二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 魔道の世界--旅人達は--*稲妻*  ( No.73 )
日時: 2012/01/06 14:48
名前: 紅闇 ◆88grV3aVhM (ID: dNKdEnEb)




8話



「……ッ、不意打ちなんて、手荒な真似してくれますね……」

 天月は声がした方を、驚いて振り返った。
 木に寄り掛かりはするものの、ヒトを見据えてカーナは立っていた。左手に短剣を持ち、もう片方の手は軽く握り締めて。

「カ、カーナちゃん。貴方刺し傷があるのよ! 休んでなきゃ、」
「いえ、美結さんの手当てのおかげでもう大丈夫です。有難う御座います。やられて放っておく程私は馬鹿じゃない」

 元の落ち着いた表情に戻り、天月の横に並ぶ。それを、信じられない目で見ていた天月は、軽く溜め息をついた。

「もう……! ちゃんと見て無かったって、あたしが怒られるじゃない……本当に平気なの? 悪化しても知らないよ?」
「無理をして倒れても、責任は自分にありますから。美結さんは知らん顔してて良いですよ」
「あー、何で貴方達はそんな事言えるのかなぁ……! ——知らないよ、あたしは何も見て無い」

 横目で見ていたカーナは、天月が鎌を出して前に飛び出して行ったことを悟る。温和な彼女は消え、冷たく冷酷にその鎌を振り下ろしていた。
同一人物とは思えないその姿に、天月が言っていた言葉が浮かぶ。

「二重人格。実在したのですね、紅い堕天使は。くだらない噂だと決めていましたが……信じますか、仕方ない」

 カーナは、噂を耳に挟んでもそれを信じない。少なくとも、この目で見るまでは。情報収集の分担を任せられているカーナは、“紅い天使”の異名を知っていた、ということになる。
自分は決めている。人に対して必要以上の詮索をしないと。何を言われても黙っていると。



 一方天月は、敵を一人ずつ倒す為に牽制をかけ、その内の一人に狙いを定めた。縦に振り下ろした力を横に変え、相手を吹き飛ばした。
後ろから襲い掛かる敵を振り返って確認すると、鎌から片方の手を離し、掌を正面に向けた。

「<紅桜の舞>」

 刃のような鋭い風が、ヒトの腹に入る。体をくの字に曲げて、それは力尽きた。
 先程吹き飛ばした敵が、拳を作って殴りかかる。後ろまで意識していなかった天月はそれに気付かず、ギリギリの所でそれを避ける。体勢を崩し膝をつく彼女に、容赦なく殴ろうとするヒト。

 もう少しで当たる寸前、天月は諦めて目を瞑る。だがその衝撃は来ず、おそるおそる目を開けた。


「ちょっと危なかったです。美結さん、戦いは死ぬまで諦めたら駄目なんですよ?」

 目の前には手を差し出すカーナと、その足元に転がるもの。かつてヒトだったそれは、背中に短剣が深く突き刺さっていた。
 あっけにとられながらも手をとって立ち上がる天月を見ると、カーナは微笑んだ。

「誰が、どんな性格であろうとも。美結さんは美結さんなのでしょう? なら、助けるのは普通ですよね」




「……そうだね。あと三人! 行くよッ——」







 夕刻に差し掛かるその日。何者かによって現れたそのヒトを、少しずつ倒していった。