二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 魔道の世界--旅人達は--*稲妻*  ( No.44 )
日時: 2011/12/17 16:12
名前: 紅闇 ◆88grV3aVhM (ID: dNKdEnEb)




4話-1




 突然、遠くから別の声が聞こえてきた。倒れていた女は目を見開き、茜はピタリと動きを止めた。穂先は首筋をしっかりと狙っており、後少しでも遅ければ女の首を貫いていただろう。
カーナは短剣を握り締めるとそちらの方を振り返る。声の主は男で、全速力で三人に向かって走って来るのが見えた。男は、自分を睨んで見ているカーナに気付くと、慌てたように手を振って弁解した。


「怪しい奴じゃない! そこに誰が居る?」

「どなたか知りませんが、私達は何も悪く無いですから」


 カーナはそう言うと、男に道を譲った。そのまま奥に走り込むと、男は驚いたように目を白黒させ、呆れた顔をした。


「天月! と、……ん、——茜、か?」







「——お前ら、そんな所で何やってるんだよ」





    ☆




「ほら、カーナ」

「すみません、有難うございます。えと……円堂さんで良いんですよね?」

「ああ! 円堂守。よろしくなっ」


 丸太で出来た小屋にカーナは居た。先ほど出会った男は森の番の者で、そこまで案内されたのだ。彼は茜の友人らしく、明るい顔でニッと笑う。人柄が分かる、優しい笑顔だ。
 小屋と同じ木製のテーブルに置かれた飲み物は、甘い匂いと味がした。これも彼が淹れてくれたもので、円堂はそんなカーナを一目見ると、反対側の席に座った。


「お前、あんな茜の傍にずっと居るのか? 平気なのか、精神的に」

「もう慣れました。……いや、もうアウトでそれすらも分からなくなっているかも知れませんが」

「相変わらずだなー。まあ、茜が優しくなってて、っていうのも気持ち悪いと言えばそうなんだけどさ」

「ところで、あちらの方達は放っておいて大丈夫ですか?」


 カーナが言った“あちらの方達”は小屋の外に居た。扉は開け放しているので、森の中を走る風と、その話し声が嫌でも入ってくる。勿論、嫌などとは露ほども思ってはいないが。


「本当にすみません! まさか円堂の友人だとは夢にも思わず……御免なさい!」

「だから言ったって……、いや、こっちも悪かったな。すまない——中に入っても良いか?」

「ええ、はいどうぞ! お詫びしますね」


 茜は最後の部分を強調して言った。女は知ってか知らずか、急いで中へと誘った。カーナの隣に座った茜は、一瞬だけ呆れたようにし、円堂と顔を寄せた。


「おい、あいつは……?」

「この仕事がやりたいからって。人数は多い方が得だろ!」



「カーナちゃん、初めまして。さっきは失礼しました」

「い、いえ。こちらこそ……」

「あたしは天月美結。ここで森の番をしてる、よろしくね!」


 女、もとい天月は笑った。彼女はその表情で見た目が変わってしまう性質らしく、あんなに冷徹な人間だと思っていたが、今は温厚。カーナは少なからず驚いた。


「あの、番って言うのは具体的に何をするんですか?」

「森を荒らす人間を退治。土地の手入れ、五年に一度の桜の手入れ……結構少ないかな。五年に一度しかここに来ないし。あ、あたしの場合ね」

「その仕事を二人でやっている? 五年に一度とはいえ、結構大変じゃあ」

「やりがいはあるよ。後もう一人居てね、『風丸』って言うんだけ、」


 ——バアン!

 大きな音がして、皆は一斉に扉の方を向いた。閉まっていた扉は大きく開け放たれ、悲しげな音を出してユラユラと揺れていた。
 森を背にして仁王立ちしているその男は、珍しい水色の髪をしていた。男はしかめ面で呆然としている四人を見渡すと、その内の一人、円堂に気を止めてずかずかと歩み寄った。


「円堂! 入り口の看板の文字が消えかけてたぞ、俺が注意したのはかなり前だ」

「……え、そんなこと聞いたっけ? 来客来てるからまた今度ってことでさ!」

「来客? ——ああ、もう来てたのか。面と向かって話すのは久しぶりだな」

「ああ、久しぶり。お前も変わってないな。変わっていたら吐き気がするが」




「ん——? どうしてお前らそんなに感動薄いんだよ」