二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 魔道の世界--旅人達は--*稲妻*  ( No.60 )
日時: 2011/12/28 16:16
名前: 紅闇 ◆88grV3aVhM (ID: dNKdEnEb)





6話







 時間は茜達が動き出す前へと戻る。カーナと天月が、桜を見に小屋を出た少し後。
 隣で気楽そうに鼻歌を歌う天月を横目に、カーナは浮かない気分だった。茜が思った通り、師匠の行動に疑問を持ち、ずっと考えていた。


(言うなれば……“追い出された”ような)


 見事に大正解。茜が彼女の勘を恐れるのも解る。まあ、あれ程の演技ならば、誰もが気付いて当たり前なのだが。


「……あの、天月さん」

「美結で良いよー。何かご用?」

「私だけですかね、何故か除け者扱いをされた様な気がするのは」

「さあ。最初から円堂達は変な人だなーと思ってたけど、あの茜って人も同類だね。考えが掴めないというか」

「人間は、同類が集まりやすいのですよ。その方が安堵感ありますしね」

「……カーナちゃんも難しい考え方するよね。あたしの方が年上なのになぁ……ちょっと悔しいかも」


 何故天月がカーナの歳を知っていたかは割愛する。


「……そういえば」


 茜は二人の番の友人だと言った。だがそこに天月の名は含まれていなかった。ならば茜が前に訪れた時——何年前かは知らないが——それより後に天月はこの仕事に就いたと考えられる。
どうしてだろう。五年に一度とはいえ、こんなに不便なことをする必要があるのだろうか。こんな平和ボケした仕事などに……


「美結さんは、どうして此処の番をする事になったのでしょう?」

「んー……森に居ると落ち着くから、かな。ほら、此処って馬鹿みたく平和でしょ? あたしも、無駄に“別人みたく”なりたくないから」

「別人……?」

「そう。あたしってね、俗に言う“二重人格”って奴らしいんだ。……別に、それ自体を嫌ってる訳じゃない。あたしはあたし、何になろうとも」

「<紅い天使>って言われててね。血に紅く染まる落ちぶれた天使、と。それを言われたく無いから、此処に来たんだよ」

「あ……、すみません、失礼なこと言って」

「気にしない気にしない! もう慣れちゃったから、昔みたいなことよりずっと良い。さ、もうすぐ着くよ!」

「……はい」




 このように、二人は道中何事も無く、ただ普通に五年桜へと向かっていたのだ。
 カーナは心の中で、失敗したと思った。無駄に人の詮索をするなとお師匠様に言われたじゃないか。
反省しても、後悔しても、この癖は直らない。私はただ、強くなれば良い。いずれ来る、あの人との再会までに。

 天月が昔の思い出に耽り、唇を噛んでいたことなど、誰も解らない——









   *






「……うわあ……!」

「五年桜の森名物、『五年桜』ー♪ ……ま、これ位しか見せるものは無いけど」


 目の前には、大木がそこにあった。桃色の花びらを風に吹かせ、ゆったりと落ちてくる。森の中でも此処は特別開けており、陽の光を見ることが出来た。
桜の木は、今までに見てきた木々とは段違いの大きさで、神々しいぐらいのものだ。カーナはそれを声も無く見つめる。


「カーナちゃんは、こういうのが好きなんだね」

「桜なんて滅多に見れませんから。というか、覚えている記憶の中では一度も無いです」

「えぇ!? 結構いっぱいあるけどなあ……珍しい人も居たんだね」

「あれ、でも桜って春に咲くのでは?」

「この世界に明確な季節の分け目は無いからねえ。読者の皆様に解り易く言うのなら、今は夏に近いのかもね」

「はい? 言ってる意味が解りません」

「あたしは大丈夫だと思うよ」


 爆弾発言など、カーナに解る筈も無いのだ。



 

 さて、此処で少し補足を入れさせてもらう。
 五年桜の森には人は滅多に立ち入らない。わざわざ結界など張らなくても良いのだ。必要ないのだから。
なので、森の番の者達は、人が立ち入ればすぐに解るのだ。元々この番も誰しもが出来ることではない。
この時点で天月は気付くべきだった。“自分の後ろに誰かが居る”ということを。いや、その気配自体は気付いていたのだ。では、何故行動に移さない?
 “カーナと言う存在”があり、気配がカーナの物であると勘違いしたのだ。また、後ろの人物が、“その気配を消せるほどの力の持ち主”であったことだけに過ぎないのだ。
 敵と言うのはまず、辺りを確認出来ないほどの暗闇になってから行動に移すのが殆どだろう。しかし、


 “明るいからといって、敵が出てこない”訳ではないのだ——













 ——ザクッ、










 “投げられたナイフ”が、突き刺さる。