これから、どこに向かうんでしょうか」


 茜は悩みもせず、言った。もうこれは決まったことだ、いくらお前が反論してもこれは揺るがないという決意も現れ出ていた。


「森だ。“災厄”を確かめに行く」

「森、ですか。さっき見えたその、『五年桜の森』って場所ですよね?」

「ああ。私の友人も居るからな。変化が無かったどうか、聞いてみないといけない」

「変化……前に話してくれたことが、実際に起きようとしている」


 二人は街道へと続く門を抜けた。これで完全に旅人となったカーナと茜。
完全なる戦闘士と、魔道者見習い。この関係は、どう築き上げたものなのだろうか——……?