二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 魔道の世界--旅人達は--*稲妻* ( No.63 )
- 日時: 2011/12/29 21:38
- 名前: 紅闇 ◆88grV3aVhM (ID: dNKdEnEb)
- 参照: 書き方を少し変更。読みづらかったら修正します、
7話
「俺らさ、カーナと天月を助ける為に来たんだっけ?」
「“安全かどうか確かめに来た”が正しいかも」
「本当に恵まれん。運持ちはカーナだったからな……くそ、寒い」
三人が背中合わせで立つその周りには、数人の“ヒト”が居た。“人”——市民が着る服装をしていたが、肌は血の気がなく白い。少しずつ間合いを縮めてくるが、歩き方がぎこちなく見える。指や肘、膝の関節が動いていない。
「あーもうお前らはゾンビかよッ……ゾンビならゾンビらしくギシギシ言ってりゃ良いんだ!」
「円堂、剣出しても無駄だ。直接攻撃は効かないと思うぞ……ゾンビだとすれば、だが」
その一声で、円堂と、剣を出しかけた風丸は苦い顔をして仕舞う。因みにこの世界の武器はほとんどが召喚型である。故に、茜のように持ち歩くのは珍しいのだ。
「ならあれか。魔道で攻めるしか無いってか? ったく、暗い中で……面倒臭ェ」
「風丸そんな奴だったか……? まあ、面倒だがな」
彼らは何をしているのか? 桜に向かって走っていたのでは無かったのか?
*
「ッ!? カーナちゃん——!」
無意識に後ろを振り返った天月。カーナの背中に向かう真っ黒なナイフを見つけ、反射的に大声を出す。
カーナもまた、同じように危険を察知した。横を向いて後ろに飛び退けると、目の端でナイフを捉え、それに手をかざすように向ける。
「<プラスマイナス>」
カーナがナイフを避けた今、切っ先は目の前の大木を向いていた。カーナが叫ぶと、ナイフは“方向転換”した。飛んできた方向、即ち投げた相手の元、生い茂る茂みの向こう側へと。
茂みに隠れた相手は、一本目が外れたとなると再びナイフを投げ、そのナイフはまたもやカーナを狙っていた。一本目に気が向いていたカーナは、二本目を避けるところまで考えていなかった。
——グサッ、
「うあ゛ッ——」
「カーナちゃん!!」
幸い、横を向いていた為、背中に当たることは無かった。しかし、ナイフは左の二の腕に突き刺さる。カーナはぐらりとふらつきそのまま倒れていくが、寸前で天月が抱き抱える。
天月はナイフが心臓と同じ位置の高さにあることに気付くと、目を開かせた。とにかく、このナイフを何とかしなければ——
「ギャアアアァァ——……!」
後ろから、人の断末魔が響いてきた。カーナが“跳ね返した”一本目のナイフが刺さったのだ。
荒い息の中、カーナは自分に突き刺さったナイフを、もう片方の手で探る。持ち手に辿りつくと、それをしっかり持った。
「カーナちゃん……まさか? 待って! その前に、」
天月の声が途切れた。忠告をよそに、カーナは顔を歪ませてナイフを引き抜いた。押し止められていた鮮血が流れ出す。自分の手と、カーナの衣服を赤く染めたものを見て、天月は蒼白になった。だが頭を振ると一呼吸おいてから、語りかけるように呟いた。
「<緑現象・癒風ノ空間>」
二人の間に、心地よい風が流れた。すると、少しずつカーナの傷口から流れる血は消えていき、血が止まった。どこからか布を取り出すと、それで腕を縛った。
「血は止まったけど、傷そのものが塞がった訳じゃないから……動かないでね。——さてと」
カーナを茂みの中に横たわらせると、立ち上がり桜の木を見た。正確には、木の枝を。
「貴方かな? ナイフを投げろと命令したのは」
いつの間にか、上に女が居た。桃色の桜とは合わない、黄色の髪。真っ白なローブを風になびかせ、天月を見下ろしていた。
「さすがだね、私の“付き人”を倒しちゃうとは。アッハッハッ!」
「何が可笑しいの」
「アハハ。この石……綺麗だよね? 『希望ノ石』だっけ? 私はこれが欲しかっただけなのに。仲間が殺されちゃうとは、何とも愉快じゃない!」
「! それ……どこから持ってきたの? 返しなさい!」
「企業秘密って言葉知ってる? だから駄目。返すのも駄目」
「私はもう帰るから、こいつらがお相手してくれるよ? アンタもそのまま死んじゃえばもっと面白いね!」
突然強い風が吹き荒れた。桜の花びらに混ざるように、女の姿が揺れた。と、思うとすぐに消え、風もおさまる。
そう、“ヒト”この少し後の時間で、茜達とも対峙する“ヒト”が、天月の前に三人現れていた。
天月はそれらを睨むと一言呟いて、リボンを乱暴に取ると、真っ黒な髪が下ろされた。
「……もう、これにはなりたくなかったけど。人を助けるんだよ、あたしのバーカ」