二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 魔道の世界--旅人達は--*稲妻* オリキャラ募集開始 ( No.37 )
日時: 2011/12/03 22:46
名前: 紅闇 ◆88grV3aVhM (ID: dNKdEnEb)




2話





 森の中は陽の光が遮断されていて、とても涼しかった。生い茂る沢山の葉を抜けてくる木漏れ日は、カーナが歩く道をうっすらと照らす。
道と言えど、舗装されている訳でもなく、そこだけ草が刈り取られ、土が見えている程度。それが奥まで、先が見えないほど続いている。


「……この場所、不思議な感じですね」

「神聖な場所だからな。むやみに荒らせば後が怖いんだと」


 木の殆どが大木だった。苔が生え、草は伸び放題。きっと道を作る以外、人の手は加えられていないだろう。
 カーナは辺りを見渡すと、隣を歩く茜の顔を見た。無表情だが、いつもと違うことは分かっている。


「お師匠様。質問しても良いですか? いっぱいあり過ぎて困ってるんですけど」

「…………」


 茜は何も答えない。ただ前に続く道の奥を探っているだけだ。
しかし、それが肯定の印だと分かると、カーナも前を見て、静かに言った。


「あの時、基山さんにちゃんと別れを言わなかったでしょう?」

「ああ。そうだな」

「どうしてですか? お師匠様のことだし、また暫く戻らないと思います。何故?」

「……あ、そう言えばお前にそのことは話してなかったか。忘れていた」

「はい? まあ、今までに気付かなかった私も変ですけど」


 茜の歩く速さが遅くなった。目的地が近づいてきたためか、着く前にそのことを終わらせたいのだろう。
それに合わせてカーナもゆっくり歩く。ちゃんと質問に答えてくれそうなので安心した。


「良いか? これはお前にも当てはまるからな。旅人というのは放浪人だ。もしかしたら自分の場所に居た戻ってこれないかもしれない」

「何か納得できませんが。まあ、続きどうぞ」

「『必ず帰ってくる』や『また会おう』などと行って別れたとする。すると、それは“約束”したことになる。約束したのなら、必ず帰ってこなくてはならない」

「それって何かの儀式的な意味で言うんじゃないんですか? 次に会えるのはいつか分からないから最後の声を、みたいな」

「最初の内だけだ。例えば死に直面することになったとする。本気を出せば相手を倒せるが、自分もどうなるか分からないような。……人間、死が近づくと頭の中に自分の思い出が浮かび上がるらしい」


 茜は口を閉じると、後ろを振り返った。既に汚れた看板があった森の入り口は見えない。
そこまで歩いていたのかと驚きもしたが、すぐにこの道は、歩いているだけでは気付かないほどの緩やかなカーブを描いていることが分かった。
 一瞬止まりかけたが、それに気付かず考え事をしながら歩いているカーナを見ると、また足を動かした。


「別れ際に“約束”したのを思い出した。死なない為に、本気を出せなくなると?」

「そういうことだ。本当に危ない場面なら、本気を出したほうが無事なことが多い。逆に危険になってしまう、ということがある」

「……お師匠様は、基山さんに別れを告げていないでしょう? それはこれから先、死が関わってくるって捉えて良いんでしょうか」

「さあな。考え方は人それぞれだ。私は今回、そこまで大きくなるとは思っていないが、……ただの保険だよ」

「保険で済めば良いんですけどね。じゃあ次……良いですか? 今回は、何が起ころうとしているんですか? まったく意図が掴めないです」


 立て続けに質問するカーナに、茜は困ったように手を上げた。確かに、事が起きるのが早すぎて、カーナは何も掴めていない。
だが、質問するということは、相手は全て知っていることを前提に考えなくてはならない。実際、茜も真相の全てを見切っている訳では無かった。質問されたら答えられる範囲で答える、という自分勝手なルールを立てている彼女に、これは痛手だった。
それに、カーナが言ったとおり『保険』で済む話ではないのなら……。事を深く考えなくてはならない。何が起きているか分からない状態を少し恐ろしく感じている、そんな自分が情けないと思う。


「悪いが、私にも分からないことはあるからな。……答えられん」

「……そうですか。ちょっと心配ですね、お師匠様が分かっていないなんて……」






「言えるとするならば、欲望に満ちたどっかの誰かが何か起こそうとしているって所だな。そして範囲はきっと大きい」








 茜は今度こそ立ち止まった。その場所は、今まで幅も狭かった道にしては珍しく、小さな公園ぐらいの広さがある広場のような所だった。
対し、カーナは反応が遅くなってしまい、茜より数歩前へ出た地点で止まった。困っているような表情で茜を振り返る。当たり前の行動だが、カーナに関しては少しズレていた。


「まだ気付かなかったのか」

「私を反応が遅い馬鹿野郎にしないでください。むしろ、放っておくかと」


 そう言うと、両手の腕を少しだけ振った。茜が思っていた場所で、カーナも分かっていたらしい。
茜はカーナを見ると、準備万端だと言って、自分達が通ってきた方ではない、奥に続く細道を指を差した。


「その先はもうゴールだよ。番達が居る小屋はその道を少し行くとすぐに見えてくる」

「案外遠いようで近かったですね。……だからこそ、此処に怪しい雰囲気丸出しのひらけた場所があるんでしょうけど」


 カーナは目線を上へ上げた。その黒い瞳は鷹のように鋭く、師匠譲りのものだった。茜も上を見た。カーナと同じような目つきで。
 ある一つの木が、風も無しに揺れた。生い茂る葉の中から場違いな人の手が突き出し、すぐに消えた。
 ——トンッと静かな着地音が広がると、目の前に一人の女が現れた。人間には見慣れないほどの長い黒色の髪を揺らし、立ち上がった。


「賊にしては凄いね。あたしが隠れてるの、此処に入った時点で薄々気が付いてたでしょ」

「ああ、凄いだろう? 何せ、私達は賊では無いからな」

「当てつけも酷いです。ここで現れると言うことは貴方は番の方ですね。お勤めご苦労様です」

「そこまで知ってるの? 一体何を盗みに来たのかな」

「取り合えず五年桜を観光しに来ただけだ。悪いが、先を通してもらう」







「くだらない屁理屈を言うのも賊も珍しいな。この『五年桜の森』に何か御用?」